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047 コイツ面倒くさいな

 アリアが背中を壁に預け、ベットの上に足を投げ出して座っている。開け放たれた窓から、そよ風が吹き、アリアの黒い髪を揺らした。だが、アリアは髪が乱れるのも構わず、その視線は、手に抱えた本へと向けられていた。本に向けられた目が、忙しなく左右に揺れている。


 時折、アリアが本をめくる音しか聞こえないような長閑な昼下がり。我は床の上に長々と身体を伸ばして横になっていた。こうした暑い日は、ベッドの上よりも冷たい床の方が寝心地が良い。床が我の体温で温まってきたら、ゴロリと寝返りをうつ。そうすると冷たく冷えた床が我を迎えてくれる。はぁ、気持ちが良い。


 我は寝ながら視線をアリアに向ける。ここ最近、アリアは本の虫だ。暇さえあれば、本を読んでいる。以前、そんなに面白いのかと覗きこんでみたが、人間の使う文字が小さくビッシリと書いてあるだけで、ちっとも面白くなかった。我は人間の文字は読めないのだ。


 面白くないと言えば、本を読んでいる間のアリアの態度も面白くない。心ここにあらずと言うか、生返事を繰り返すばかりで、ちっとも我の話を聞かんのだ。先程、食事に行く時も、我が何度も声をかけてやっと反応したくらいだ。


 そう言えば、食堂でレイラとルサルカと、この後用事があると話していたな。用事は良いのだろうか? ひょっとすると、用事を忘れているのかもしれない。やれやれ、我がアリアの目を覚ましてやるか。


「アリア、用事は良いのか?」

「……うーん」


 また生返事か。これは我の話を聞いていないな。


「レイラとルサルカと約束していただろう?」

「うーん」


 レイラとルサルカの名を出したのに反応なしか。仕方ない。強硬手段に出るか。我は起き上がり、ベッドに昇った。そのままアリアの足の間を通り、本の方へと近づいていく。アリアのすぐ傍で一度座り、様子を見る。我がこんなに近くにいるというのに、アリアは気が付いた様子が無い。視界に入っていると思うのだがなぁ。アリアの目は相変わらず本へと注がれたままだ。我は本の下部とアリアの腹の間にある空間へを頭を突っ込む。そして、そのままアリアの身体をよじ登り、顔の正面へと移動した。アリアと本の間に無理やり入り込む形だ。至近距離でアリアと見つめあう。


「あ、ちょ、クロ? どうしたの?」


 流石に視界を我の顔でジャックされればアリアも気が付くらしい。


「アリアは本に熱中し過ぎだ。我の話を全然聞いていない。何度か呼んだのだぞ?」

「そうなの? ごめんね。寂しくなっちゃった?」


 アリアがニンマリと笑って問いかけてくる。


「違う。今日は用事があるのだろう? 本を読んでて良いのか?」

「用事……? あっ! 王都観光!」


 やれやれ、やっと思い出したらしい。


「すぐに行かないと。クロはどうする? 行く?」

「我は行かない」


 王都の地理には興味があるが、この炎天下の中歩き回るなど、我は嫌だ。


「そう? 分かったわ。あ、絶対に本に悪戯しちゃダメよ」

「しない」


 そんなカビ臭い本など我の玩具としては不適格だ。


「いい? 絶対よ。絶対ダメだから」


 アリアが何度も念を押してくる。これはフリか?


「じゃあ、私もう行くから。絶対ダメよ」


 そう言って、アリアが慌てて部屋を出ていく。それを見届けてから、我はベッドを降り、床にゴロンと横になり、長々と背中を反らすように伸びをする。はぁ、床の冷たさと、時折吹く風が気持ちが良い。


 なぜ、真昼の一番暑い時間帯にわざわざ出かけるのだろう。日が暮れてからでも良いではないか。いや、人間は夜目が利かないらしいから、昼間に行動するしかないのかもしれない。だとしたら、憐れだな。この時期は昼間よりも夜の方が活動しやすいのに。そんなことを考えながら、襲ってきた眠気に逆らわず、我は眠りについた。



 ◇



 夜。すっかり日も沈み、空には黄色い月が煌々と輝き、星が瞬いている。日中暑かった気温も随分と下がり、だいぶ活動しやすい気温となった。我はベッドから立ち上がり、一度背中を丸める様に伸びをし、今度は逆に背中を反るように伸びをする。


「ふぁー」


 欠伸が出た。日中たっぷりと寝たので寝不足と言うことは無いだろう。或いは寝すぎたせいかもしれない。チラリと横を見る。今、隣にアリアの姿は無い。今夜はルサルカと一緒にレイラの部屋に泊まるらしい。なんでも、女子会だとか言っていた。男である我は居てはいけないらしい。あの部屋にはキースも居るんだが、キースはどうするんだろうな? たしかアイツも男のはずだが……もしかしたら、部屋を追い出されているかもしれない。そんなことを考えつつ、我はベットを飛び降り、窓へと向かう。


「潜影」


 我は潜影の魔法を使い、影の中に潜る。そのまま壁を登り、窓の隙間から外へと飛び出した。外に出た我は潜影の魔法を解除する。途端に土や草花の匂い、夜風が我を包み込む。その匂いを胸いっぱいに吸い込み、吐き出し、我は歩き出した。まずは、縄張りのパトロールからだ。近くの壁や、木の匂いを嗅ぎつつ、マーキングしたりしながら、縄張りを巡っていく。その中で、ふと頭上を見上げた時、一匹の小鳥を見つけた。小鳥は木の枝に止まっており、月明りに照らされたその翼は青色に見える。ひょっとすると、キースだろうか?


「キースか?」


 我が声をかけると、小鳥はビクッと身体を震わせて、首を左右に振る。キースではないのだろうか? いや、辺りを見回しているだけか。我を探しているのだろうか?


「ここだ、ここ」


 もう一度声をかける。すると小鳥はようやく我を見つけた。我と目が合う。


『もしかしてクロム殿かな?』

「あぁ、そうだ」


 キースの声が頭に響く。キースの言葉が分かるのは、我が小鳥の言葉を覚えたからではない。キースの魔法だ。キースは自分の見たもの、聞いたものを相手に伝える知覚共有の魔法が使えるのだが、その応用で任意の相手と意思疎通がとれるようになったのだ。キースの魔法を介することで、我は人間やイノリスとも会話することが可能となった。


『いきなり猫の鳴き声が聞こえたから驚いたよ』


 キースが疲れた口調で言う。まぁ、キースにしてみれば猫は天敵だろうし、いきなり現れたら驚くかもしれないな。


「別に姿を隠してたわけではないのだが……驚かせたのなら謝ろう」


『いやいや、構わないとも。私は夜目が利かなくてね。今も君の姿は金色に輝く瞳くらいしか見えていないんだよ』


 こんなに月明りで明るいのに、見えないとは……夜目が利かないのは、不便なことだな。


「しかし、こんな所に居るなんて珍しいな。女子会とやらで追い出されたのか?」

『まぁね。私はおしゃべりだから油断ならないらしいよ? まったく、いくら私でも乙女の秘密まではべらべらと話したりはしないのに。信用が無いこの身が悲しいよ。よよよ』


 キースが泣き崩れる真似をするが、声がちっとも悲しそうではない。


『まぁ、それは冗談さ。私が居てはお嬢さん方が遠慮してしまうからね。夜風が浴びたいと言って、自主的に出てきたのだよ』


 キースがスクッと立ち直る。まだキースとは数度しか話していないが…コイツ面倒くさいな。一応気遣いは出来るようだが……若干の鬱陶しさがある。


『そう言うクロム殿はどうしてここへ? いつも外に出てるのかい?』

「我は日課の縄張りの見回りの最中だ。それももう終わりだがな。この後は王都まで散策に出ようと思っている」


『なんとも勤勉なことだね。それにしても王都か、あそこは許可が無いと出られないだろう? イノリス嬢もそれが原因で出られてないんだし。それとも許可があるのかい?』

「許可などいらん。あの程度の検問など我には無いのも同じだ」


 門を走り抜けても良いし、壁をよじ登っても良い。それが無理そうなら潜影の魔法を使えば、どうとでもなるだろう。


『なるほどなるほど。たしかにそうだ。私も空を飛んでしまえば楽に通り抜けられるか。でも、王都は人間たちの巣窟だからね。気を付けるといいよ』

「余計なお世話だ」


 そう言って、我はキースに背を向け、門の方角へと歩き出した。


『あれ? もう行っちゃうのかい?』

「あぁ。ではな」

『そっか、せっかく話し相手ができたのに残念だな。まぁ仕方ない。私は大人しく寝るとするよ。じゃあね、クロム殿。くれぐれも気を付けるんだよー』


 我は返事をせずにそのまま歩き続けた。



 ◇



「あんたかい? 最近、シマを荒らし回ってるって子は? でも、お姉さんにかかったら、あんたのオイタも今日でお終いだよ」

「ほう?」

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