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034 敵が来るぞ!

 夕食後、アリア達は毛布を広げ寝床を作っていた。焚火を四人で囲うようにして寝るみたいだ。


「夜の寝ずの番の順番はわたくしから時計回りにいたしましょう。ここに15分の砂時計があるので、二時間毎に交代でいかがかしら?」

「よろしいのではないでしょうか?」

「では、そのようにしましょう」

「寝ずの番とは何をするんだ?」


 我はアリアに問いかける。


「寝ないで辺りに異常がないか確認するのよ」


 ほう。普段は無防備に深く眠っている奴も、流石に外で寝る時は警戒をするらしい。ぜひともこれを機に警戒することの大切さを学んでほしいものだ。寝ずの番の順番を決めると、四人の会話はすぐに雑談へとすり替わっていった。うーむ……。


「ヒルダ様、お貴族様ってどんな生活なんですか?」

「貴族と言っても様々です。わたくしの家はそれほど裕福ではないので、平民の方とそう変わりはありませんわよ」

「でも香水してる。あと綺麗なパンツだった」

「見てましたの!? まぁ、そういう外面を取り繕うことに腐心しておりますわ。貴族は見栄っ張りなのです。パンを買うよりも香水を買うことを優先するくらいですから」


 皆、特にアリアとルサルカは貴族というものに関心があるようだ。貴族は人間のボスのような存在と聞いた。ボスの動向が気になるのだろう。


「パーティーとか出るんですか?」

「わたくしはまだ子どもなので、知り合い同士の小さなパーティーしか経験ありませんわ。本格的に社交界にデビューするのは成人してからなの」

「どうして特待生でお貴族様はヒルダ様しかいないの?」

「それは……」


 これまでアリアとルサルカの質問に澱みなく答えていたヒルダが、ルサルカの質問に初めて言葉を詰まらせる。


「普通の貴族は特待生にならないのです。授業料を払って普通に入学します。特待生になるのは授業料を払えないと公言しているようなもの。見栄っ張りな貴族はそれを良しとはいたしません。でも、わたくしはそんな嘲りを受けてでも魔導士になりたかったのです。わたくしの夢の為にも、どうしても魔導士になる必要があったのです」

「夢……ですか?」


 レイラが小さく首を傾げたのが見えた。ヒルダの夢とは何だろう?


 ヒルダが口を開こうとしたまさにその瞬間―――。


「ピピピピッ!」

「待て! アリア敵が来るぞ!」

「えっ!?敵!?」


 森の方から、走るにはやや遅い速度で何かが接近しているのを感知した。友好的な雰囲気ではない。敵意ではなく殺気を感じる。こちらを殺そうと何者かが近づいてくる。キースも気付いているのだろう。先程から飛び回りながら鳴いている。


「グルルルルルルルルルルルルル……ッ!」


「どうしたのイノリス? 敵っ!?」


 イノリスも気付いたようだ。起き上がり、皆を守るように森の方に向け一番前に出る。


「ヒルダ様、敵が来るってクロが」

「キースも同じです。森の方から来るようです」

「イノリスも」

「皆さんこちらに。……迎え撃ちましょう!」


 ヒルダは迎え撃つことに決めたようだ。懐から本を取り出し、構えている。


「魔導書、鞄の中だ」


 アリアの呟きが聞こえた。


 なんだと!? アリアの魔術がないと我にはろくな攻撃手段がないぞ!?


 しかも、ルサルカやレイラまで本を取り出そうとしない。コイツ等もか!? この場でまともな戦闘能力を持っているのは、イノリス、ヒルダしかいない。戦闘開始前に戦力が半分以下になってしまった。なんだこれ。流石にマズくないか?


 こちらが敵襲に気付いたのを相手も感づいたのか、相手は足音も隠さずにこちらに詰め寄ってくる。そして遂に草をかき分け、ソイツは姿を現した。大きい。身体を支える四肢は太く、力が漲っている。浅く開いた口からは鋭い牙が見え、牙の間からは涎が垂れていた。明らかに捕食者の顔だ。目は血走り、完全にアリア達を目標に定めている。強大な人間をも獲物にする生粋の捕食者。恐らくこの界隈の生態系の頂点……ッ!


「ヒッ!」

「オオカミッ!?」


 アリアが叫ぶ。なるほど、これがオオカミか。犬に似ているが、犬よりも鋭角的な、暴力的な印象を受ける。オオカミは大きいとはいえ、イノリスよりも小柄だ。しかし、オオカミはイノリスの姿を見ても引かない。勝算があるのか? これはマズいかもしれない。オオカミの目はアリア達に向けられ、イノリスなど見ていない。オオカミがイノリスを無視してアリアたちを襲ったら……一人二人は犠牲が出るかもしれない。もしかしてそれを狙っているのか?


 イノリスもオオカミの狙いに気付いたのか、オオカミとアリア達の間に立ちはだかった。それが引き金になったのか、オオカミがついに動き出す。オオカミが大きく左に踏み出し、すぐに右に舵を切った。


 フェイント!?


 まさか、オオカミがそんなことをするなんて思わなかった。イノリスも釣られてしまったのだろう。体が左に動いている。完全に裏をかかれた……ッ!


 オオカミがイノリスの右を駆け抜けんとする。速い。イノリスが抜けらてしまったら、アリアたちを守る壁は我しか居ない。アリアの魔術の援護がない我など、とてもではないがオオカミには敵わない。だが、オオカミの足を一瞬止めるくらいなら、命を賭せば可能かもしれない。その隙にイノリスがオオカミを仕留めてくれれば。それに賭けるしかないか……ッ!


 その時、左に動いていたイノリスの動きが急加速した。イノリスはそのまま左回りに一回転し、イノリスを駆け抜け、アリアたちに迫るオオカミの頭を左前脚で薙ぎ払った。凄まじい速さで振り抜かれたその打撃に、オオカミが弾け飛ぶ。いや、オオカミの大部分はこの場に残っている。飛んで行ったのはオオカミの頭部だ。頭部を無くしたオオカミの身体はそのまま二、三歩駆け、ドサリと地面に崩れ落ちた。


 我はそれを呆然と見ることしかできなかった。イノリス……強いとは思っていたが、これほどとは……。先程の動きの速さは明らかに常軌を逸していた。アレがイノリスの魔法なのだろうか?


「勝ったの……?」


 しばらく経ち、事態が掴めたのか、アリア達がノロノロと動き出す。


「ハッ! 皆さん警戒を! オオカミは群れで行動するものです!」

「ッ! キースに周辺を偵察させます!」


 ヒルダが皆に警戒を促し、レイラがキースに指示を出す。


 そうなのか。あんなのが群れで来たら、さすがのイノリスでも守り切るのは難しいのではないだろうか? かなり危険な状況だ。どうする? 我とアリアだけなら影に入り込めば何とかなるが……他の人間は影に入れることはできるのだろうか?


「付近にオオカミの姿はありません」


 レイラの言葉に、もたらされたのは、安堵よりも困惑だった。


「どういうことでしょう? まさか逸れオオカミでしょうか?」

「その可能性が高そうです」


 オオカミの群れは近くに居ないらしい。まずは一安心だな。だが、群れではないとしたら、あのオオカミは、どうしてイノリスを見ても襲ってきたのだ? 力量の差くらい読めそうなものだが。我はオオカミの死体に近づいて視てみる。


 強大に見えたオオカミは、よく見ると痩せ細っていた。毛皮越しにもアバラが浮いており、腹なんてぺちゃんこだった。飢えていたのだろう。オオカミの血走った眼を思い出す。飢えて正常な判断ができなくなっていたのか、それとも、ここで食べねば死ぬと思い定めての襲撃だったのか……。


「ひとまず安全を確保できたと考えていいでしょう。それにしても、まさか本当にオオカミが出るなんて……」

「火は点けていたのですけどね……恐れる素振りも見せませんでした」


 レイラの言う通り、野生の動物は火を恐れる。今回のオオカミは恐れなかったが、それはこのオオカミが飢えて正常な判断ができなかっただけなのか、それとも、オオカミとは火を恐れない動物なのだろうか……。


「これは寝ずの番を考え直した方が良いかもしれません。二人一組で行うことにしましょう。それと使い魔の方が異常を察知するのが早かったです。寝ずの番には使い魔も参加させた方が良いと思います」

「そうですね。その方が良いかもしれません」


 ヒルダとレイラはオオカミの襲撃を重く受け止めているようだ。夜間の警戒を二人に増やすらしい。まぁ妥当な判断だろう。


「この死体どうする? 臭い」


 ルサルカが鼻を摘まんで顔の前で手を振っているのが見えた。


「そうですね。皮など換金できるかもしれませんけど持ち歩くのも……もったいないですが燃やしてしまいますか?」

「そう言うことならクロにしまってもらいましょ。クロ」


 オオカミの死体は持っていくらしい。我はアリアの指示に従って、オオカミの死体を影の中にしまった。



 ◇



 オオカミの襲撃の後、二組に分かれた。寝る組と警戒組である。最初の警戒はヒルダとルサルカが担当するようだ。我はアリアと一緒に毛布にくるまる。毛布の中でアリアが抱きついてきた。寝づらいから離してほしい。だが、いつまで経ってもアリアは我を離そうとはしなかった。アリアが手に持った魔導書とアリアの胸に挟まれて息苦しい。アリアの浅く早い息が聞こえる。どうやら緊張しているらしい。当然、眠ってなどいない。


「眠れないのか?」

「えぇ。なんだか怖くて。寝てしまったらそのまま死んでしまうような気がしちゃって……」

「そんなことはない。ヒルダやルサルカ、リノアにイノリスも警戒している。当然、我もだ。イノリスの強さを見ただろう? オオカミなど束になってもイノリスに勝てやしないさ。安心して眠るがいい」

「うん……」


 アリアの不安は晴れないのだろう。まだ浅く早い呼吸だ。しかし、先程よりも落ち着いたか。これ以上の安心を我はアリアに与えてやれない……こともないか? 我はアリアを影の中にしまった。


「ひゃっ!?」


 我の影の中から、アリアの驚いた声が聞こえる。


「我の影の中だ。そこなら安心して眠れるだろう?」


「そっか……うん。ありがとうクロ」


 やっと安心したのか、しばらくするとアリアの寝息が聞こえてきた。やれやれ、世話が焼けるな。

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