シャルドニクス
シェルギスタンは、ジルガンティアの東にある王国である。国土は約三倍。雨と嵐が多く、豊な自然がある。白色で巨大、世界一美しい王城を備える。ロゼの故郷である。
「部下も碌に食わせてやれん」
背を丸く縮めた男が、眉間に皺を寄せている。立派な髭を蓄え、貧しい頭髪の印象をずらしている。
「そりゃぁ残念なこって」
ゲドーと名乗った背の高い男が、それに相槌を打つ。
「残念ではない。何も。ただ責任を果たせぬ自分に腹が立つ」
髭の男は路地の隙間から王城を見上げる。ゲドーもつられる。
「儂を笑うか? 間者」
「あたしぁ同類だよ」
外套の下で手紙を交換する男たち。ただの文通でない事は、鈍重な空気だけでわかる。
「次も頼む」
髭の男は城の方へ、ゲドーは反対へ歩きだす。湿った空気の中に鉄と革の臭いが混ざり漂ってくる。ゲドーが眉間に皺を寄せる。
路地を塞ぐように憲兵が並ぶ。唯一の羽付き兜が声を上げる。
「シャルドニクス殿だな。情報漏洩の容疑がかかっている。来てもらおう」
羽付きはシャルドニクスの腕を取る。木製の大きな手錠を部下にもってこさせ、乱暴に鍵を閉める。おとなしく捕まるシャルドニクス。
「家族は処刑されんようにするから、そのままついてきてくれよ」
ゲドーは手錠を付けられるのを渋ったが、槍を向けられて動きを止めた。
「助かる」
羽付きの兜にはコオロギの模様がある。シャルドニクスはそれを確認する。
「念のために聞くが、お主は王命で動いているのか?」
手錠に繋がる鎖を引かれるが、二人は微動だにしない。
「いや?ススヤ様の命だ」
羽付きが言い終わるや否や、シャルドニクスは体を軽く震わせた。次の瞬間、シャルドニクスの手首から先が取れた。平時の城下町にふさわしくない小手が付いていたが、それが手首ごと外れたのだ。そのまま重さで手錠を通り抜ける手。ガシャンと石畳に落ちる時、シャルドニクスの手首が横から差し込まれる。
「最強の兵法を知ってるか?」
一瞬何が起きたのか解っていない羽付き。シャルドニクスの一言で、ゲドーも何かを察したのか憲兵を振り払ってシャルドニクスに寄る。即座に拳で手錠が叩き割られる。
「なっ! 逃げる気だ! 出口を塞げ! 隊列を整えろ!」
路地での混戦は不利と悟った羽付きは即座に引いた。
「いい判断だ。儂でもそうする」
ゲドーがいつの間にか憲兵の槍を奪っている。鋭く構えて牽制。
拳を大きく振りかぶり、憲兵に向かっていく。と見せかけて直角に向きを変えるシャルドニクス。目標は民家の壁だ。土と藁の壁はいとも容易く貫通し、人ひとりギリギリ通れるほどの穴が開く。そのままそこに飛び込む。
ゲドーも続く。穴から外へ向けて槍が飛び出してくる。




