誘い
ロゼは、どさどさと大量の書類の束を落として見せた。挑発的に片繭を上げて、その人物を見つめる。
「探したよ」
その人物は、ロゼの異常な行動を恐怖しない。落ち着いてそのうちの一枚を拾い上げ、さっと目を通す。それは、『ロゼが試験で不正をした証拠となる書類』だった。そんな、まさかと懐に手をやると、自分の書類は確かにここにある。
「何を驚く事がある? 私がこれを持っているのはむしろ当たり前だろう?」
焦りと共に、床にばらまかれた書類の束をいくつもかき集め、その人物は視線をふらふらと行ったり来たりさせた。膝を付き、両手を付き、目を通す書類はどれもこれも、形式や酒類は違えど、すべて『ロゼが試験で不正をした証拠となる書類』である。
「私は外様だ。嫌われたり疎まれたりする理由として十分以上なんじゃないか?」
いつの間にか、書類の上に四つん這いになるその人物の目の前に立ち、見下ろしている。その人物は、書類の中に不備を見つけた。これでは証拠として不十分だ。ロゼの思惑が何かはまだわからなかったが、それが外れるきっかけを見つけたと喜んで、懐にさっと突っ込んだ。
「なんだ欲しいのか? いいぞ。いくらでもある」
懐に突っ込んだ書類の下にあった書類が自然と目に入る。その人物はそれにも不備を見つけた。また懐へ。またみつけた。また懐へ入れた所で気が付く。全てだ。この書類には全て不備がある。その人物はやっとロゼの思惑を理解した。
「理解したか。私が送れるだけの学校関係者にこの書類を送り付けてある」
その人物は始め、入学したてのロゼに大した興味は無かった。なんとなく情報を手に入れたので、利用してやろうぐらいの軽い気持ちだったのだ。入学二日目で不正の事が露わになって脅迫の意味がなくなり、完全に興味を無くしていたのだ。正確には不正が疑われ、それを晴らしたのだが、結果として学校側はロゼを疑われやすいだけの白であると見るようになった。この状態では証拠を持たない告発など何の意味も無いのでどうでも良くなっただけだったのだ。
「窓からあんたの姿は見えなかった。あんたが送り主だって気が付いたのは別の理由だ」
学期が進むにつれて、ロゼの発言力や校内での立場がみるみる上がっていくのを感じたその人物は、そこに価値を見出した。これほど力をもちつつあるなら何とかして証拠を集めてでも脅す価値があると。ロゼが不正をしていた事だけは確実であるのだから、証拠はあるはずだと思い、なかなかの出費をしながら探したのだ。その甲斐あって書類を入手し、脅迫状に踏み切った。
「リーアは相撲部がある。放課後は忙しい。私はどうだ? あの時間、普通なら部に所属していない私は部屋にいるはずだぞ」
今、ロゼが匿名で送り付けた書類は、学校内で悪意を持ったいたずらとして処理され始めている。ロゼが不正を行った証拠が届くが、そのどれもが不備のある偽物の証拠なのだ。学校の機能をそれに注がなくてはならないほどの大量の書類を、いちいち全て偽物か本物かなどと調べている時間はない。調べられるとすれば、最初の一枚から十枚までだろう。あとのものは全て適当にあしらわれる。なぜならそれが正しい選択だからだ。
「君は賢いのだな。ワロゼリオ君」
「ああ。私は賢い。だからこそ。私の舎弟にならないか?先生?」
赤茶色の髪を伸ばした教員はうなだれる事を返事とした。




