042 我にジャストフィットする
宿屋に帰ってきたアリアたち一行。行きでも泊まった宿屋だ。馬小屋に泊まるイノリスにお別れして部屋へと向かう。部屋の中にはベットが二つと木箱が二つしか無い、殺風景な部屋だ。我はさっそくベッドに飛び込んだ。今日のベッドも藁のベッドだ。ガサリと音を立てて柔らかく我を受け止める。我はこの藁のベッドを気に入っていた。沈みように柔らかく我を包み込むように形を変え、我にジャストフィットするし、案外温かい。まるで藁自体が発熱しているようだ。ホカホカである。
アリアたちは部屋に入ると、いつものように服を脱ぎ、身を清め、着替えていく。毎度毎度ご苦労なことだ。裸ですごせばいいのに。
「レイラの夜着、今日もかわいい」
「ありがとう」
「ヒルダ様の夜着も素敵ですね」
「ありがとうございます。でも、これもお母様のお下がりですのよ」
レイラは今日もフリフリで、ヒルダは控えめにフリルの付いた夜着を着ていた。人間にとって、服というのは重要みたいだ。ハゲ隠しという意味でも重要だが、見た目も重視しているようだ。そして、見た目の良い服というのは金がかかる。服というのは、己の財力を誇示するための物なのかもしれない。
「古着屋に安くて良いのがあればいいんだけど」
「そうだねー」
アリア達は着替え終わると、ベットに腰掛けお喋りをし始める。まだ、眠るつもりは無さそうだ。
我はアリアたちのお喋りを子守歌に、ベッドで丸くなるのだった。
◇
「わたくし、皆さんに話したいことがありますの」
話が一段落した時、おもむろにヒルダが切り出した。その顔は迷いを振り切り、決意に満ちた顔をしていた。
「わたくしの夢は御家の再興です。そのために、わたくしはハンターになろうと思っています」
「「ハンター!?」」
ヒルダの言葉に、アリアとルサルカが声をひっくり返して驚く。
「その……危険ではないですか? それに、貴族の方は平民よりも良い就職先が斡旋されると聞いています。そちらではいけませんか?」
ヒルダはレイラの言葉に首をゆっくりと横に振る。
「危険は覚悟の上です。就職先の斡旋ですが、良いところは高位の貴族から埋まっていきますもの。わたくしの場合は平民と変わりませんわ。それに就職したとしても、その先の出世は家の権力とコネがものをいいます。わたくしにはどちらも無いものです。でしたら、実力主義のハンターになって、高名なハンターを目指した方が良いのではないかと考えました。様々な害獣が蔓延るこんな世の中ですもの、強いというのは、それだけで長所になります。高名なハンターに授爵が許された例もあります。目指す意味はありますわ」
決意に満ちていたヒルダの顔が、突如として不安そうなものに変わる。
「それで、ここからが話の本題なのですけど……皆さんには、わたくしを手伝っていただきたいのです」
「私たちもハンターに?」
「はい。わたくし達は魔導士です。攻撃能力と柔軟性がありますわ。それに、キースの偵察能力、イノリスの戦闘能力、クロムの補給能力。どれも強力です。どうか、わたくしを助けてくださいませんか? どうか、お願いいたします」
ヒルダが深く深く頭を下げる。ヒルダは人間のボスだと聞いている。ボスがこれほど下手に出るというのは、珍しいことなのではないだろうか。
残るアリアたち三人は、顔を見合わせて悩んでいるように見えた。そして、三人を代表してレイラが口を開く。
「どうか、頭を上げてくださいヒルダ様。それではお話もできません」
ようやくヒルダが頭を上げる。その顔は不安そうな顔だった。
「いきなりのお話で、私たち三人とも戸惑っているのが本音です。どうか、考える時間をいただけませんか?」
「そうですわね。いきなり、こんな話……ごめんなさいね。まだ学院の卒業までは時間があります。ハンターという道について、考えていただけるとありがたいですわ」
しばし沈黙が部屋を支配する。ヒルダは悲しそうな、残る三人は難しそうな表情だ。我にはハンターというものがよく分からないが、ヒルダの申し出はそんなに難しいものだったのだろうか?
「わたくしが話し始めたことですけど、困らせてしまってごめんなさいね。ハンターになる、ならないは別にして、これからも仲良くしていただけるとありがたいですわ。せっかく仲良くなれたんですもの」
「そうですね。私たちもヒルダ様と距離が縮まって嬉しいです。先程のお話も私たちを信頼して話してくださったんですよね。ありがとうございます」
「私もヒルダ様のこと好きよ。お貴族様なのに、偉ぶらないし、優しいもの」
「あたしも好き!」
「皆さん……ありがとう、ございます」
ヒルダが俯いてしまう。目元を拭っているということは泣いているのか? 服の袖で目元をこすり、ヒルダが顔を上げる。ヒルダの青い瞳が潤んでいた。
「はぁ。皆さんにはわたくしの情けない姿ばかり見せてしまいますね。こんなわたくしですが、これからもどうか、よろしくお願いします」
「あたしも、口の利き方とかよく分かんないけど、よろしくお願いします!」
「私だって礼儀とかよく分からないけど、これからもよろしくお願いします」
「私も皆と仲良くしたいです。これからもよろしくお願いいたします」
アリアたちが頭を下げ合っている。そして顔を上げ、お互いの顔を見ると微笑み合った。なんだか和やかな雰囲気だ。今日は雰囲気がコロコロ変わるな。賑やかだったり、沈んだり、浮いたり、忙しない。うぐー。我は一度伸びをすると、丸くなり目を瞑った。
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