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010 イノリス

 教室に入るとアリアはルサルカ、レイラと談笑していた。仲が良さそうだな。


「あ、クロム。やっと来たわね」


 アリアが我の登場に気が付いた。心なしか、その顔は安堵に緩んでいる。我が約束を破るか心配でもしていたのだろう。失礼な奴め。我は約束を守る猫だ。


「女の子を待たせるなんて、なってないぞー?」


 ルサルカが冗談めかしにこちらをからかう。


「待たせたか?」

「さっき授業が終わったところだから、そんなには」


 我の問いに、アリアが首を横に振って答えた。長く黒い髪の毛がゆらゆらと揺れるのを、ついも見つめてしまう。


「さ、早くイノリスの所いこうよー」

「そうですね。猫ちゃんも来ましたし、そろそろ……」


 ルサルカに急かされて、我は三人に続いて教室を出る。どうやら、これからルサルカの使い魔に会いに行くらしい。そういえば、まだ会ってなかったな。


 だが、三人の進む方向にだんだんと不安がこみ上げてきた。こっちは化け物のいた中庭に続く道だぞ!? 今ならまだ引き返せる。引き返すべきだ。


「アリア!」

「なに?」

「こっちは……」


 しかし、我の忠告は遅かった。先頭を歩いていたルサルカが突然走り出し、校舎の角を曲がり中庭へと駆けて行ってしまう。最悪だ。まだ間に合うか!? 我はアリア達を置いてルサルカを追い中庭へと入る。


「待て赤毛! そっちには……ッ!」


 ルサルカは狂っているのか、化け物へ向かって走っていく。化け物も接近するルサルカに気が付き身を起こした。そして、その口をわずかに開け満面の笑みを見せた。それはそうだろう。餌が自ら飛んで来るのだ。笑いが止まらないに違いない。


 ダメだ、もう間に合わない……ッ!


「イノリスー!」


 ルサルカが化け物に飛びついた。そのまま首に抱きつき頬ずりまで始める始末だ。


「ゴロゴロゴロ」


 化け物もまんざらでもないのか、ゴロゴロと喉を鳴らし満面の笑みだ。ルサルカの頭に頬ずりしている。なんだこれは?


 呆然としている我の後ろからアリアとレイラが現れ、驚愕に固まっている我を抜き去り、化け物に近づいていく。


「クロム? どうしたのよ。いくわよ?」


 アリアに話しかけられて、ようやく我の頭が再起動する。ルサルカがイノリスと呼んで化け物に抱きついた。化け物もそれを受け入れている。イノリスとは、確かルサルカの使い魔の名前のはずだ。化け物の首には使い魔の証があった。つまり、この化け物がイノリスでルサルカの使い魔?


 そんなバカな! 


 あれは人に御せるような、そんな生易しいものではないはずだ。しかし、目の前ではルサルカに続きアリア、レイラまでイノリスを撫でている。なんだこれ?


 我は意を決してイノリスに少しづつ近づいていく。


「アリア、危険はないのか?」


 我は一応アリアに確認をとる。


「え? あー確かに最初はびっくりするかもしれないけど、イノリスは良い子よ?」


 良い子? この化け物が?


「どうかしたの?」

「なんかクロムが怖がってるみたいで」


 それは怖いだろ? 相手は化け物だぞ? え? 我がおかしいの?


 アリアが我の後ろに回り込んで、我を抱き上げた。


「ほら、今日はクロムの顔見せなんだから。しっかり挨拶しなさい」


 アリアがだんだんとイノリスに近づいていく。


「おいアリア! 止めよ!」

「こら、暴れないの!」


 そう言うとアリアは我をイノリスの鼻先に突き出した。


「イノリス、この子が私の使い魔のクロム。仲良くしてあげてね」


 イノリスの目線が完全にこちらを捕捉している。イノリスが口を開いた!? もうダメだ。お終いだ。我は思わず目を閉じてしまった。


 ベロン―――ッ!


 顔に何か柔らかいものが触れた。食われた!? しかし、予想に反して痛みは訪れなかった。我は不審に思い目を開けてみる。


 ベロン―――ッ!


 イノリスが俺の頬を舐めていた。コイツ……我を食うつもりじゃないのか?


 恐る恐るイノリスの顔を見ると、イノリスは友好的な笑みを浮かべていた。猫みたいな顔立ちだからか、我にはイノリスの表情が読める。むしろ、人間の表情より読みやすいくらいだ。コイツ、我の仲間になりたいのか?


 イノリスの柔和な笑みの瞳の向こうには、大きな図体には似合わぬ、拒絶を恐れる弱い心が見えた。その目を見て分かった。どうやらコイツは本気で我の仲間になりたいらしい。


 こうまでされては……応えぬわけにはいくまい。我は身を乗り出すとイノリスの鼻に自分の鼻をピトッとくっつけた。


「よろしくな」

「にゃ~」


 無事に挨拶が済んだと判断されたのか、やっとアリアが我を開放する。


「ね? 良い子でしょ」

「そうだな……」


 我を食べなかっただけで良い子だと思える。一応、挨拶を交わしはしたが、我は未だイノリスの事を信じきれずにいた。


「友達になれて良かったね、イノリスー!」


ルサルカがイノリスをわしゃわしゃと撫でまわしている。アイツ、あんなに毛並みが乱されてるのに……懐広いなぁ。


「じゃあ、私そろそろ先生の所に行ってくる」

「先生にご用があるのでしたか?」


 レイラの問いかけに、アリアは浮かない顔をして頷いた。


「えぇ、クロムのことでちょっとね……」

「クロムの? どうかしたの?」

「うーん……まずは先生に訊いてみるわ」

「そう? じゃあ、また食堂でー!」

「うん。またねー」


 手を振るルサルカとレイラ、そしてイノリスと別れて先生とやらの所にいく。先生って、たしか教室で訳分からん話を延々としていた奴のことだろ? なんだか会うのは気が進まないな……。

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