秘密の対処
リーアは寮部屋の扉をしめるなりロゼに質問した。ロゼが自分に秘密にしていた事がある事が、リーアを苛立たせた。
「それで、どうして嘘ついたの?」
ロゼはリーアが怒っている事をなんとなく察し、いつもより丁寧に説明する事を心がける。話すだけでよのだから、楽なものである。
「一言でいえばカマかけなんだが、順を追って説明しよう。」
ロゼは寮部屋内に、大きな白っぽい蟲の外骨格を持ち込んでいる。できる限り平に加工されたそれへ、木炭で線を書き込んでいけば、いろんな物事がわかりやすくなる。教室には、切り出された白い岩が置かれている。
「私から見た場合、リーアが落書き主の可能性が最も高いのは分かるな?」
ロゼは外骨格へ『ロゼ』『リーア』と書いてそれぞれ丸で囲んだ。
「私には、『特待生』というだれから妬まれたり恨まれたりしてもおかしくない付加価値が付いている。」
さらに『ロゼ』の丸の中に特待生と書き込み、『その他の生徒』という適当な丸を新たに書き込んだ。
「恨みなどの感情で攻撃を選ぶ人間は、何をしてくるかわからない。暴力、陰口、濡れ衣かもしれない。」
それから、『スルぺーニョ』と書いた丸を『ロゼ』の近くに書いた。
「暴力は常に一人にならない事で対処、陰口は目立たない事で対処した。濡れ衣の対処のために、私はスルぺーニョに近づいた。」
「スルぺーニョって誰なの?」
「オクオクのお姉さんで、三年の実技特待生だ。特待生なら私を妬む可能性が一番低い。」
『スルぺーニョ』から線を引いて、『オクオク』という丸を書き込んだ。その後、二人の名前を少しだけ指でこすって消して、『ニニスル・ペニョペニョ』『ニニスル・オクオク』と書き直した。
「スルぺーニョと私は取引をした。どんな時でも私のアリバイを証明する事と引き換えに、私はできる限り技術連にモデルとして顔を出すわけだ。」
「嘘ついた理由がなかなか見えないわね。」
「もうすぐだ。恨まれている可能性のある人物のすべてから、アリバイの準備を隠す事が望ましい。対処されるからな。」
「だからわたしにも秘密だったと。」
「疑いが晴れるまではな。あの場で私は急遽、自分の身の潔白を証明する必要ができたわけだ。そこで、スルぺーニョとの取引の効果を今使うかと迷った。」
「だんだん分かってきたわ。でもそこにわたしが居たのね。」
「そうだ。その場で取引の件を話せば、リーアが落書き主だった場合、私は対処の手が詰まる。どうした物かと考えていたところ、あの女生徒が私に詳しすぎる事に気が付いた。」
「犯人捜しをしていたんなら普通のことじゃないの?」
「もちろんそう思った。しかし、私がポケットへ干し肉を入れたのを見ていたというのは、執着しすぎだと思ったんだ。」
言ってから、ロゼは干し肉を取り返すのを忘れた事を思い出し、悔しい顔をした。
「そこで、あの女生徒は私の中で一番怪しい人物に躍り出たわけだ。なら、退学という強い言葉で驚かせれば、少しでも心当たりがあれば顔色が変わると思ったんだ。」
「わたしの顔は見なくてもよかったの?わたしが反応するかもしれないでしょ?」
「リーアが私の手を握っていてくれたから、それで十分わかると思った。」




