リーア
「わたし、家の話ロゼにしてないよね?」
「聞いても私の首は繋がったままか」
「そこまで分かってるなら一緒よ」
場所を変えるかロゼは提案したが、リーアは首を振った。そんな事は無意味だと言うように。
「わたしの父の名前はマクベリ・アズマンド」
ロゼの瞳が小さくなる。
「思ったより大物が出てきたな」
「名前が知れてる時点で二流なのよ」
顎を引き、リーアの眼光をショートボブが隠す。
「ロゼが飛び級して、わたしが主席になったでしょ? 主席ってそれなりに有名になるでしょ?」
「諜報一家としては致命的だな」
「帰ったら学校へは戻ってこれないかも」
「というか、学校の敷地から出ないほうがいいな」
「やっぱり? わたし、兄弟の仲で一番出来が良いらしくて。 絶対油断してくれないのよね」
「今は監禁しようとしてくるだろうが、最終的には殺されるんじゃないか?」
「感情的に行動するとよくない」
リーアはロゼのベッドに倒れ込んだ。やる気なく全身の力を抜いている。
「どうするんだ」
「絶対にお父様の言いなりになんてなりたくない」
「反抗期だな」
「絶対わたしがいなくても普通にお家安泰なのに、何か狙ってるのが嫌なの。わたしには『伝統を重んじろ』って言うのに、自分は伝統を無視して新しい取引相手を探してるし」
「顧客開拓は伝統違反なのか」
「はっきり書いてる伝統はないけど、代々保守的なの」
ロゼは手紙の内一つを無造作に取り上げて、封蝋をリーアに見せた。トンボが象られている。封を開けて、会話しながら読み始める。
「私がお目通り叶うのはフライトスタイン大司教派だけだ。できる事は少ないぞ」
「逆にどうしてそんなコネがあるのよ」
「週末だけ大司教様の別邸に家事見習いとして入っている」
リーアは、「そこに行きつくまでが知りたい」という言葉をぐっと飲みこんだ。どうせ聞いてもマネできそうにない。実家の影響度的にも、フライトスタイン派になったからと言って問題を解決できるとも思えなかった。
ロゼは疑問を見透かしたように、「私はリーアの身体能力の方が疑問だ」と言い返してい来る。
「今日は用事ないの?」
「あったが、変更を考えてる。本気で神学を習得しないとな」
「どういう事? 今の話繋がりあった?」
「大ありだとも。私は今、反物、染色液、手袋の三つの労働組合に顔を出しているんだが、どうも圧力が強くてな。大抵、よそ者だから信仰心が薄いと難癖付けられる。額面通り受け取って、ゆっくり馴染んでいくつもりだったが、そうも言ってられなくなった。早急に社会的圧力を得る必要がある。で、信仰心難癖を黙らせられるだけの教養が必要と言うわけだ」
「まって、知らない。反物、染色液、手袋? 労働組合で何してるの?」
リーアは頭を抱えた。それを見ていたわけではないが、ロゼも頭を抱えた。
「あー。リーアの父さんは優秀だ。行動が速い」
手紙は正式なフライトスタイン派の使節としてアズマンド主催茶会へロゼが指名された知らせだった。
どうやってフライトスタイン大司教の元で働いているか。※読まなくても良い
彼らの文化圏では、人々は礼拝する集会所を持ちます。集会所は修道者をトップにして様々な身分の人が一様に集います。ロゼは学祭の時にフライトスタイン大司教に「自分は隣国から来たばかりでまだ何処の集会所にも参加してない。貴方と同じ所に入ってよいか」と聞いたわけです。当然、修道者がそれを断れる道理はありません。そうすると、「大司教の推薦で集会場に入った者」という肩書が得られるわけです。その信用を担保に、大司教と共に集会所に来ていた仲働きに就職願いを出したというわけですね。まるでバグ技みたい。




