第44話 決闘! ノアVSグレン
「では審判は拙者がさせていただくでござる。魔術師同士の決闘でござるが、相手を殺すような魔術は禁止でござる。気絶するか参った、降参と言ったらそれまで。いいでござるか?」
「おい。なんだこのキャラが濃いのは」
「生徒会の先輩よ」
「答えになってないぞ!」
私とグレンは五大貴族の人間なのでそれに関わる者は審判から除外された。
教師達は場所こそ提供したが厄介事に巻き込まれて職を失いたくないと拒否したので必然的にヨハン先輩が審判になった。
「最後に確認でござる。ノア殿が勝てばグレン殿の申し出は全て却下。あと校内での過度な勧誘活動の禁止。グレン殿が勝てば令嬢達の奉仕活動の終了。生徒会の解散と再選挙の実施。これで相違ないでござるな?」
「相違ない」
「私も問題ないわ」
ヨハン先輩の手に握られているのは魔術が込められた誓約書だ。
もしもコレに違反すれば解除不可能な呪いが発動して最悪の場合私達は死ぬ。
署名したのは私とグレン、それからロナルド会長で、今回の誓約書の期間は対象者が学校を卒業するまで続く。
紙切れ一枚なのに効力が強過ぎるから誰も使いたがらない代物だ。
「ふん。逃げなかったのは褒めてやろう。だが、貴様ではこの俺には勝てない。実力の差を見せつけてやろう!」
「言っておくけど、負けても後から文句言わないでよね」
ヨハン先輩が立つ場所を中心として私とグレンは十メートルほど距離を取る。
周囲の野次馬の中にはキッドの他にマックスやティガー、フレデリカもいる。
みんなが見ている前で無様な負け方はしたくないけれど、正直相性が悪いとしか思えない。
ゲームでノアが最強だったのは災禍の魔女の力に呑まれていて、強い手下がいたからだ。
私の中の魔女の力は眠っているし、万全の状態でタイマンの決闘なんて不利でしかない。
「でも、負けるわけにはいかないわ」
ここで負ければブルーが生徒会から外されるのは勿論、グレンが新しい会長になれば南部の生徒は今以上に増長する。
その時に被害に遭うのはエリンのような貴族ではない子やフレデリカの友人のように南部の人間に従わないものだろう。
そんなものを私は見捨てておけない。
「それでは、よーい」
正面に立つグレンは体内の魔力を高めている。
私の知識が通用するならばグレンには守護聖獣がある。それを出されてしまっては私の負けだ。
また、長引けば男女の体格差で私の方が先にスタミナ切れで動けなくなるのでなるべく早く決着をつける。
最初から全力を出すために私も魔力を全身に流す。
【魔力装填。術式の選択を開始】
「始め!」
掲げられたヨハン先輩の腕が振り下ろされて戦いのゴングが鳴る。
「いでよ、我が守護聖獣【朱雀】!!」
こちらの読み通りにグレンは最強の手札を切った。
ティガーの白虎と同格にして、かつて災禍の魔女を討ち倒した力。
「そうはさせないわ」
──重力操作魔術【増】。
ダン! と私は足を踏み出す。
最初の一手でグレンの周囲の重力を増加させて魔術を中断させて動きを鈍らせる。
「くっ。体が重い!」
彼の頭上に現れようとしていた紅蓮の炎が作り上げていた鳥が霧散する。
でも、私の攻撃はこれじゃ終わらない。
── 操影魔術【縛】
続けて私の足元から伸びた影がグレンの体に纏わりついて彼を縛り付ける。
「なっ、腕が!?」
「そしてコレが!」
最後に発動するのは今の私が得意とする魔術。
マックスのお母さんを助けるためにメフィストから教わった呪術。その発展版にしてキッドを救うために使った魔弾。
「ガンド! ──ガトリング!!」
親指と人差し指を突き出して拳銃のような形にする。
それを両手で構えて魔力の続く限り撃ち込む!!
「そんな低級の呪いで!」
「低級でも数撃ちゃ痛いわよ?」
連射をする分、どうしても一発の威力は下がってしまう。
野球の硬球から柔らかいゴムボールくらいに。
でも、いくら柔らかいからといって何百何千発も当たり続ければダメージは蓄積される。
更に、忘れてはいけないのはこれはただの魔力がこもった弾丸ではなく呪いが込められている。
「頭痛! 腹痛! 筋肉痛! 腰痛肩こり喉の痛みを味わいなさい!!」
一つ一つはただの体調不良だけど、それが全部同時に襲い掛かればなんのその。
「あいたたたたたっ!? 貴様、やることがセコいぞ!」
「いきなり守護聖獣使おうとした奴に言われたくないわよ!」
ガガガガガガッ!! と連続した発射音が鳴り止み、私の魔力が切れかけてやっと攻撃が止まる。
土煙りが晴れると、そこには執拗に顔を狙われたグレンは蜂に刺されたみたいに顔を真っ赤に腫れさせていた。元がイケメンだってわからないレベルだ。
「ぜーはー。降参しなさいよ」
「ま、まだだ……俺はこの程度では……」
私は肩で息をしながら重力と影の魔術を解除する。
あの二つは使っているだけで魔力を消耗してしまうのだ。
流石は五大貴族の後継者にして守護聖獣に選ばれたメインキャラ。タフさは一流か、それとも痩せ我慢か。
決着をつけるために私は指先に魔力を溜めながらグレンの側へ近づく。
これから使う魔術は対象に直接触れなければ効果がないからだ。
「なら、これが最後通告よ。降参しなさいグレン。さもなくば私のとびっきりの呪いを貴方にかけるわよ」
「ふん。どのような呪いを受けようとこの俺が降参などするわけが──」
「── 皆が見ている中で漏らしたら一生貴方のあだ名は大変なことになるわね?」
「……降参! 降参するから近寄るな!!」
それまで足が震えながらも耐えていたグレンが地面に尻もちをついて情けない声を出しながら後退る。
「勝負あり! 勝者はノア・シュバルツ殿!!」
ヨハン先輩の宣言によって勝敗が決まった。
周囲からはグレンの敗北に対する悲鳴が聞こえて来る。
「お嬢!」
真っ先に私の元へ駆け寄ってきたのはキッドだった。
それに続くようにマックス達もやって来た。
「すごいよノアさん!」
「流石は姐さんだな。グレンの野郎がボロ負けだ」
「姉御が圧勝でアタシはスカッとしたぜ!」
みんなが私を褒めてくれるが、そんな優しい勝負ではなかった。
もしも最初にグレンが別の魔術を使って演習場全体を焼き尽くすような真似をしてきたら対処が出来なかったし、呪いへの耐性や素の筋力が強くて影の拘束を破られていたら打つ手がなかった。
「まさかお嬢があのコンボを使うなんてな。対蝙蝠男用っすよね?」
「そうよ。本来ならあそこまでやって足止め。攻撃はキッドに任せるつもりだったもの」
私というか、ノア自身の力は実は攻撃タイプではなくてサポートタイプだったりする。
黒魔術は相手を害するものが多く、ゲーム風にいうとデバブ特化。いかに相手の全力を出させないようにするかという戦い方だ。
魔女の力が全力で使えればそんな狡い戦い方はせずに圧倒的な魔力で呪いを振り撒けばそれで相手は死ぬ。
しかし、メフィストによって魔女の力は眠っているのでこれが今の私の戦い方だ。
「いやぁ〜。流石はシュバルツ家の後継者でござるな。容赦無く相手を追い詰める戦法には拙者を含めてギャラリーがドン引きでした」
「え? やっぱり?」
「それでも勝利だ。君のね」
ヨハン先輩とロナルド会長も私に労いの言葉をかけてくれる。
ニヤニヤと笑うヨハン先輩と違ってロナルド会長はホッとしたような顔をしていた。
私が負けたら生徒会長をクビになっていたんだものね。自分以外の人の人生を背負っていたから勝つ事が出来て肩の荷が降りたわ。
「クソっ! 卑怯だぞノア・シュバルツ!」
わいわいと私の周囲が盛り上がっていると、そんな声が耳に入った。
体のあちこちが痛くて足を引き摺っているグレンがこちらに向かって吠える。
「最初に朱雀を呼び出せていれば俺の勝ちだった!」
「「「そうだそうだ!」」」
グレンの勝利を見ようと集まった派閥の子達も声を上げる。
「あのね? これは魔術を使った決闘で真剣勝負なんでしょ。だったら勝つために何でもするわよ」
というか、守護聖獣なんてものを出されたら私は今頃丸焼きになっていた。
「だからってあんなグレン様を痛ぶるような真似をするのか!」
「それでも貴族か! 誇りはないのか!」
「こんな勝負は無効ですわ!」
外野がどんどん盛り上がっていく。
彼の勝利を疑わなかった人達は私の勝ちに不満のようだ。
こうなったら残りの魔力で全員に小指をぶつけた痛みを与える呪いでもかけようかしら?
「口を慎め! 生徒諸君!!」
魔術を使おうとした私とグレン派閥の間に立って大きな声を出したのはロナルド会長だった。
「異議は認めない。これは正式な手続きによって行われた決闘だ。グレン・ルージュが負けを認めた時点で誓約書の魔術は発動している」
慌ててヨハン先輩が誓約書を取り出してみんなに見せつける。
誓約書から魔力を感じ取れるので、キチンと勝敗は決まったようだ。
「もしも諸君らが認めないというのであれば……」
グレンとその派閥を睨みつけるロナルド会長の体から大気を震わせるような膨大な魔力が迸る。
さっきの戦いでグレンが見せたような、いや、それ以上の圧倒的な魔力が形を作る。
「【青龍】、顕現せよ」
ブルー家の人間が使役する守護聖獣。
髭と角の生えた東洋風の龍がとぐろを巻いて低く唸る。
これが生徒会長の、魔術学校で最強の男が持つ力。
「へっ、ならオレも。出てこい【白虎】!!」
なんの対抗心を出したのかティガーまでも守護聖獣を呼び出した。
青い鱗を持つ龍の隣に真っ白な毛並みの虎が現れた。
五年前に私が初めて見た時とは違い、高身長のティガーが上に跨ってもまだ余裕のあるサイズの巨大な虎だ。
「姐さんに文句あるってならその喧嘩をこのティガー・ヴァイスが買うぜ? かかってこいや!」
「兄貴だけじゃなくてアタシも相手だ!」
オマケとしてフレデリカも並び立つ。
私が戦闘民族兄妹に頭を抱えていると、キッドとマックスも……頭が痛そうにしていた。
「はいはい。ここは出番じゃないから下がりましょうねティガー様」
「駄目だよフレデリカさん。女の子がそんな乱暴じゃ」
退場させられたヴァイス兄妹。
白虎はちょっと残念そうな鳴き声を出して消えた。
「こほん。……やる気かな? この私の青龍を相手にして」
「ちっ。もういい下がれ貴様ら」
気を取り直したロナルド会長の言葉に怯えるグレン派閥の子達。
それを見たグレンは彼らを手で制した。
「このままでは勝てん。俺は万全ではないし、敵は守護聖獣を使う。……クソっ」
リーダーであるグレンは悔しそうに言った。
プライドが高くて諦めの悪い彼だが、このまま乱闘騒ぎにでもなったらどちらが被害を受けるかは理解しているようだ。
「誓約書の内容は認めよう。だがしかし、俺は自分の実力で貴様に劣ったとは思わないからなノア・シュバルツ!! 行くぞお前ら!」
なんだかカッコいい風を装った捨て台詞を吐き捨てて、グレンは派閥を引き連れて演習場から出て行った。
ただの野次馬や教師達もそれぞれが散っていき、残ったのは生徒会メンバーと私の友人だけになった。
「ちっ。なんだよアレ」
「全くだよな兄貴」
「お嬢ってば変なのに目をつけられてましたね」
「勘弁して欲しいわよ……」
あの場を退いてくれたのはいいけど、なんだか厄介な事になってそうで嫌な予感がするわね。
「お疲れ様でしたロナルド会長。拙者は感動しましたぞ!」
「あぁ、そうね。助かりましたわロナルド会長」
「義務を果たしたまでだ。当然のね」
この人がいなかったらグレンが折れることなんてなかったに違いない。
エタメモ攻略キャラの唯一の先輩として頼れる活躍をしてくれたわ。流石は年長者。
「僕の出る幕は無かったな……」
「安心してマックス。フレデリカを止めてくれただけで十分よ」
守護聖獣を出さずに一人落ち込むマックスだけど、おかげで五大貴族三つ巴の大乱闘が起こらずに済んだから顔を上げなさい。
「まぁ、とりあえずはこれでこの騒ぎは解決したってことでいいのかしらね?」
「それなんですけど、わたしから提案があるんです」
私がこれで〆ようとすると、それまで何も言わなかったエリンが口を開いた。
「ロナルド会長、お願いがあって──」




