040 猫パンチで起こすところだった
翌朝。アリア達が起きたのは、いつもよりだいぶ遅い時間だった。我が昨日の夜食べ過ぎたから腹があまり減っていないが、腹が減っていたら猫パンチで起こすところだった。
「おはよう。痛たたたた。体中痛いわ……」
「おはようございます。ここ三日間歩き通しでしたからね。私も痛いです」
アリアたちは身体が痛いらしい。コイツら、普段動いてないからなぁ。急に動かしたから身体がビックリしているのだろう。
「ヒルダ大丈夫ですの? 怪我ですの?」
「怪我ではありませんよ。だから大丈夫です」
そんな様子の人間たちを心配したのだろう。リノアがヒルダの足に体を擦りつけている。ヒルダは、リノアの頭を優しく撫でて応えていた。良い関係が築かれているようで、ほっこりする光景だ。
「このまま寝ていたい気分ではありますが、せっかくサンベルジュまで来たのです。観光いたしましょう」
アリア達がノロノロと朝の支度を始める。着替えたり、髪を梳かしたりだ。それが終わればいよいよ活動開始である。まずは宿を出て朝食だ。我の朝食は魚だった。チーズも捨てがたいが、この柔らかい魚はここでしか食べられないらしい。そう言われると魚を食べないともったいない気がしてくる。ふむ、こいつも美味いな。昨日の魚と微妙に味が違う。違う種類の魚だろうか?
「この後はどういたしましょうか?」
「昨日行きましたが、中央広場はいかがですか?」
ヒルダの問いに、レイラがおっとりと笑顔を浮かべて答える。
「何かあるの?」
「あそこは青の広場とも呼ばれていて、とても綺麗な場所なんですよ?」
「へー、そうなんだ。行ってみましょ」
朝食を食べ終えると、昨日先生に会った広場へとやって来た。宿から離れており、来るのに多少時間がかかってしまった。
「わー。綺麗ねー」
「綺麗ですね。まるで水の中に居るよう」
青の広場は、その名の通り青い空間だった。一面に青色の石と白色の石が敷き詰められている。青い石と白い石は互い違いに優美な曲線を描いている。地面だけではなく、壁まで青い石が張り付けてあった。青い石は日光を浴びてキラキラと輝いており、まるで水面が光っているようだ。広場の中心には、波と船を現したオブジェが建っており、一行は中心に向けて歩いていく。広場に敷き詰められている石は、中央に向かうに連れ濃い青色になっていくようだ。グラデーションが美しい。足元の色がだんだん変わっていく様子は面白い。
「昨日の夜とは雰囲気が随分と違いますのね。屋台などもありませんし」
「人混みが多いのが悔やまれるわね」
「まぁアリアったら。お昼時ですから、これでも少ない方だと思いますよ?」
「これで? どれだけ人がいるのよ」
「青の広場は有名な観光スポットですから仕方ありませんよ。サンベルジュ自体が王都にも近くて人気の観光地ですし」
アリアたちは、しばらく青の広場に佇んでいた。だが、どんなに見事な景観もずっと見ていると飽きてくる。
「次はどこ行く?」
「そうですね。次は海なんていかがですか?」
「海! あたし、海見たことない」
「では、海に行ってみましょう」
アリアたちが動き出す。青の広場を越えて反対側へ。しばらく進むと、ザザーン、ザザーンという音が聞こえてくる。塩のような匂いも強くなってきた。
「たしかこちら側に……」
「レイラはサンベルジュに詳しいみたいだけど、来たことあるの?」
「えぇ、今までに二回来たことあります。あ! 見えましたよ、海です」
道の角を曲がった時、遮蔽物が無くなり、遠くまで見えるようになった。目に飛び込んできたのは、キラキラとした光だ。遠く、ずっと遠く、空まで広がる、青いキラキラとした光り。あまりにも遠くまで広がり過ぎて、空との境界が曖昧だ。どこか先程見た、青の広場を彷彿とさせる光景だった。
「あれが海っ!? すごいすごい! 早く行こ! イノリス!」
イノリスに乗っていたルサルカが大はしゃぎだ。イノリスに早く行くようにせがむ。イノリスはルサルカの意を汲んで走り出す。
「キャー!」
「なんだっ!?」
突然現れた猛獣に道行く人は大混乱だ。行く先々で悲鳴が上がる。だがイノリスはおかまいなしだ。海を目指してどんどん進んでいく。街並みはいつの間にか途切れ、砂場へと変わっていた。イノリスがやっと止まる。イノリスの足元に水が押し寄せては引いていく。水? ひょっとして、このキラキラ光る平坦は全て水なのか!? とても大きな池? 川? なんと形容すべきなのだろう? とにかく、とてもとても広い、目に見える一面が水だ。
「これが……海……ッ!」
ルサルカが呟く。これが海なのか。なんとも現実離れした光景だな。
「すごい! すごいよ、イノリス!」
ルサルカがイノリスから飛び降り、波打つ水に近づき、手を水に触れる。
「ひゃっ! ハハッ冷たい! 冷たいよ、イノリス! あっ!みんなー!」
「もう、ずるいですわ、一人だけ先に行くなんて」
「ごめんごめん」
アリアたちが息を弾ませながら、こちらに近づいて来る。その目は広い海に注がれていた。
「すごいわね。これ全部水なのよね」
「キラキラと輝いてまるで宝石のよう、それに匂いも……まるで心が洗われるようですわ」
「みんなも来なよ、冷たくて気持ちいいよ」
その言葉に誘われて、アリアたちが靴と靴下を脱ぐ、それを見てルサルカも一度戻って来て靴と靴下を脱ぎ始めた。そして四人は波打ち際へと進んでいく。
「冷たっ!」
「波で足元の砂がさらわれて、まるで撫でられているようで、くすぐったいですわ」
「アリア!」
「キャッ! やったわね、お返しよ!」
ヒルダとレイラは波打ち際で静かに佇み、アリアとルサルカは少し奥へと進み、二人で水をかけあって遊んでいる。
「くらえっ! 必殺技! ……あっ……」
「キャッ! ……もう二人とも!」
「やってくれましたわね。レイラさん、二人にはお仕置きが必要だと思いませんか?」
「えぇ、思いますヒルダ様」
ルサルカがヒルダとレイラにも水をかけてしまった。それにより、ヒルダとレイラも水かけ遊びに参加。いつの間にか、アリアとルサルカ対ヒルダとレイラのチーム戦になっていた。
そんな様子を眺めながら、我ら使い魔たちは砂浜で横になっていた。砂がじんわり暖かくて気持ちがいい。水辺からは距離を取っている。毛を濡らしたくないからな。ここなら水が飛んでくることもあるまい。
その後もアリアたちは水をかけ合ったり、追いかけっこしたり、砂浜に寝転んだり、砂遊びしたり、思い思いに砂浜で時を過ごした。そして夕方。
「綺麗ね」
「えぇ、本当に」
四人は海に沈む夕日に見とれていた。全てが赤に染まる黄昏時。空も海も赤に染まり、海は夕日に照らされてキラキラと輝き、まるで宝石のようだ。
「お腹減った」
「ふふっ。ではそろそろ夕食にしましょうか」
「でしたら私、皆さんにぜひ食べていただきたい料理があります。カルパッチョというのですけど……」
「えっ!? 生の魚なんて食べて大丈夫なの!?」
四人が賑やかに話しながら海を後にする。我も最後に振り返り、夕日を眺めてからアリアたちの後を追った。
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