広がる波
会議が終わって三日目、ジェゼノベはある二つの事柄に頭を悩ませていた。第二寮の自室を行ったり来たりしながら、ぶつぶつと独り言を言っているほどである。
「僕としては、盛り上がる分には良いとしたいがっっ。 しかし規制されては元も子もなしっっ。」
その内容とは、生徒会から学祭委員に対し注意喚起、もとい言質をとるほどでもない圧力があったのだ。技術連から申請された作品群の中にあまりにもヌードが多いのいかがなものかという事、そして蟲相撲観戦者の去った後が汚すぎるという事だった。
「ロゼ君の言っていた『静粛と秩序』とは合致するがっっ。だからと言って不用意に押さえつけるには惜しい盛り上がりっっ。」
どういうわけでヌードがやけに多いのかはわからないが、申請される作品の数が例年と比べてとても多いのは事実であるために、安易に規制することが技術連生のやる気を削いだり反感を買ったりしないか不安なのである。芸術作品の展示が盛り上がるということは、学祭の博覧会的要素を推し進める事になる。そうすれば、世界各国からそれを一目見ようと人が集まってくる事が期待できるのだ。
「おそらく、三年生にいるらしいスルぺーニョさん関係だろうがっっ。」
蟲相撲関係の方はまだ幾許かわかりやすい。最近、観戦者の間で賭け事が流行っているのだ。蟲相撲部でなく本家蟲相撲でも賭けは行われている。しかしあくまで一部であり、大多数の観戦者は純粋に選手は蟲を応援している。教導国家らしく蟲の戦いを神聖視している側面もある。
「しかし賭けは盛り上がるっっ。不純な動機とはいえ応援に熱が入るっっ。」
賭けの余波として、食べ物や飲み物を売る者が現れた事が問題の本質であるといえるだろう。串焼肉の串や、冷たい飲み物の容器などがその場で投げ捨てられているのである。蟲相撲部の中庭を臨む廊下など恐ろしい物で、いつキノコが湧いて出てもおかしくない状況である。もし蟲にキノコが生えたりしたら大騒ぎでになる。
「どうやっても少しはこちら側から規制をするしかないのかっっ。生徒会により学祭を中止にされる可能性を考えるとっっ、仕方のないことかっっ。」
「うるせぇ!! お前の独り言は声がデカ過ぎなんだよ!!!」
寮は二人一部屋である。もちろんここも例外ではない。
「すまないっっ!! しかし、良い方法が思いつかないのだっっ!!」
「そんなもん! 生徒会の面子さえ保ちゃあいいんだからどうとでもできるだろ!!」
「なるほど!!」
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「困ったな。想定より規制の規模が小さい。」
「え? それはそれでいいんじゃなかったの?」
リーアとロゼは掲示板に張り出された言い渡しについて話していた。大食堂に入る道でちらりと見た物である。ロゼはスープを食べる手を止めて、眉を寄せている。
「だって、小さくても後でもう一度大きな規制がされやすくなるんでしょ?」
「や、規制の内容が絶妙なんだ。生徒会の面子は保たれてる。それでいてされる側は圧迫を感じにくい。」
言い渡しの内容は二つである。一つは技術連へ向けて、絵画は品目ごとに展示会場がわかれますよという事。二つ目は、蟲相撲観戦者は限られた空間以外で飲食してはならないという事だった。
「随分緩いように思うけどな。再規制入るんじゃない?」
「もちろん入るだろうさ。学祭が終わった後にな。何かあるまでは現状維持になるはずだ。」
リーアはスープをお椀からすすりつつ、横目でロゼを見た。ロゼはもう眉を寄せておらず、何かを試案する顔になっている。
「何かあるまではってことは……。」
「もちろん何か起こるんだろう。」
「起こすの間違いでしょ。」
「フフフ。」




