とある世界の建国神話
傲慢な王国を討伐するための連合軍は王都まで迫り、遠方に頼る者がいる人々は逃げ出した。そんな逃げ出す馬車のうちの1台に、母親と少女二人の家族、一人の老人、俯いてボソボソと何かを言っているフードを深く被り顔の見えない青年の5人が乗っていた。
夜になり馬車が野営地に到着しても青年は何かを言い続けているだけであった。
そんな青年が気になったのか、少女の片方、姉と思われる方が青年に話しかけてきた。
「おにーさんどうしたの?」
青年は、勢いよく顔を上げるが、話しかけてきたのが見知らぬ少女だとわかるとまた俯いてしまう。
青年のその行動に少女は革袋を探り、何かを手に持つ。
そしてそれを青年の口に突っ込んだ。
「!?・・・甘・・・い」
「元気がないときは、飴玉でも食べて!何があったのかはわからないけど、生きなきゃ!」
少女のその言葉に青年は何か思うことがあったのか、懐に手を入れ、少女に差し出す。
「こんな状況なのに、こんな僕に施しをありがとう。これはもう価値が無くなってしまうかもしれないが、僕がそうはさせない。君の優しい心に報いるために。」
そう言い、青年は少女に硬貨を1枚渡し、立ち去った。
少女の心には、青年の銀色の瞳と紫色の髪が思い出として刻まれた。
その後、連合軍は人の醜さに嫌気が差していなくなったはずであった魔王討伐の英雄である勇者が突如戻ってきたことによって追い払われた。
それを傲慢な王国の王は喜んだが、勇者は王に死か退位かを迫り、傲慢な王国は勇者の国として生まれ変わり、身分に関係なく学ぶことができる学園が設立された。
少女は王国が正された後、青年に渡された白金貨を元手に商会を作り、5年後、王に謁見できるほどの大商会になった。
少女は青年が勇者だったのだと思い、王となった勇者を訪ねた。
しかし、王はあの時の青年ではなかった。勇者は老人であり、80歳を超えていた。あの時の馬車に乗っていた老人だ。勇者が言うには、あの時の青年の行動に心を動かされたので、あの青年を探しているということだった。
少女は青年を探すため金に糸目をつけず3年の間探し続けたが、見つかることはなかった。
勇者は90歳に達し、国を民主制に移行し、青年を探す旅に出ることにした。
勇者が少女に青年の特徴を聞くと、勇者は信じられない気分であった。青年の特徴である銀の瞳と紫の髪は、70年以上前、自身がこの世界に召喚される要因となった、討伐したはずの魔王のみに現れる特徴だったからだ。
勇者は手がかりを得るため、過去仲間たちと旅した魔王城への道を、1人で歩み始めた。
道のりは過酷ではあった物の、障害となる魔物たちがいないため、討伐時と同じ1年でたどり着くことができた。
そして、魔王城で勇者は知恵の女神と出会い、真実を知った。魔王であると、悪であると信じて討伐した存在は、人の神だったのだ。神が手を出しすぎては人のためにならないと、隠居していたが、傲慢の国を筆頭とした7つの大罪の王国は再びその力が振るわれることを恐れ、いけにえを捧げ、勇者を呼び出した。そして、その勇者が本当に人の神を殺すことができたため、7つの大罪の国々は欲望に突き動かされて他の国との戦争を始めたのだ。勇者がいる傲慢の国は他の大罪の王国に囲まれているために攻め入ることができず、そして他の6の王国が敗れた後も神を超えた勇者がいる傲慢の国だけは攻め入られることなく残っていたというのだ。
勇者は、今魔王がどこにいるのか女神に尋ねたが、返事はなかった。
再び1年の時を経て国に戻ってきた勇者の目には、荒れ地が広がっていた。意味が分からなかった。勇者は慟哭し、聖剣を振るった。すると空が割れ、荒廃した王都が現れた。
勇者は王都の民に尋ねる。1年前はこのようなことはなかったではないか、と。だが、民はずっと昔からこうでした、と言った。
勇者は理解ができず、王城に殴り込んだ。すると、そこには、寿命で死んだはずの傲慢の国の王がいた。
勇者は悪い夢を見ていると判断し、聖剣を振るった。
視界が光で満ち、収まった時、勇者の目の前に魔王、いや人の神がいた。
人の神は言う。
最初に目にした世界は勇者が召喚されなかった世界である、と。人の神が力を振るい、国ごと滅び去ったのだ。と。
そして続けて、次に目にした世界は、魔王を討伐した勇者が傲慢の国の王に従い、他国に攻め入った世界である、と。すべてを手中に収めても満足しなかった王は、さらに強欲になりあのような世界を生み出したのだ、と。
人の神は優しく微笑み、そしてこれから君が目にするのが、君が自らの力で得た、素晴らしい世界だ。神の手によってはなしえなかった世界だ。と。
気が付くと勇者は王都の市場の真ん中に立っていた。にぎやかな市場には笑顔があふれている。
そう、君は間違っていない。これは君が頑張ったからこの世界に実現したんだ。その言葉が勇者の頭に響く。
勇者は青年が何者だったのかを少女に伝えるため商会のあるはずの場所に向かったが、そこには何もなかった。
その場にあったのは、創造神と、その娘である知恵の神、魔法の神の教会であった。
あの少女も、神だったのか?勇者は、神々の掌の上で踊らされている、いや、勇者の出身地の慣用句でいうと、狐につままれたような気分になったが、人々の笑顔に溢れた良い国を作れたことに満足し、王都の端の小さな一軒家で余命を過ごした。
寿命が尽きるとき、勇者の体は光に包まれ天に昇って消えたが、それを見たものは誰もいなかった。
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