第103話 回天冥獄陣、原子分解を粉砕す
文脈の修正、内容の加筆を行いました。
須藤が右手を上に上げるとあたり一面を青白く光る魔法陣が覆っていた。
「おい、なんだよこれ!?」
「バカ、たかが何か防御力下げるたぐいの補助の魔法陣だろうが、驚くなよ!」
「にしてもなんか不気味な感じしねえか?」
その中にすっぽり入ってしまった兵士たちは口々に不安を言うが、今のところ逃げ出す様子はない。
RPG7で武装しているという安心感と、国内治安騎士団督戦隊というある種の特権階級にいることからくる虚栄心が彼らを根拠のない自信に駆り立てて目の前の須藤へRPG7を撃ち込むのはまだかまだかと団長のイーストマンの命令を待っている。
イーストマンは相変わらず余裕めいた態度を崩さない。
「これは魔法による結界か?ハッタリをかましても無駄だスドウ!」
「分からないのか?お前らはもう俺に逆らうことすらできない」
須藤はゆっくりと、しかし自信に満ちた重みのある声で言った。
イーストマンは須藤の発言に嘲笑のこもった笑みを浮かべた。
「何を言い出すかと思えば内心では恐怖のあまり発狂しかけているのか?こんな魔法陣を発生させたところでさっきから我々に何の効果もないではないか!?ハッタリごときでごまかせると思うな小僧!!!!」
「ならもう一度ご自慢の必殺技“原子分解”とやらをお見舞いしてもらおうじゃないか、おっさん!」
須藤は身構える。
それを見たイーストマンの顔に静かに怒りがこもった。
「この世界で多少の魔力に目覚めたのか知らんが、よほど本当のあの世へと旅立ちたいそうだなスドウよ!!」
「ならば喰らえいぃぃぃぃ!!!!呪言・原子分解いいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!」
自信満々に原子分解を両手から放とうとするイーストマン。
禍々しい黒い光が両手に集束して・・・・・こなかった。
「なっ・・・、何い!?何故だ、なぜ“原子分解”が発動しない!?」
「まっ、まさか・・・!」
イーストマンは脳内で自らのステータスを表示した。
すると。
魔力:0
異能発動:0
“呪言・原子分解”:発動不能
・・・・・・
表示された己の能力値に彼の背筋が凍り付いた。
「そっ、そんなはずは・・・・・・。さっきまで魔力はまだ十分会ったはず!?なぜ急にゼロに!?」
「どうだおっさん。ご自慢の必殺技が使えなくなった気分は?」
「なんだとっ!? まさか貴様の仕業か須藤!?一体何をした!!!!」
「ご名答。あんたのご自慢の魔法も異能の力ももはや使えない。あんたの“原子分解”とやらも封じてしまえば痛くもかゆくもない」
歯ぎしりをするイーストマン。
「ばっ、バカな!?オレの魔力のレベルはこの世界では第一級魔導士に匹敵する・・・・・・。オレのそれを封じるとはどんな呪文封じの類を使ったか知らんが・・・・・・。ならばこれでも喰らえええ・・・・、え!?」
イーストマンは地獄の吹雪を放つアイスブロウを口から吐こうとした。
が、これまた何も出ない。
イーストマンの顔に脂汗が滝のように流れ始めた。
「ちゃんと人の話を聞けよ。意外と頭回らないんだな、おっさん?魔法を封じたのは事実だがそれだけじゃない」
「俺の秘儀“回天冥獄陣”は魔法力だけでなく、ありとあらゆる異能の力を持つ対象を意のままにできる必殺技だ。少しでも魔力とか異能の力を持つ者は俺のこの技にかかればただの木偶人形に過ぎなくなるということだ」
「何だと!!?お前、まさかあの伝説の秘術“回天冥獄陣”を極めたというのか!?伝説の秘儀としてこの世界でも幻と言われていたが・・・。なぜおまえのようなガキごときが使える!?」
「お前に説明してやる義理はない」
「さて、お前はどうも色々この世界のことを知っているようだな、教えてもらおうか?」
「誰に物を言っている小僧!!オレは国内治安騎士団団長イーストマンだ!!魔法が封じられたごときで、であっ!!!ぐはっ !!!!いでえええええええ !!!!!!!!」
剣を素早く抜き、須藤に飛びかかろうとしたイーストマンはしかし、うつぶせに勢いよく倒れこんだ。
主の手から離れた両刃の大剣が鈍い音を立てて固い地面に落ちた。
「おっさん話やっぱ人の話聞く気ないみたいだな。俺の“回天冥獄陣”は魔法を封じるだけじゃないって言っただろ?」
「“回天冥獄陣”は少しでも魔法とか異能の力を持っている奴を意のままにできる。そのまま魔力を暴走させて跡形もなく吹き飛ばすこともできるし、洗脳して操ることもできる。果ては何でも聞きだすこともな!もはやお前は俺の意のままに動かされるだけの存在だということだ!」
「いっ、イーストマン団長!!」
周囲で様子を見ていた兵士たちが一斉にRPG7を構え放とうとした。
そんな彼らを一周で死の雨が襲い掛かった。
ブウウウウウウッッッッッッッ!!!!!!!!
「ぶげっ!!!!」
「ぎゃんっ!!!!」
「いや死にたくなんべ!!!!!」
「あなたたちの相手は私たちよ!!」
再びゴーレムに搭乗したルイーゼが30mmバルカンで兵士たちを掃射したのだ。
指揮官のイーストマンを組み伏せた須藤に意識が集中し、上官の言いなりにならなければならない国内治安騎士団の督戦隊はルイーゼたちのことを一瞬注意から外していた。
バルカンの掃射で肉塊とかした同僚を見て督戦隊の兵士たちは次々とRPG7を放り出して逃走を開始した。
「さあ質問に答えろ!俺はなぜこの世界に召喚されたんだ !お前なら何か知っているんだろ!?」
憤怒の表情を見せながら須藤はマブクロからあるものを取り出した。
「スコットの所持品の中にはこの警察手帳があった。猪頭徹警部補。所属は警察庁特別公共調査局…とだけある。こいつを見るかぎり奴はどうも警察官だったらしいが、俺は少なくとも日本にいた時、警察庁特別公共調査局なんていう部署を一度たりとも聞いたことがない」
「不可解なのはそれだけじゃない。なぜか所属に関することはそれ以外に詳しい情報が書かれていない」
「それにもましておかしいことは、なぜ警察官がこの世界で冒険者になっていたのか?さらにはモンスターにまで進化して俺を殺そうとしたのかだ!」
「答えろ!」
鋭い怒声を目の前で無様な姿をさらす男に浴びせかけながら須藤はマブクロに手を突っ込んだ。
袋から引き抜いた右手にはFN・M1935ハイパワーピストル・タンジェントリアサイト付キャプテンモデルが握られていた。
倒したブラッディデーモンから鹵獲した2丁のうちの1丁だ。
弾倉を抜き、9mm×19パラベラム弾が装填されていることを確認した。
拳銃本体に弾倉を差し込み、スライドを引いて薬室に第一弾を送り込んだ。
うつ伏せになった状態のイーストマンに銃口を向けた。
タンッッッ!!!
念のためにイーストマンの顔の横に向けて一発引き金を絞った。
手にしているのがオモチャの類ではないことをイーストマンに一瞬で悟らせたことで、彼の表情に余裕がなくなった。
「まっ、待ってくれ!!オレだって好き好んでこんな仕事をしているんじゃない!!おっ、お前は・・・・、教祖様の教育方針にとってとてつもなく不都合な存在だったからだ!!」
「教祖様だと?そういえばスコットも同じことを言っていた。お前も“始原の暁”とかいう組織の一因か!?」
「そ、そうだ!オレだけじゃない!この世界も、そしてお前の元居た世界、つまりオレの所属する組織がある日本の主要な企業、公的機関、メディアなど有名どころの主要な組織の社員、職員、構成員はほとんど“始原の暁”のメンバーか、少なくともシンパだ!多かれ少なかれな!」
「それはスコットも同じようなことを言っていた。俺は日本政府の新世紀教育改革法とかいう計画の上で不都合な存在なんだってな!?俺のようななぜか都合が悪いと一方的に認定された存在をこの世界に飛ばして異世界転生ものの主人公みたいなことをさせるんだってな!いったい俺の何が不都合なんだ!!」
「そっ、そんなところまでスコットの野郎はゲロったのか!!あのバカ野郎め!!!!」
「俺の何がそんなに不都合なんだ!?新世紀教育改革法の目的は一体なんだ!?」
「はっ、話すわけにはいかん!!!!俺の家族まで皆殺しにされる!!!!」
「皆殺し?お前の所属してる“始原の暁”ってそんなやばい組織なのかよ?」
「警告する!お前はあまりにも・・・、あまりにも余計なことを知りすぎた!!!!どれほど強大な力を得ようとも貴様にはもはや安寧が訪れることはない!!覚悟しておくんだな小僧!!」
悪あがきを見せるイーストマンの頭の神経へ、須藤は頭の中でガラスをひっかく耐え難い音を想像して音量を十倍以上にして送り込んだ。
イーストマンは耐え難い苦悶の表情を浮かべて泥の中をのたうち回った。
「お前の正体は?」
「けっけ、けい、警察庁特別公共調査局所属・伝小路悟だ!!!!それ以外は教えられん!!!!やめてくれ!!!!!頭の神経が引きちぎれそうになるんだ!!!!」
「そうかい」
周囲の兵士たちは皆敵前逃亡し、ここには団長のイーストマンのみ。
うつ伏せになったイーストマンを須藤は蹴り飛ばして仰向けにした。
須藤は“回天冥獄陣”の力を用い、イーストマンの魔力を逆に利用してさらに耐えがたい苦痛を味合わせる。
「ぐぎゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
「知っていることを全部吐け。“回天冥獄陣”から逃れられると思うな、おっさん!」
「言う気がないなら聞き出すだけだ」
しばらくして、イーストマンは自らぜひ疑問にご回答させていただきますと申し出てきた。
須藤はまず新世紀教育改革法の事から説明をさせることにした。