前夜
季節は春が過ぎ、夏が過ぎ、あっという間に秋の中盤に差し掛かった。学祭が終われば年度末試験があり、試験が終われば冬の長期休みになる。年度中に友人と遊べる最後のチャンスである学祭は、実行委員だけでなく普通の生徒も十二分に楽しみにしている。むしろ、普通の生徒の方が実行委員として働かない分、楽しむ準備があるとさえいえる。
「君たちの努力によって、無事っっ!! 明日を迎えられる事をうれしく思うっっ!!」
学祭を翌日に控えるその日、最後の会議の締めにジェゼノベはそう締めくくった。ぱちぱちと、中庭に拍手がいくつか上がり、思い思い明日へ向けて委員の皆は解散し始めた。虫食いのように生徒達はゆっくりと減っていき、ロゼとリーアも食堂へ行こうかと話していた。
「少しいいかいっっ」
歩き始めたロゼとリーアの後ろから、委員長が声をかけてきた。いつも通りキレのあるはきはきとした物言いだが、どこか寂しそうに聞こえた。ほんのわずかに、小さな声だったからだろうか。
足を止めて目を見る二人に、委員長は「歩きながらで良いかいっっ」と言い放った。
「ワロゼリオ君には言っておかなくてはならないと思ってねっっ」
「何がです?」
「僕は元々、学祭が終われば死ぬつもりだったんだっっ」
リーアは驚いて「わたし、先に行ってようか?」と小声でロゼに聞いた。ロゼはリーアの手をぎゅっと握った。
「僕にとって、学祭は全てだっっ。学祭が無い人生には意味が無いっっ」
「何となくわかってました」
「君が何をしていたか、僕もなんとなくわかっているっっ」
ロゼの目がすっと冷え込む。今までそれを分かっていて黙っていると感じていたが、今になってわざわざ言いに来た理由を図りかねているのだ。
「君は規制推進派と反対派、両方の火付け役だろうっっ。対立を煽り、学校全体を学祭に巻き込んだっっ」
「まぁ、そうです」
日が傾き始め、食堂へ向かう道は徐々に朱色を帯びる。ジェゼノベは歩幅を二人に合わせてゆっくりと歩いている。急ぐ用事は無かったし、まだ本題を話していない。
「楽しかったっっ。今年の学祭はかつてない盛り上がりだっっ。願わくばもう一度味わいたいほどにっっ」
「それは良かった」
ロゼは本心からそう思った。自分にとって一番欲しいものを手に入れた彼をうらやましいとさえ思った。
「君の目的の為に学祭を利用した事を咎めるつもりはないっっ」
それを言っている時点で咎めているではないかと思い浮かんでも、ロゼは黙っておく。
「君に感謝さえしているのだっっ。本当だよっっ。僕は、学校を作ることにしたのだっっ」
「また自分で学祭を開くためですか」
「良くわかっているじゃないかっっ」




