波はうねる
ロゼは規制推進派として活動の矢面に立っていた。具体的には各寮や専攻、部を説得して回ったり、賛同する意見に署名してもらったりなどだ。規制推進派が署名活動を始めたことにより、規制反対派も負けじと署名活動を始めた。学祭実行委員の方針決めは投票や多数決ではなく、権力と説得力、そしてその場の空気を操作する力で決まる。そのため、すこしでも次の会議で自分達の意見が通りやすくなるように、説得力を補強する必要があるのだ。
「キミのその意見に賛同することはできないね」
そうするともちろん、説得に応じない人間も出てくる。さらに、説得に行った先で二つの派閥がかち合う事だって出てくる。
「何故です? 表現規制をするわけじゃない。学祭のテーマ生に沿うだけです」
技術連へスルぺーニョの署名を得に向かったのは、学祭実行委員の中で最大派閥の一つである『這う者達』を名乗る集団を無力化するためだった。這う者達のロゼへ向けた発言はどれも要領を得ない物が多いが、リーア曰く、「気にしなくていい。スルぺーニョを使えばいうことを聞く」らしい。それを信じて説得へ来たのだが、一行に埒が明かない。
「でも実際は表現規制する使い方もできるよね」
埒が明かないだけなら優しい物で、適格に突かれて嫌な部分を判っているのだ。さらに難解な事に、「では我々の意見に賛同してくのだな。ここへ署名してくれ」と規制反対派が言えば、「キミのその意見に賛同することはできないね」と続くのである。
「何故だ? 我々は何者にも制限されない芸術の為に協力を求めている」
全く持って意図がわからず、推進派と反対派でお互いの目を見合わせるしまつである。
「芸術は制限された状態も制限されていない状態も理想的ではない」
何も理解できていない二人にいら立ちを示すように、スルぺーニョの声が少し大きくなる。
「芸術は自由でなくてはいけない。そして追い詰められていなくてはいけない。そして、何々でなくてはいけないと考えてはいけない」
ますますわからないといった様子の二人は自分なりに意味を理解しようとかみ砕いて考え、確かめることにした。
「それは異なる状態を同時に持つということですか?」
「それは制限を理解したうえでそれを乗り越えるということか?」
スルぺーニョは眉を少し寄せ、口を閉じて斜め下を見た。惜しいということであろうか。心臓の音が聞こえ始めるくらいの間が空いてから、スルぺーニョは話し始めた。
「どんな時でも、次の時代を作って来たのは芸術家と発明家だ。何が彼らをそうさせたのか? 答えは簡単だ。必要だったから。己や社会と向き合い、この世に足りていない物に気が付いたからだ。」
「それは違うはずです」
ロゼはとっさに言い返した。そんなわけはないと思った。自分なりの考えがあった。
「その者が良き者か悪しき者かは別として、偉大なる者の死が次の時代を作る。私はこう考えます」




