フウワンとロック
第二寮の奥の奥、人気のない廊下の隅で、ロゼはフウワンとロックと落ち合っていた。
「いつも通りのルートで、新しい商人と連絡を取ってくれ。腸詰めは私の好物なんだ、うまくやってくれ」
窓の外から見られないように、三人はしゃがんで顔を突き合わせている。フウワンとロックは落ち着いていて、ロゼだけが少し上機嫌であると、ロゼは感じている。ロゼは調子に乗ったかなと冷える空気に、会話の間が空く。実際には、フウワンとロックは落ち着いているのではない。不機嫌であるのを抑えているのである。
「なぁワロゼリオ」
静かに抑え込まれたロックの声は、普段の陽気な様子からは考えられないほどに冷え込んでいた。事前に示し合わせてあったのか、フウワンからも同じように冷たい視線がロゼに浴びせられる。
「なんだ」
「今回で最後にする。オレ達はこれ以上こんな事しない」
フウワンとロックがロゼに向ける目はどうしようもない疑いの目だった。二人は立ち上がり、並んで後ずさった。二人はロゼが心底信用できなくなったのだ。
「何故だ」
「何故だ!? それをワロゼリオが聞くのか?! お前が推進派だからだろ!!」
二人は、ロゼが自分達と共謀して規制撤廃の為に働いていると思っていたのだ。にも拘わらず、ロゼは規制推進派である。最初は何かの間違いか、考えがあるのか、と思っていたがどんどん生徒を説得して規制派を増やしているのだ。自分達の事をいつか裏切るために今は泳がせているに違いないと考えるのは自然な事である。
「利益は出ているし、規制反対派は順調に増えている。何が不満なんだ」
「確かにワロゼリオの言う通りすれば味方は増えたさ! お客も! でも変だろ! お前は推進派で、本来オレ達を取り締まるように動くはずなんだよ! いつか本当に悪い事に絡ませて、反対派を一網打尽にするためにオレ達を使うんだろ!?」
「そんなことはない。誤解だ。もし反対派を潰したいと思ってたならもう潰れてる」
「だったら猶更、何がしたいんだよ!」
ロックの目は怒りに満ちている。フウワンは失望だ。ロゼが一歩近づくと、二人は二歩後ずさる。フウワンがロックの肩を掴んで、無理やり後ずさるのだ。
「いこう」
ロゼの方を目だけで見ながらフウワンのした提案に、ロックは掴まれた肩の手を払いながら応じる。二人はくるりと向きを変えて歩き始める。
「何故だ。何がダメだったんだ」
ロゼが小さく自分に問いかけた疑問に、聞こえたロックが大声で答える。
「信頼が、もうないんだよ」




