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005 魔法とは何だ?

「そんなはずないわ! 使い魔として召喚されたんだもの! あなたは魔法を使う獣、魔獣のはずよ!」


 アリアが、目を真ん丸にして叫ぶ。急にそんなことを言われてもな。そもそも……。


「魔法とはなんだ?」

「えっ!? そこからっ!? えっと、魔法っていうのは、自分の魔力で現実を塗りつぶして、なにか現象を起こす行為だけど……あなた火を出したり、風を操ったり、水を出したりできないの?」

「できるはずないだろう」


 猫をなんだと思ってるんだ。だが、アリアはまるで信じられないものを見たような表情をして頭を抱えてしまった。


「ありえない……。まさか、魔法が使えないなんて……。でも、使い魔として召喚された以上、絶対に魔獣のはずだし……。魔法の使い方を知らないだけ? でも、使い魔に魔法を教えるって……どうすればいいのよ……?」


 うんうん唸っていたアリアが、弾かれたようにこちらを向いた。なにやら真剣な表情だ。我も後ろ足で耳を掻くのを止めてアリアを見る。


「いーい? 自分の体の中に意識を集中してみて。なんだか温かいような、熱いようなものがあるはずよ。それが魔力」


 我は、とりあえず言われた通りに自分の体の中に意識を向ける。


 だが、アリアが言うものが抽象的すぎてよく分からない。だが体の中に熱い感覚が走った時があったことを思い出した。ひょっとしてアリアが言っているのは……。


「サカリの事か?」

「サカリ? 何それ?」

「身体が熱くなって無性に女を抱きたくなる。女を抱くと落ち着く」

「なっ!? ちが、違うわよ! いきなり何言って、バカじゃないの!!」


 アリアが頭をブンブン横に振って、慌てたように否定する。そうか違ったか。しかし……。


「バカとはなんだ、バカとは」

「いきなり変なこと言うからでしょ!」


 無礼を咎めたら怒鳴り返された。解せぬ。


 ゼーゼーとアリアが荒い息をする。怒鳴り疲れたのか? 顔も少し赤くなっている気がする。


「で? 結局、魔力は感じたの?」

「さっぱり分からん」

「はぁ。どうすればいいのよ……。とにかく明日、先生に相談してみないと……」


 アリアが落ち込んだ様子でため息を吐いた。こうも落ち込まれると、なんだか我が悪いことをしているみたいで申し訳ない気持ちが沸いてくる。コイツ、飯をくれるいい奴だしな。だが、魔法なんてものは使えないのだから仕方ない。


「まぁ元気を出せ、な」

「あなたに言われてもねぇ……」


 アリアが目を細めて我を見てくる。これはどんな顔なのだ? 人間の表情は分かりづらいな。


「でもいいわ。一旦置いておきましょう。先生ならいい方法知ってるかもしれないし。次に行きましょう」

「次?」


 アリアはそう言うと、我の脇を掴んできた。そのまま我の上半身を抱き抱えて、そしてアリアが立ち上がった。我の体がびよーんと縦に伸びる。足が床に着かない。足がぷらぷらと揺れる。なんだか落ち着かない。


「アリア、離せ」

「ダメよ。これからあなたを洗うんだもの」


 いつの間にか用意されたのか、水を張った盥にアリアが近づいていく。もしかしてコイツ、水で洗うつもりか!?


「止めよアリア! 我は清潔だ! 毎日舌で清めている!!」

「そんなのじゃ全然ダメよ! ちゃんと石鹸で洗わないと。こらっ! 暴れないの! 痛ッ!? あなた今爪立てたわね!? もう容赦しないわよ!」


 我はアリアの手から逃れようと暴れるが、我の抵抗むなしく、我の体は水の中に叩き込まれてしまった。無念……。


 体中の毛が水で濡れて体が重たい。地肌が水に濡れて冷た……くないな? むしろ暖かい。


「気持ちいいでしょ? あなたの為にわざわざお湯を貰ってきたのよ。感謝しなさい」


 気持ち良いのだろうか? よく分からない。だが冷たい水に濡れるよりもマシだ。


 だが、この暖かい水は我の油断を誘うための罠であった。アリアは我を攻める準備を着々と進めていたのだ。


「じゃあ、石鹸で洗っちゃいましょうねー」

「おいっ! なんだこの白いモコモコしたものは!? 止めろ! 我に近づけるなッ!」


 我は白いモコモコに包まれ、ワシャワシャと全身をもみくちゃにされる。毛が束になって、まるで全身を弱い力で引っ張られているような変な感じだ。


 もう水で濡れるどころの騒ぎではない。我は逃げ出そうとするが、アリアは巧みに我を掴んで離さない。クソッ! これが人間の力か……ッ!


 やがて、アリアは満足したのか、水をかけて我の体からモコモコを落としていく。終わったのか?


 我の体から白いモコモコが完全に落ちると、今度は我の体に布を押し当てゴシゴシと擦る。水を拭き取るつもりか。我はもう抵抗を諦めてされるがままだ。もうどうにでもなれ……。


 そしてどれほど時間がかかったのか。我にとっての苦行は、やっと終わりを迎えた


「はい。もう終わりよ。綺麗になったでしょ?」


 綺麗になっただと? どこに目を付けているんだ? 


 あんなに綺麗に整っていた我の毛並みは、乱れに乱れていた。おまけに全身の毛がキシキシとする。毛に引っ掛かりを感じる。なんだか全身からモコモコの臭いがするし、控えめに言っても……。


「最悪の気分だ」

「なによもう。洗った甲斐がないわね」


 舌で舐めて全身の毛を整えつつ、まだ残っている水分を舐め取っていく。


「あーあ。やっぱり引っ掛かれたところ傷になってる。まったく、乙女の柔肌を何だと思ってるのよ……」


 アリアが自分の腕に走った3本の赤い線を見て嘆いていた。


 それにしても乙女か……。アリアの声や口調から察してはいたが、やはり女らしい。人間は見ただけでは性別が分からんからな。


 毛を整えつつ横目でアリアを見ていたら、アリアが身に纏っていた物を脱ぎ始めた。次第にアリアの白い肌が露わになっていく。白く透き通るような肌はわずかにピンク色をしているだろうか。白い肌にアリアの黒い長髪が映えている。黒い長髪はそのまま上半身を覆い、その下に目を向けるとポンッと小ぶりな丸い尻が飛び出ており、そこから白くすらりとした脚へと続いていく。


 アリアが両腕を上げて髪を後ろで一つに纏めることで、髪に隠れていた上半身も露わになる。我は一度アリアを頭の天辺から足の先まで見渡した。特筆すべきものはなにも無いな。強いて言うなら平たい印象を受ける。飛び出ているのは尻くらいで後は平坦だ。人間ってこんなに平たかったか?


 アリアが布を使い全身を拭い始めた。アリアも身を清めるらしい。我も自分のことに集中するか。あーあ。こんなに乱れてしまって。我、かわいそう…。



 ◇



 我の毛繕いが一段落した頃、アリアの方も一段落したようだ。先程とは違う衣服を身に着けたアリアがこちらに向かって歩いてくる。


「これ、着けるの忘れていたわ」


 アリアが何か我の首に巻き付けた。


「なんだこれは?」


「使い魔の証よ。いい? 絶対取っちゃダメよ? それがないと処分されちゃうかもしれないんだから」


 処分とは穏やかじゃないな。一体何をされるんだ?


 首に布が巻き付く感覚は慣れない。できれば外してしまいたいが、処分という言葉が不穏すぎる。しばらくは大人しく着けておくか…。


 その後、ベッドに腰かけたアリアに続き、我もベッドに飛び乗った。おぉ、ここはフカフカして気持ちいいな。


「もう寝ましょ。今日は疲れたわ。明かり消すわよ」


 アリアはそのままベッドの上で横になった。アリアの宣言通り、昼間のように明るかった部屋が一瞬にして夜になった。人間ってこんなこともできるのか。恐ろしくなるほどの力だ。この力を上手く我のために役立てたいが……難しいか?


 そんなことを考えながら、我もアリアの横で体を横たえた。確かに、今日はいろんなことがありすぎて疲れた。このまま眠ってしまおう。


「クロムには明日一日、一緒に行動してもらうわよ」

「断る」

「なんでよ!?」


 横にいるアリアが身じろぎする。ガサゴソと衣擦れの音が聞こえてきた。けっこううるさいな。


「周りの地理を確認したい」

「案内する時間を作るから一緒に行動して」


 アリアの案内か。パッと見た限りだと、この地には建物がたくさんあった。人間のテリトリーといえる。人間のアリアに案内してもらうのは、良い案かもしれない。


「お願いよ。授業中も必要だし、先生に相談する時にも居てもらわなくちゃいけないのよ」


 アリアは、なんとしても我に一緒に居て欲しいらしい。こうまで頼まれると断りずらいな。ふむ、こちらが折れるか。だが、タダでは折れない。


「さっき食べた肉があるだろう? 我はアレがまた食べたい。それで手を打とう」

「そんなに気に入ったの? 一応頼んでみるけど、出てくるか分からないわよ?」

「そうなのか……。まぁそれでいい」


 あの肉は大層美味であった。今まで食べたどんなものよりも美味かった。あれがまた食べれるなら大抵のことは我慢できそうだ。アリアに付き合ってやってもよいだろう。


 その後、しばらくするとアリアからスースーという規則正しい呼吸が聞こえてきた。どうやら眠ったらしい。我も寝るか……。

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