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ドーベルマン  作者: 湯ノ村
10/19

鼻で笑う

「クラスメイトですよ」


「僕はよく虐められていたから、分かります。彼は誰に恨まれていても不思議ではなかったですよ」


「せいせいしてます」


 被害者の悪評が警察の事情聴取を経ずにお茶の間に流れる違和感は、まるで箝口令が敷かれる前の聞き捨てならない惹句となり、視聴者を釘付けにした。被害者の死を悼むつもりでいたニュースキャスターはスタジオにて、進行役としての杓子定規な言葉に逃げる。


「それでは次のニュースです」


 警察の目が真っ先に向いたのはやはり、少年であった。上記の件も合わせて妥当な結果だ。事情聴取は他の生徒と比べて直接的な質問を多く投げかけられ、時間と行動を精査し、第三者の証言を集めて人的証拠を積み上げていく。


「それにしても、とんでもない力で押し潰されてますよ」


 被害者の頭部に残された挫滅創傷は、他に類を見ないものであり、死を決定付ける犯行の道具が凡そ思い付かなかった。頭蓋骨が人間の握力によって押し潰されたなどと、誰が想像するだろうか。ただ、目を皿にして情報を集めたメディア関係者が、事件に大きく関わっていると踏んで少年の自宅へ連日詰めかけた。


「勘弁してよ……」


 よもや、息子が犯人だとは夢にも思っていない母親は、窓から見える人集りを疎ましそうに覗く。会社への出勤に外へ出ざるを得ない父親は、玄関の前で何度も息を吸い込み直す。


「お話聞かせてもらっても宜しいでしょうかか?!」


「繭村恵里尾くんがインタビューで被害者の子について語っていましたよね」


 槍のように飛んでくる声を尽く無視し、父親は早足で通勤の途に就く。休校を命じられ、物見違い聴衆の玩具にされずに済んでいた少年もとい恵里尾は、とある晩、意を決する。それは二階に設けた自室の窓を開けるところから始まって、隣家の屋根に跳躍する大きな展開を意味した。月下を背負った恵里尾の影法師は、どこまでも軽やかで悔恨などの後ろ暗さはない。清涼たる髪のなびきは、三階建てのアパートのバルコニーにて、収まる。閉め切られたクリーム色のカーテンが、草の根を分けるように割れ開き、闇夜の礫と然のみ変わらぬ恵里尾の登場を快く受け入れた。


「林田さん」


 満面の笑みを浮かべた林田は、窓越しに恵里尾に告げる。


「いらっしゃい」


 恵里尾の性質を寡黙で取るに足らない人物像として認識し、クラスに一人は必ず居るであろう、その他大勢に分類された人畜無害の存在だと口を揃えてそう証言する。道理を外れた同級生の惨殺を、本来なら起こり得ない与太話のように語り、揺れ動いた自身の感情について言及し終わる。淡々と事件の概要と数多の証言をもとに恵里尾の輪郭を薄ぼんやりと捉えると、家族構成や経済状況などで肉付けしていき、荒んだ恵里尾の心の内を読み解こうと血眼になって推測を組み立てていく。ニュース番組に出演するコメンテーターは、事件が起きた原因を最もらしい口調で語る。


「どいつとこいつも、的外れな上に口だけは達者だから厄介だ」


 ソファーに腰掛けて苦言を呈す恵里尾の肩に林田は手を置く。


「言わせておけ。毒にも薬にもならない戯言を吐くのが仕事なんだ」

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