勝負
リーアの乗る単一角種は十分な脚力と、角を相手の下へ潜り込ませた時の圧倒的な決定力が売りだ。逆に、丸い体は掴まれやすく、初速が遅い事が弱点だ。しかし、リーアの戦法はこの弱点をどちらもある程度克服していた。リーアの動体視力をもって開始と同時にぶちかましを指示する事で、レベルの高い試合相手に食らいついている。また、相手に掴まれよう物ならリーア自身が飛び移って搭乗者を叩き落す選択肢がある。そういう意味でリーアとこの単一角種が決勝戦まで行くのは当然の事だった。
「西!!!電撃的首狩り娘と老連な単一角種のタッグ!!!!!リーア&ゼノーバー!!!!」
高らかに宣言される名前に呼ばれて、リーアと蟲は幕をくぐる。緊張は、しない。ファンサービスもしない。ゆっくり深呼吸を繰り返し、真剣に目の前の空間を俯瞰する。
「東!!!不動の安定感と圧倒的なパワーの五本角!!!!!モユユェ&ゴドール!!!!」
決勝戦の相手は眉の小さな上級生、モユユェだ。年長者としての経験から放たれれるテクニックと、蟲相撲会最強のパワーを持つ種族の一種である五本角種のタッグである。
「君がここに来るのを待っていた!!僕の学校生活最後の試合になる!!楽しませてくれよ!!!」
リーアはモユユェと一度も戦った事は無かった。機会が無かったわけではないが、部長の判断で禁止されてしまったのだ。蟲相撲部では、部長を除き、モユユェと「戦える」者はいない。誰と試合をしても、最初から確定された勝利と敗北への道筋を辿るだけなのだ。
「わたしは真剣に戦うんで、先輩は勝手に楽しんでてください」
黒子を着た小太りの男性が、またどこからともなく現れる。土俵の中央に立って、行司をするつもりだ。蟲相撲部としてはいつも通りの光景だが、観客席か驚きの声が上がるのが聞こえる。
それもそのはずで、今日は黒子の面が取れているのだ。よって顔が見える。そしてその顔はどう見ても学校長なのである。名前を宣言していた大声の実況者や、蟲相撲部関係者からすれば、公然の秘密であったので、驚きの声は上がらない。
「一本勝負、待った無し! 構えて!!」
校長はまっすぐにのばされた右手の先に黒い錫を持っている。今のリーアには、その手の先の僅かな震えまで、正確に見える。
しんと静まった観客席に、校長の声が吸い込まれていく。誰かが生唾を飲む音が聞こえる。蟲の重心が少し前のめりになる。
「発揮良い!!!!」




