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038 常に裸でいい

 翌朝。日が昇ってしばらく経った頃、アリアたちは活動を開始した。一番初めに目を覚ましたのはルサルカだった。ルサルカが他の皆を起こすと、のそのそと他の三人が起きる。起きた四人は服を着替えたり、ぼさぼさの髪を梳かしたりと朝から大忙しだ。結局、四人が宿を出たのは、起きてから随分と経ってからだった。髪は整える必要があるのは分かるが、着替えは一々面倒だから常に裸でいいと思うんだがなぁ。時間の節約になるし、身軽にもなる。良いことしかない。


 宿を出た我らは、昨日と同じ店で朝食を取った。我の飯はもちろん肉とチーズだ。この至高の組み合わせしかありえない。我はこの素晴らしさを広めたくて、リノアとイノリスにも勧めてみたが、反応はあまり芳しく無かった。こんなに美味しいのに、なぜだ?


「では、先にハンターギルドでオオカミを換金。その後、必要な物資を購入して町を出ましょう」


 我が飯に夢中になってる内に、なにか決まったらしい。しかし、必要な物資か……。我にはチーズが必要だ。


「アリア、我がチーズが欲しい」

「さっき食べたばかりじゃない。まだ食べ足りないの?」

「そうではない。これからここを離れるのだろう? 道中の飯にチーズが食べたいのだ」


 アリアが考え込んでいる。ダメなのだろうか?


「ちょっといいかしら。確かパンが余ってたわよね? それでサンドウィッチを作らない? それでなんだけど……チーズを買ってもらえないかしら?」

「いいですね。ふふっ、ひょっとして、クロちゃんのおねだりですか?」

「わたくしもいい考えだと思います。余らしておくのは、もったいないですからね」

「あたしも賛成」


 おぉ! これはチーズを買ってくれる流れなのではないか!? でかしたぞ、アリア!


「皆、ありがとう。ほら、あなたもお礼言いなさい」


 そう言って、アリアが我を抱え上げて皆の方に突き出した。


「皆、感謝するぞ!」


 チーズをくれるのだ、感謝くらいする。心の底からな。


「では行きましょうか。最初はハンターギルドです」



 ◇



 ハンターギルドは、大通りに居を構える大きく立派な建物だった。盾をバックに剣と杖が交差し、弓と開かれた本が盾の上下に描かれている、なんだかごちゃごちゃした紋章が目印だ。我らはさっそくギルドの中に入る。残念ながらイノリスは外でお留守番だ。


 中は外観から想像した通り広かった。広い床の半分をテーブルと椅子が占拠しており、そのいくつかに人が座っている。食事も出しているのか、食事中の者も居た。テーブルと椅子が鎮座する反対側には、カウンターテーブルがあり、カウンターの向こう側には二人の人間が居た。


「あちらが受付のようですね」


 カウンターの方へと踏み出そうとした時、二人の人間が我らに近づいてきた。二人とも競っているかのように速足だ。


「おはようございます、お嬢様方。本日はどのようなご依頼で? ご依頼なら是非、我ら『天駆ける流星』に」

「いえいえ、ご依頼なら是非、私達『天魔』に。そこのボンクラの寝言など聞いてはいけませんよ」

「あ?」

「なんです?」


 二人の男が睨み付け合う。どことなく不穏な空気だ。これが人間の威嚇か。猫なら毛を逆立てたり、大声で唸ったりするのだが、人間の威嚇とは静かに行うのだな。毛も逆立ってない。


「あの、わたくしたちは……」

「おっと、すみません。害虫が鬱陶しくて。暑くなってきましたからね。全く、嫌な季節になりました。ところでどうでしょう? 我ら『天駆ける流星』は、どのようなご依頼だろうと完璧に果たしてみせますよ」

「害虫……? それは自己紹介でしょうか? 私達『天魔』は女性のパーティメンバーも居りますので、お嬢様方も安心、安全ですよ」


 二人の男がニコリと笑顔を見せるが、目が笑ってない。どこか嘘くさい笑みだな。


「あたしたち、依頼で来たんじゃないよ」

「依頼じゃ……」

「……ない?」


 ルサルカの言葉に、二人の男は、きょとんとした表情になった。威嚇し合っていたのに、仲いいな君たち。


「そ、そうでしたか。それは失礼しました。ご依頼の際は『天駆ける流星』をよろしくお願いします」

「私たち『天魔』をどうかお忘れなきよう。ご依頼はいつでも歓迎しております」


 二人がそれぞれのテーブルに戻っていく。それぞれのテーブルには数人の人間が席に座っていた。きっと二人の仲間の類だろう。


「何だったのかしら?」

「賑やかな方達でしたね」

「依頼を待っていたようですが……。お仕事が無いのかしら? あぁ、それよりも今はオオカミを換金してしまいましょう」


 ヒルダが今度こそカウンターへと歩き出す。今度は邪魔されず、カウンターまでたどり着けた。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 カウンターの中ではギルドの受付嬢が待っており、アリアたちを代表してヒルダが受付嬢と会話を進めていく。我のしたことと言えば、皆と一緒にカウンターの奥の解体室に行き、そこでオオカミを影から出したことくらいだ。受付嬢の小難しい話は右から左にポイッとしてしまった。人間同士の取り決めなど、猫の我には関係ないしな。オオカミを影から出した我はお役御免となり、その後はイノリスの所でアリアたちがギルドから出てくるのを待っていた。アリアたちが出てくるのはしばらく経った後だった。オオカミの査定に時間がかかったらしい。


「そんなに高く売れなかったわね……」

「皮を剥ぐ手間賃に、残ったオオカミの死体の処理費、ギルドのメンバーではないので手数料も割高でしたし、マイナスにならなかっただけ、良かったかもしれません……」


 アリアとレイラが深いため息を吐く。どうやら、そんなにお金がもらえなかったらしい。残念だ。お金がいっぱいあれば、たくさんのチーズが買えるのに。


「さぁ、気を取り直して、買い物いたしましょう」


 ヒルダの号令に従い、アリアたちは店を巡っていく。買う物は、肉や野菜の食料品が主だった。もちろんチーズも買う。今から昼飯が楽しみだ。


「水も新しいものに交換いたしましょう」


 街の人間に井戸の場所を尋ねる。井戸は大通りから少し外れた広場の真ん中にあった。そこで一度樽の水を捨てて、井戸の水を樽に入れていく。水は腐るからな。こうして交換できる時に、新しい水に交換するらしい。


「忘れ物はないかしら?」


「食料や水は多めに用意してありますし、大丈夫ではないですか?」


 我がイノリスの背中でうたた寝しているうちに、どうやら出発の準備が整ったらしい。


「サンベルジュ方面は……こちらですね。行きましょう」


 方向を確認し、街の外れへと歩き出す。空を見上げると太陽は未だ東に傾き、昼までにはまだ時間がある。きっと、これから夕方まで歩き通しなのだろう。ここ二日間、そんな調子だ。我はイノリスに乗っているから問題はないが……アリアたちは大丈夫だろうか?

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