女にされた挙句、義妹の代わりに嫁げといわれました。
「やめろ!やめろおおおッ!!」
「まったく五月蝿いのう、大人しくせんか見苦しい」
俺は今、叔父に手足を拘束されて、聖別魔法をかけられようとしている。
この魔法が成功すれば、俺は女にされてしまう。
そして、失敗すれば死だ。
「っ許してくれ!くそっ、俺はまだ死にたく無い!いやだっ!!」
「く…くふははははっ!なんと情けない姿か!兄が見たら泣くぞ!ふはあははっはははっ!!」
この魔法は大抵の場合失敗する。
聖別魔法は、およその統計で千人に一人程しか生き残れないと聞いた。
「ふはっははっははははは!実に愉快!さぁ、やれっ!!」
「やめっ、ぅ、うわぁぁあああああああああああっ!?」
だが、情け容赦などかけらも無く、俺は聖別魔法を行使されたのだった。
ーーーー
「………………くそが」
ガタゴトと揺れる馬車、俺は今、女の服を着せられ、ベルヘルム辺境伯家へと送られている。
「なんで、男の俺が、男なんかに嫁がなきゃいけない」
頭を抱えずにはいられない。
最悪だ。
そう。
聖別魔法が成功してしまったのだ。
いや、まぁ、生き残った事は良かったのだけど。
だがその代わりに、女として生きて行かねばならなくなるとは……
「最悪だ…」
聖別系魔法、それは神に命を捧げる魔法である。
この魔法により得られる未来は二つ。
一つは魂だけが抜き取られ、聖別魔法の対象神の下級精霊として召し上げられる未来。
これはつまり、魂だけが持っていかれてしまうので、肉体的な死を意味する。
もう一つは眷属化だ。
これは肉体ごと神の眷属として作り変えられ、以後は神のお気に入りとして、生涯を生きることとなる。
ただ、多くの場合は、魂が抜き取られ、召し上げられる。
眷属化は本当に希で、よほど神に気に入られた人間でなければ、起こらない現象だ。
神職者の場合は晩年にこの聖別魔法を行う者が多い。文字通り死後も神に仕える為だ。
そして、その統計によるとおよそ千人に一人くらいの割合で眷属化が起きるとのこと。
このように、本来この聖別魔法は若い身空で行う魔法ではない。
99.9%の確率で死ぬ魔法など、ほぼ自殺に等しいのだから。
では何故俺が、自殺行為である聖別魔法を行使されたのかといえば、そこには、実にくだらない理由があった。
事の起こりは、辺境伯が隣国の侵略軍にボロ勝ちことに始まる。
北の隣国は魔鉱資源が豊富な国であったが、それに胡座をかいていたせいで、それ以外の産業が上手く育っていなかった。
そしてある時、魔鉱山が一気に枯れた。原因は北の隣国の現王が神様をプチ切れさせた事にあるらしい。何をやったかは知らんが、ブチ切れじゃなかったのが不幸中の幸いだ。もし神様が激怒されていたら、隣国は消し飛び、その余波が我が国に及んでいた事だろう。
とにかく、神の怒りによる魔鉱の枯渇を起因とし、北の隣国は我が国への侵略戦争を始めた。
そしてそれを、鬼の殺戮辺境伯ことベルヘルム辺境伯が圧勝してみせたのだ。
ベルヘルム卿は、聖別魔法を受けてもいないのに、鬼神様の寵愛をうけたいわゆる神の愛子と言うやつで、どうやらアホほど強いらしい。
戦争時には文字通り一騎当千の働きをし、事実、単騎で敵陣に突っ込み、数百の敵兵を瞬殺して見せたという。
最強、正に最強。
しかし、そんな最強の男には、一つ問題があった。
それは嫁が来ないことである。
先の通り、ベルヘルム卿は鬼神様の愛子である。
故に見た目も結構鬼仕様であるらしい。
ベースは確かに人間の造形であるらしいのだが、曰く、立派なツノがあり、歯が全て牙のようになっており体は大きく、眼つきは尋常じゃないほど鋭く、要するに超絶怖い容姿らしい。
よって嫁候補は皆、顔合わせの段階で気絶卒倒するのだとか。
当然結婚など、夢のまた夢だ。
しかし国としては、ベルヘルム卿に絶対に子を成してもらわねばならない。
愛し子の子孫は、愛し子本人ほどでは無いものの、神からの加護がつきやすいからだ。
国としては、加護持ちはいくらあっても困らないのである。
で。
王国は、戦争で大活躍をしたベルヘルム辺境伯への褒賞にかこつけて、性的に「好き勝手自由にできる」嫁をつけることにしたのだ。
要するに、気絶しようが何しようが、人格人権無視で好きに孕ませて良い嫁ということである。
そこで白羽の矢が立ったのが、我がリゼシュタイン公爵家だ。
我がリゼシュタイン公爵家は、祖父の代からなかなかに傾いてきており、その関係で王家に対して少なくない借りを作っている。
その借りを、公爵家の女子をベルヘルム卿に差し出すことで全てチャラにしようというのだ。
王族や公爵家は、基本的に神との相性が良く、魔力が高い。
当然家柄も申し分なく、つまりは神の愛し子の嫁にするには持ってこいなのである。
公爵家にとっても、これは破格の申し出といって良い。
なにせ、娘一人差し出すだけで、超武力のベルヘルム辺境伯家と親戚になれる上、借金も帳消しになるのだから、最早メリットしかない。
しかし、俺の叔父は自分の娘を差し出すことを嫌がった。
美姫であると評判の娘を溺愛している叔父は、娘を殺戮辺境伯の性奴隷になどさせたくなかったのだ。
そこで叔父は考えた。
そして考えた挙句、何をトチ狂ったのか、男である俺を女にして差し出すという、実に穴だらけでイカれた案をひりだしてきやがったのである。
ーーーー
叔父は俺の事が嫌いである。
正確には叔父の兄、つまりは俺の父のことが大嫌いであった。
俺の父は大変に優秀な人間であり、そして叔父は大変に愚かな人間であった。
優秀な父は次期当主として常に尊重されており、対して愚かな叔父はやや蔑ろにされていた。
それ故に、叔父は父に対して少なくないコンプレックを抱いていた。
そんな叔父が、当主である。
次期当主であった父がうっかり事故で死んで、偶然にもその直後に先代当主であった祖父が病死し、後継者になれる成人が叔父しかいなかったのだ。
そう、愚かな叔父が、当主となったのである。
そして、そんな叔父は、俺を虐めることで実兄への鬱憤を晴らすクソ野郎であった。
最悪である。
俺は父が死んで以来、家畜並みの生活を強いられてきた。
朝から晩まで下働きの仕事をさせられ、食事は全て食べ残しの残飯で、寝床は物置の一角だ。
殺されはしないものの、およそ貴族としての尊厳を奪われ、叔父一家の玩具として扱われてきた。
そして、つい先日。ついに俺は殺されかけた。
聖別魔法によって。
女になれば儲けものくらいに思っていただろうし、仮に俺が死んだとしても、難癖をつけて娘の辺境伯家入りは防ぐつもりだったのだろう。
まぁ、愚かだから、王家の命令でも本気で嫌がれば防げるとか思ってんだろう。愚かだから。
しかし、意外にも聖別魔法は成功した。
ちなみに、俺にかけられた聖別魔法は、子宝や夜の営みや性愛などを司る女神様のものである。
この女神様は、女性という概念そのものを司る神さまでもあるので、その眷属は女性以外ありえないのだ。
ーーーー
「はぁ、俺が結婚、まさか、こんな……」
散々悪態をついた後。
疲れて、背もたれに体を預け、天井を仰ぐ。
狭い馬車で一人、ため息が虚しく響く。
思えば本当に最悪な人生だった。
母は物心つく前に病死し、父は突然事故死し、叔父一家には家畜として虐められ、挙句、女にされて嫁に出される。
最悪だ、実に最悪。
「はは、馬鹿らし」
クソだ、人生なんてクソだ。
もう、ちょっと疲れてしまった。弄ばれるだけの人生に。
何も出来ない自分に。
「もう、どうにでもなれ」
ーーーー
俺は長旅を経て、辺境伯領に着いた。
もう、その頃には、俺は全てをすっかり諦めてしまっていて、使用人達のなすがまま、風呂に入れられたり、新品のドレスに着替えたりした。
しっかりと身支度を整え、いざ、辺境伯へのご対面というところで……
大問題が発生した。
「ふぇ…っ!? が、ぅ」
「……大丈夫か?」
喉が乾く。
手が震える。
足が震える。
鼓動が、胸を激しく叩く。
「ぁ、ぅ…!そ、ぁの!」
「……やはり、恐ろしいか?」
まともに見れない。
その眼光が、盛り上がった筋肉が。
舌が上手く回らない。
「ち、ちがっ!」
「無理をしなくていい」
顔が熱い。
嘘だろ。
そんな事って……
嘘だろ!?
「違うっ!!」
「いい、慣れている、大丈夫だ。一応我らは婚約者故、屋敷には居てもらう事になるが、以降私とは無理に会うことが無いように……」
違う。
違うっ。
違うから!!
畜生、ダメだ!!
思考が全くまとまらん!!
なんでこんな事になるんだ!?
「違うって言ってるだろうがアホぉ!!」
「…なっ!?」
俺はなんとかしようと、ベルヘルム卿に飛びつく。
途端に鼻腔をくすぐる、たまらない香り。
逞しい筋肉の感触が凄い。
「お、俺は、くそ!あれだ、馬鹿が!」
「な、なにを?」
ホントにちくしょう、なんてこった!
「俺は!お前に!一目惚れしたみたいなんだ!クソがっ!!」
「…………ぇ?」
なんということ!なんという仕打ち!
てか絶対これ性愛の女神様のせいだって!!
独自コンペ【春のトランスセクシャル】開催中です、詳細はシリーズのところをご覧ください。
どうか感想お願いします!
十本の中で感想の数が最も多いものを連載しようと思っています!
どうぞよろしくお願いします!