コラージュ
どよどよと集まってくる好奇の視線をかき分けて、二人は食堂の奥へ進んた。リーアはロゼの横顔をチラリと見て息が詰まった。能面の様に無表情だったからだ。奥から奥から湧いて出るように野次馬が現れる。しかし皆一様に、ロゼの顔をみては黙って戻って行った。静かさがゆっくり伝染していき、食堂内は誰も一言も発さなくなった。こちらを気にせずに談笑していた者達も、いつのまにか聞き耳を立てている。
静まり返った食堂内にコツコツと足音が響いた。硬い靴の裏が石畳に鳴る。誰かから報告を受けたであろう男性の教員だ。両手を後に組んで、眉を寄せている。赤茶色の髪は長く、少し体が猫背になっている。音がさせるのか迫力がさせるのか、教員が進むと反発した磁石のように生徒達は道を開けた。ワロゼリオ君、と一言発して目を合わせたら、一泊置いてさっさと踵を返してしまった。付いていかなければならないらしい。
リーアはロゼの広角が少しだけ上がったのを見逃さなかった。きっとまた何か考えがあるに違いないのだ。食堂を出ようとする二人を追いかける。来るなと言われていないのだ。構わないだろう。
食堂を少し離れてから、教員が前を向いたまま話し始めた。
「入学式が午後からある。君はそれまでに不正疑惑を拭わなくてはならない」
ロゼは黙ったままだ。代わりにリーアに振り向いて、ニヤニヤ笑っている。「な?言ったろ?」とでも言いたげだ。
「不正者が教皇様に挨拶する事は許されない。しかし反教皇派等が刺客を送り込むための手口かもしれない為に、安易に代理人を用意も出来ない」
教員が後を振り向くと、ロゼの笑顔は引っ込んで、元の能面に戻る。リーアはそれが面白くて、堪えきれずにぐふっと吹き出した。じろりと教員がリーアを睨む。
「職員の立場では手っ取り早く君の疑いを晴らす事が都合が良いわけだ。よって、抜き打ち試験を行う」
そこまで聞いてリーアはようやく合点がいった。何故ロゼが愉快そうにしているのか。入学試験の問題は簡単に用意が出来るほど優しくない。一方でロゼの実力を十分に確かめるにはレベルの高い問題である必要がある。サッと用意できて且つ難しい試験を準備する方法は限られている。例えば、「過去の試験から流用する」などがある。
「さあ入り給え、準備は出来ている」
片方だけ空いた扉から、薬品のような臭いが漂った。何人かの人間の話し声も一緒に聞こえてくる。
ロゼはまた一瞬だけニヤリと笑ってから、部屋へ入っていった。教員も中へ入るが、思い出した様に首だけをリーアへ向けて、「ワロゼリオ君の友人なら、彼女の朝食を確保してきてくれるかな」と言った。
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夕食は言われていた通りの豪華さだった。肉に野菜にキノコに芋。何と焼菓子も沢山ある。ロゼは隣の人の物をコッソリ盗ってまで肉を食べている。リーアは自分の分が取られないように警戒している。口の中がいっぱいのまま、ロゼは話し始めた。
「部屋と仲間が必要だ。部屋は聞き耳を立てられないやつ。仲間は社会的信用のあるやつ」
入学式は何事もなく終わった。リーアはじっと座っているのが退屈過ぎて死にそうだったが、なんとか乗り切った。ロゼも問題なく抜き打ち試験で満点を取り、教皇への挨拶も噛まずに読み上げた。
「部屋でないと駄目?人通りのない廊下とか、その辺の屋根の上とかはどう?」
「廊下は良いが屋根は駄目だ。私が登れない」
ありったけ胃袋の中に食事を詰め込んで、ウトウトしながら二人は席を立った。ロゼは干し肉をポケットの中にいくつか突っ込んだ。リーアは焼菓子を突っ込んだ。
そのまま寮部屋へは戻らずに、二人はロゼが試験をした部屋へと向かった。正確には部屋の少し手前の廊下である。そこは見通しが良い上に左右に部屋がなく、ちょうど密談するには良さそうだった。
「聞かれちゃ駄目な話って何なの?」
二人は壁に寄りかかって、ロゼは来た道を、リーアは行く道をそれぞれ見張った。
「社会的信用の高いやつのアタリはつけてある」
「……別に誰かに聞かれても良くない?」
「何故必要なのかが重要なんだ」
「近々裁判にでもかかるから、弁護人がいるとか?」
「脅迫状を書いた者と、いたずら書きをした者は別人だ」