這う者達
「要求がある。今すぐ技術連への言い渡しを完全に撤廃しろ。」
ロゼにとって、これは今日二度目の想定外だった。一つ目は、『早すぎる』ということだ。ロゼの想定では、学祭実行委員へ突入をかけてくる者達が居たとしても、それは五日以上後になると考えていたのだ。それがたった今目の前で行われた事に驚いていたのに、それが落ち着く間も無く二つ目の驚きが襲ってきたのだ。
「ああそうしよう、とは言えんなっっ!! 理由を聞こうかっっ!!」
もし突入があるとしたら、蟲相撲部の部員や観戦者が要求を伝えるために来ると思っていたからだ。そこへ、技術連の制限解除の要求と来た。いったいどういう理屈でこのような事態になっているのか見当もつかなかった。
「我々はささやかな願いがあるだけだ。作品の是非を評価するのは勝手だが、作品の公開を制限することは忌むべき行為だ。作品へレッテルを張って分類するなど、作品に対する侮辱行為だ。」
リーアはひと塊になった生徒の間を縫って、ロゼのすぐ前へ移動した。要求者達の視線からロゼを守るように自分の体を広く立たたせた。ロゼからスルぺーニョの話を聞いてから、リーアは技術連の作品保管室へ何度かこっそりと侵入していた。そして、そこに描かれた大量のロゼの絵を見て、火をつけようか悩んだ。ロゼの絵の一部が、どのような目で見られているか一瞬で理解したからである。今、リーアが要求者達の視線を遮るようにロゼの前に立ったのは、彼らの目にロゼが写るのが、とてつもなく嫌だったからである。
「なるほどなっっ!! つまり君たちは、自分達の要求を通すために、この重要な会議に乗り込んできたのだなっっ!!!!」
いつも切れのある大声のジェゼノベがさらに大きな声を上げた。空気の震えを当てられた要求者達は、思わず体を震わせた。眼力のある目にさらに力の籠った表情は、代表者らしき目出し帽の男をたじろかせた。
「っ。そうだ。我々は日陰者ではあるが、自分達の生きがいを奪われて黙っているほど、臆病者ではない。」
目出し帽の男はたじろぎはしたものの、すぐに気合を入れなおし、気迫をもってジェゼノベへ言い返した。そして、今やっと教室内を見回して、ロゼを見つけた。目の前の男が委員長かどうかわからなかったので、それらしき人物を探しての偶然であった。折角入れなおした気合も気迫もなにもかも抜け落ちてしまいそうだった。
「今すぐ覆面を取り、貴様らが学祭委員へ入るというのなら許してやるっっ!!!! 覚悟も無しにここへ来たというのなら全員喉笛を掻っ切ってやるっっ!!!!」
ジェゼノベは切れ散らかしていた。我慢ならなかった。神聖なる学祭への準備を何者にも邪魔されたくなかった。この世の何人たりとも、学祭の邪魔をするなら殺してしまうという覚悟があった。そして目の前の男はそれを体現してしまっていた。だからこそ、目の前の男の取った意外な行動で拍子抜けしてしまった。
「ああ。入る。今すぐ入るとも。我々はそのために生まれたといっても過言ではない。」




