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第100話 アーガスの血風

お読みいただきありがとうございます。


おかげさまで今回100話目を迎えました。


ハイン王国編ももうすぐ佳境を迎えます。


さらに物語は進んでいきますのでこれからもどうぞよろしくお願いいたします。


幻影の狙撃手



クラウディアの体と周囲が赤い光に包まれ、周囲の小石が吹き飛び土煙が高々と舞い上がる!


「魔力を集束させ格闘技と融合させた魔導武術!?それもここまで集中させるとは見たことがない!」


両手にガーバーマーク2を順手の状態で握り、クラウディアは陸上競技のクラウチングスタイルをとる。

今にも飛びかからんという表情と雰囲気。


ダッッッッッッッッ!!!!!!!


脱兎のように地面を蹴ったクラウディア!

その姿がモールスとシュヴァルツの視界から消えた!


シュヴァルツとモールスは周囲を慌てて見回すが姿を捉えられない。


「こしゃくな!エケンヌングリヒト!」


シュヴァルツの脳内に周囲の情報がコンピューターの画面のように映し出される。


気配探知:反応なし

魔法力探知:反応なし

戦闘力探知:反応なし

呼吸探知:反応なし


――どういうこと!


――どこに消えた!?


シュヴァルツは通信魔法でモールスの心に直接問いかけた。


――モールス!こっちの探知魔法に反応なし。そっちは!?


――こっちにも反応はない!あの女すさまじい速度で移動し・・・


モールスがシュヴァルツに警告しようとした時。


ガキイイイイッッッッッッッ!!!!!!!!!!

空手でいう両手同時に突きを繰り出す諸手突きの要領で両の手に握られたガーバーマーク2がモールスの心臓と喉を同時に狙った!

寸でのところで両刃の剣を抜き、クラウディアのガーバーマーク2を防いだモールス。


「ぐ!!!!!!」



シュヴァルツが叫ぶ途中ですでに黒い影がモールスの至近距離に到達していた。


その直後、シュヴァルツとモールスの脳内モニターにクラウディアの戦闘力などが表示された。

いずれの数値も常人の限界を超え、モンスターや熟練冒険者のそれすら超えるほどのレベル。

探知はできた。

だが、探知結果が表示されるのは攻撃されてから2秒後。


2秒も遅れればその隙に急所を突かれる。


モールスは研ぎ澄まされた本能的直観で攻撃を無意識に防いだが、それでも皮膚をガーバーマーク2の鋭い突きで切られた。

不快で継続的な熱を帯びた痛みが彼の肩口に走った。

「ブゲッ!!!!な・・・・何ということだ・・・!たかがメイドごときにこれほどの」

「だが、ここを通すわけにはいかん!ベルリオーネを渡してもらおうかクラウディア!おおかた女王とコンスタンチンの命令で俺たち国内治安騎士団の動きを出し抜こうとしているのだろうが、そいつを女王側に引き渡すわけにはいかんのでなあ!!!!」


やや間合いを取ったクラウディアはしかし能面のような表情を変えない。


モールスはそんな彼女に剣を構えて襲い掛かった!

強がるモールスは間合いを詰め彼女に斬りかかるが全くかすりもしない。

さらにクラウディアと白兵戦に集中するあまり、彼女の身から半径30メートル圏内に渡って発せられている赤いオーラの内側に入りっぱなしになっていることを気に留めていなかった。

アドレナリンで体の痛みなどがマヒした状態のモールスは、オーラの中で急激に自分の魔力を行使しにくくなっていることに気づかなかった。


一方、シュヴァルツはクラウディアの体から発する赤いオーラに魔導士としての本能的な不気味さを感じて無意識のうちに100メートル以上の距離を取っていた。






彼女の秘儀“アーガスの血風”。


ギリシア神話における100の目を持つ巨人アルゴスの名を冠するこの技はナイフ格闘術と拳法、そして攻撃魔法とスピードをアップする補助魔法を高度に組み合わせた魔導武術である。

自らの周囲に赤い魔力を帯びたオーラで覆い、そのオーラの内幕に入った者、すなわち彼女の攻撃の有効射程範囲に入った者の周辺を人間の目でとらえられないほどの高速で移動しながら休む暇なく死ぬまで斬撃と突きを左右上下から高速で繰り返す連続技である。

赤いオーラ内は相手の魔力を無効化する効果があり、その中に入ったが最後、全身のすべての箇所をめった刺し及び千切りにされて絶命するまで攻撃が続く暗殺系魔導武術の最高峰の技の一つである。


魔法が頭の思考の中におけるイメージ、魔法陣や魔導書の呪文や図形・文字などを詠唱・イメージするなどの形で現実に引き出して発動することで現実の世界に影響を及ぼす性質を持つ。

対して武道武術はイメージを頭に浮かべる点では魔法と似た要素があるが、元から生物の生存に必要な生命エネルギーである“気”を無意識かつ具体的に身体の動作の形で戦うための力に転化する形で使用する点が魔法と異なる。


極限まで収束された魔法力と武術的集中力によって練られた気の力を同時に発動することが要件であるこの技は魔力の鍛錬と武術の気の鍛錬が不十分な通常の人間にはその力に耐えられず精神と肉体が自己崩壊して廃人と化す危険極まりない技である。

そのため、相当レベルを上げた上級冒険者や上級モンスターですら、魔力と武術の気の鍛錬という、似てはいても方向性が違う力の要素を同時に発動することは相当な負担を心身にかけるため使用できる者はかなり少ない。






ガキキイッッッッッッッ!!


ズッ!!!!ヒュン!!!!


ズガッ!!!!


「グウウ!!!!何のこれしき!!!!」


「ぶっ・・ぐわっっっ!!!!」

強がりを言いながら赤いオーラの中にとらわれたモールスの体に見る見るうちに刺し傷と切り傷ができていく。


ガーバーマーク2が血を滴らせながら小綺麗な服を血に染め、モールスの体から引き抜かれていく光景がスローモーションのように遠目からシュヴァルツの目にも映った。


ズッ!!!!

「ぐわっっっっ!!!!!」

ガーバーマーク2の両刃に背中を複数ヶ所刺されたモールスの体に激しい痛みが複数ヶ所走る!


先ほどからシュヴァルツは距離を取って赤いオーラめがけて補助魔法などの効果を無効化する魔法をかけ続けているが全く効く様子がない。


――――外部からの魔法をも無効化するマジック障壁の類か!!なんつうふざけた武術誰だよこんなもん創始しやがったのは!?

心の中で悪態をつきながらシュヴァルツは懸命に魔法でモールスを援護しようとするが赤いオーラに当たるとすべて無効化されて焦りが生じてきた。

見る見るうちに傷だらけになり、いつの間にか肩で息をする状態になっていたモールスにシュヴァルツは叫んだ。

「まずいよモールス!!引けっ!!」


「何っ!?たかがこれしき、っておいっ!!」

シュヴァルツは血相を変えてモールスの体をつかみ、全速力で赤いオーラの範囲外に出たあと、さらに300メートル以上離れた場所へ転移魔法を使った!


「あの赤いオーラの中に入るな!!あいつは自分の命が尽きるまで無呼吸に近い感じで攻撃を繰り返す!!スキはない!!」


「魔導武術の使い手とは報告で知っていたがここまでのレベルに至っていたとは・・・・。コンスタンチンめ、神性銀の調合をかなり完成しているようだな!」


彼女たちの位置を確認したクラウディアが突撃する構えを見せた。


「来るよ!!!!」

「ぶっ、ムカツクメイドめ!!!!」


しかし、間合いは約300メートル。


シュヴァルツはクラウディアの技のあまりの威力に警戒して距離を取りすぎてしまっていた。


距離が離れていることを瞬時に確認したクラウディアはその場で周囲を高速移動して巨大な土煙を発生させた。


「なっ、何をする気だ!?」


モールスが叫ぶ間もなく彼女の姿が見えなくなった!

急いでシュヴァルツとモールスは探知を開始するが、特別な赤いオーラをまとった彼女の魔力や気を探知することはできない。オーラは発動している間のみという条件付きながら、外部から魔力などを探知されることさえ無効化する効果がある。


そして土煙が晴れてきたとき、彼女とそばに気を失って横たわっていたベルリオーネの姿はなかった。


「しまった!逃げられたか!」

「大声でしゃべるなよモールス!今回復してっから!!」


シュヴァルツの回復魔法でモールスの傷は治ってきたが、それでもかなりの深手が複数ヶ所あり、彼ほどのレベルの持ち主であってもクラウディアの技が危険極まりない攻撃力を持つものであることはシュヴァルツの脳内からいつもの余裕を消し飛ばした。


「モールス!応急処置は済んだけど完全回復は私でも無理だ!一旦本部へ戻って・・」

「いいやシュヴァルツ!クラウディアが向かうとすれば女王とコンスタンチンの元だ!追うぞ!」

「でも今のあんたじゃやられるよ!イーストマンと合流するべきじゃ・・・」

「ベルリオーネのことで教祖様の起源を損ねたらまずい。まして女王とコンスタンチンにベルリオーネの捕縛のことで先を越されたとなれば教祖様の機嫌を損なう!女王側の株が上がれば我々の首が危うくなるぞ!行くぞシュヴァルツ!!!!」


「はいはい!言われなくても!」


シュヴァルツは空間に隠したマブクロから専用箒を取り出して跨り、空に舞い上がって城へと向かった。モールスも飛行魔法で続く。


眼下には燃え盛る城下町と本部が広がり、城下町の市街地では正規兵が国内治安騎士団督戦隊の監視と目の前のゴーレムがまき散らす死と破壊の現実の中で絶望的な戦いを繰り広げていた。



ハイン王国の首都で今、思惑の異なる者たち同士の戦いが激化していく!


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