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033 なぜ裸になることをこんなに拒むのだろうか?

 夕方。一行は足を止め、野営の準備を始めていた。どうやら今日は、ここで夜を明かすらしい。


「クロ、私達の荷物を全部出して」


 アリアの指示に、我は潜影の魔法を解除して、預かっていた荷物を全て出した。我の後ろに荷物の群れが姿を現す。


「とりあえず必要な物は、毛布と鍋、ナイフかしら? 薪は近くに森があるので、そこで拾いましょう」

「日が暮れない内に急いで拾ってきましょう」

「知ってるかもしれないけど、なるべく乾いた物の方が良いわよ」


 生乾きの木を火に入れると、大量の煙が出たり、嫌な臭いがして大変らしい。


 アリアたち四人が、夕日に燃える森へと歩を進める。我はどうしようか。寝て待ってようかな。


「クロも来て。薪を持って欲しいの」


 やれやれ。我は四人に続いて森へと歩き出した。



 ◇



 薪拾いも終わり、野営地に戻ってきた。我は影の中にしまいこんでいた薪を取り出す。アリアたちは、石を組み上げて即席の竈を作り、その中に薪を入れていく。


「えーっと、発火の魔道具はっと……あった!」


 アリアが薪に手をかざすと薪から煙が上がり、火が付いた。火はパチパチと音を立てながら次第に燃え広がり、暗くなってきた辺りを照らしだす。


「ありがとうございます、アリア」


 アリアが使ったのは、本人も言っていたが発火の魔道具か……。風だけではなく火も操れるとは……魔術とは、人間とは恐ろしいな。危険であるはずの火を見ても怖がらないし、人間はどこか他の動物とは違うものを感じる。


「日が暮れると冷えますね。火が使えて良かったです。森が近くにあるのも助かりました」


 レイラの言葉に、アリアたち三人が頷いて返す。


「そうね。昼間汗をかいたから、下着が湿って余計に寒く感じるわ」

「服変えたい……」


 アリアとルサルカは、今すぐにでも着替えたいようだ。


「わたくしも、できれば汗を拭いて着替えたいですが、外で裸になるというのも……」

「左様ですね。私もちょっと……」

「きっと誰も見てないわよ」


 ヒルダ、レイラの二人は、外で裸になるのを躊躇っているようだ。なぜ裸になることをこんなに拒むのだろうか? まぁ我にとってはどうでもいい。我はイノリスに体を預けて寝転がる。


「ではこうしましょう。一人が着替えて、三人が毛布を使って目隠しを作る。これでどうですか?」


 レイラの案に、皆が頷ているのが見えた。


「それ、いいじゃない」

「丁度、お湯も沸きましたし、これで身体を清めてしまいましょう」


 ようやくなにか決まったようだ。三人が毛布を広げて立ち上がって三角の空間を作り、一人がその中に入ってゴソゴソと動いている。何してるんだ?


 我は気になって毛布の壁に近づき、入り込んだ。中では裸で毛布の上に腰を下ろしたレイラが布で首筋を拭っているところだった。布を持った手は首から胸を通り腹へと落ちていく。毛布で囲った空間だからか、中はレイラの匂いで溢れていた。


「あら、クロちゃん。いけませんよ。メッです」


 レイラに怒られたが、何故だ? 解せん。


「もう、しょうがないですね」


 レイラが手で我を優しく撫でて、我を抱え上げた。そして我を毛布の外に出した。我はそれに逆らわず毛布の外に出た。どうやら外に出て欲しかったらしい。


「また後で遊びましょうね」


 もしかしたら、レイラもハゲを見られるのが恥ずかしい人種なのかもしれない。レイラも髪以外余り生えていなかったからな……。股座にちょびっと生えた毛など、逆に哀愁を誘うくらいだ。それにしても、レイラのあの身体は……いや、我の見間違いかもしれない。昼間元気に歩いていたから、おそらく平気だろう。


 四人が交代で汗を拭い、下着を着替えて、しばらく経ち、ようやく晩飯になった。我の晩飯のメニューは昼と同じ物だった。


「スープが美味しいですね。味付けをしてないのに、干し肉や野菜からよくお出汁が出ています」

「パンを浸して食べてもおいしいですよ」

「パン、硬いわね。日持ちする物だから仕方ないんだけど」


 外だというのに、相変わらず警戒のケの字もない奴らだな。アリアたちはすっかり食事に夢中だ。


 やれやれ。我は顔を洗いながら周囲を見渡し、音を拾って、アリアたちの代わりに警戒態勢をとった。見れば、リノアも、イノリスも、キースも、周囲を警戒していた。主たちよりも、使い魔たちの方がよほど頼りになるな。


 周囲の警戒をしていると、アリアたちの方から良い匂いがしてきた。


「このくらいでいいかしら」


 アリアがパンになにかを塗って食べている。


「おいしい。これおいしいわよ」


 ほう、そんなに美味しいのか。我は匂いに誘われてアリアに近づく。


「アリア、何を食べてるんだ?」

「何ってチーズだけど……。もしかして欲しいの?」

「欲しい」

「ちょっとだけよ。あんまり無いんだから」


 アリアがチーズを手に垂らし、我の前に手を差し出した。差し出された手には白っぽい黄色い物が乗っていた。これがチーズか。まずは臭いを嗅ぐ。良い匂いだ。いや若干臭いか? だが、なんとも食欲を誘う匂いだ。次に舐めてみる。甘味が強く、ちょっと塩味を感じる。そして強い、豊かな旨味を感じた。なんだこれ、めちゃくちゃ美味い。余裕の食堂の鳥肉越えだ。猫生で一番の味だ。美味すぎる。気が付いたらアリアの手に乗ったチーズを食べ尽していた。その事実が信じられず、チーズの味を求めてアリアの手を何度も舐めてしまう。


「ふふっ。くすぐったいわよ」


 アリアの手が戻されてしまった。


「アリア、我はチーズが欲しい!」


 アリアに跳びかからんばかりに詰め寄る。なんとしてもチーズが欲しい。


「きゃっ。もうクロ、分かったから止めなさい」

「どうしたんですかアリア?」

「クロ、チーズが好きみたいで。もっと寄越せってうるさいの」

「あら、匂いで嫌がりそうなものですけど……フレッシュチーズだからかしら?」


 そんなことよりも早くチーズが欲しいのだが。アリアの足にすり寄り、身体を擦りつける。


「分かったわよ。はい、クロ。これでお終いよ。お代わりはないからね」


 アリアがチーズを手に乗せてこちらに差し出した。早速舐める。うん、美味い。ただ美味いだけではなく、なんだか懐かしい味のような気がする。なんだろう? 思い出せない。まぁ、思い出せないものはいい。それよりもチーズの美味さに集中しなくては。チーズは噛むと、ぐにゅっと潰れ、脂を吐き出す。チーズとは肉の類なのだろうか? その脂が美味い。美味い美味いと食べてるうちにチーズは無くなってしまった。ぐぬぬ……もう無いのか。名残惜しくてまたアリアの手をペロペロ舐める。


「はい、お終いよ」


 アリアの手が引っ込められてしまった。


「もう無いのか?」

「まだチーズはあるけど、また今度よ」


 そう言うとアリアは自分の食事に戻ってしまう。


「もう、クロにあげたせいで、私のチーズが無くなっちゃったわ」

「まだありますから、焼きましょうか?」

「いいわ、遠慮しとく。またクロに取られちゃいそうだもの」


 まだあるなら貰えば良いではないか。遠慮する意味が分からぬ。そしたらまた我も食べれるかもしれないのに。チーズを食べ足りず、顔を洗う気も起きないまま、我はしばらくアリアを見ていた。

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