部
初回の授業はほぼオリエンテーションだった。授業は午前と午後の2回ある事、5日に1回は休みがある事、寮の決まりを守る事、そして、何らかの部活へ入るのがおすすめな事などが言い渡された。その後教員は適当に親睦を深めるよう言ってさっさと教室を後にした。生徒達は思い思い近くに座っている者に自己紹介や挨拶をした。
「オレ、オクオク。よろしく。」
「オレもオクオク。よろしくな。」
「じゃあオレもオクオク。よろしく。」
前の席にいた三人の男子が二人に声をかけてきた。一人目は小柄で隈がある。二人目は体格がよい。三人目は細見で背が高い。もちろんロゼはこういう時の返し方を知っている。
「そうか。私もオクオクだ。よろしく。」
「え!? そうだったの!?」
「なんでオレ以外ちゃんと名乗らねぇんだ!」
小柄な男子は憤慨した様子で立ち上がった。それから男子二人を指さして、「お前がフウワン! お前がロックだろ!!」と怒鳴る。それを受けても、二人はまだ観念しない。
「オレがロック。」
「オレがフウワン。」
「逆だろ!!!」
オクオク、フウワン、ロックの名前がやっと正しく認識できる情報がそろったが、実はロゼはそれどころではない。リーアによってすごい力で両肩を揺さぶられているからだ。
「わたしに嘘ついてたの? ねぇわたしに嘘ついてたの? それとも本名がワロゼリオ・オクオクなの?!」
「まて、落ち着け。冗談なんだ。そういう流れだったんだ。」
リーアは間の抜けた声を発しながらやっとロゼを解放してくれた。すかさず話題をオクオクに振って、ロゼは追及から逃れた。
「私はワロゼリオだ。」
「知ってる。」
「主席としてなんか読んでたからな。」
フウワンとロックがうなずきながら返してくる。そのまま目で促すようにリーアの方を皆が見た。
「わたしはリーアよ。」
「知ってる。」
「主席としてなんか読んでたからな。」
「違うが!?」
フウワンとロックは満足そうにニコニコと笑っている。オクオクは自分以外へからかいの的が向いて満足した顔をしている。
「「ところでリーアちゃん」」
フウワンとロックの声が重なり、二人は目を合わせる。
「「部活は決まっている?」」
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この世には二種類の蟲がいる。相撲をするやつとしないやつだ。蟲相撲好きに言わせると、世界はこのように分類できるらしい。そしてフウワンとロックも、無類の蟲相撲好きである。
「今場所で一番アツいのはなんといってもアトスラスとダーモーモの因縁の対決だね。二年前の初出場から今まで一切の負けなしアトスラスに対して、アトスラスとの対決まで五年間無敗だった熟練者のダーモーモ。去年の対決でアトスラスに白星が上がっているものの、怪我でアトスラスは半年休んでいた。復帰そうそうにダーモーモとやりあうのは厳しいものがあるかもしれない。」
「軽量級じゃぁその二頭かもしれないが、無差別階級なら話は違うね。ゲルデンヴァルスの連戦連勝がどこまで続くのかが最も見どころだよ。このままなら次はトツチカ、その次はチャンピオンバルーガとやることになるんだからね。」
二人はリーアに熱弁をふるいながら先導し、蟲相撲の部活動をしている場所へ案内をしている。リーアは二人の気迫にたじろいだ表情をしながらも、足取りはずんずんとすすんで関心の高さを示している。
「アトスラスとバルーガぐらいなら少し聞いたことがあるけれど他はあまりわからないね。」
ロゼは面白いものが見られる確信があるのかニマニマしながら三人の後をついていく。そしてさらに後ろをオクオクが詰まらなさそうに歩いている。オレが最初に話しかけたのに、とぼやく声が聞こえた。
第二中庭は蟲相撲のためにあるような場所だった。なにせ庭の中央には土俵が備え付けてあるのだ。土俵の周りでは上級生が掃除をしていたり、大きな蟲に乗って背中を磨いたりしていた。彼らにとって神聖な場所なのだろう。手入れが行き届いている。何人かの上級生がこちらに気が付き、そのうち眉の小さい上級生一人が「やぁ新入生見学かい?」と声をかけながら近づいてきた。すかさずフウワンとロックが、「「このリーアが道場破りだそうです!!」」と叫んだ。




