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第20話 マックスVSティガー


 向かい合って立つ二人の少年。

 片方は緑髪の平均よりやや小さい身長の大人しそうな少年。

 片方は銀髪の高身長でしっかりとした筋肉がついた活発そうな少年。

 ガキ大将といじめられっ子くらいの差がある二人は互いに少し離れた位置で開始の合図を待っている。


「怪我しても文句は言うんじゃねーぞ。お坊ちゃん!」

「全力で戦うんだ。そんなことはしないよ」


 やる気満々なティガーと意外にも乗り気なマックス。

 どちらも原作開始時には突出した実力を持つ魔術師だけど果たして現在の実力はどうか。


「勝負、始め!」


 審判役のお父様の合図で試合は始まる。


「オラっ!」


 最初に動いたのはティガーだ。

 彼は持ち前の高い身体能力を活かして距離を詰める。

 近距離での殴り合いになれば彼の勝ちだ。

 一方のマックスは合図と共に両手を地面についた。

 すると、マックスの前の地面がボコボコと盛り上がって壁が生まれる。

 グルーン家が得意とするのは大地を利用した魔術だ。


「ちっ」


 突然現れた壁に驚いたティガーは横から回り込む作戦に切り替える。


「また壁かよ!」


 しかし、回り込んだ先にも同様の壁が現れて進路は塞がれる。

 そのままぐるりと一周するも三百六十度を土の壁が覆ってマックスの姿が見えなくなった。


「あんなボコボコと魔術使えるなんて流石はお貴族様っすね」

「そうなんだけど、マックスってば私よりも後から魔術の修行を始めたらしいのよ。キッドと大差ない期間であれだけの魔術を使えるみたいね」

「天才って奴か」


 正直、決着はすぐにつくと考えていたけれどマックスがここまで魔術を使えるとは思っていなかった。


「横がダメなら上だ!」


 壁を一周して入り口が無いことに気づいたティガーはジャンプして壁の上から攻撃しようとする。

 恐ろしいのはその跳躍力で、大人の身長よりも高い壁よりも遥かに高い位置に跳び上がった。

 多分、自分の足元に風属性の魔術を使っているのだろう。そうでもないとあんな軽やかにジャンプ出来ない。


「あのまま中に入られたら終わりね」

「時間稼ぎだと思いますぜ。ほら、」


 ティガーは一箇所だけ空いている上からの攻撃に移ろうとした。

 しかし、空中で急に体勢を捻って壁内への突撃をキャンセルする。

 直後、穴が空いている箇所から土の塊が打ち上げられた。


「ああやって入り口を絞ることで敵の狙いを固定してそこを迎え撃つ。やりますねぇ」

「……私だったらアレで負けよ」


 咄嗟の判断で避けたティガーも凄いけど、そんな作戦を立てて実行するマックスも凄い。

 私がティガーだったらそのまま罠に嵌ってたよ。


「へぇ。ガリガリのもやしみたいな奴かと思ってたらやるじゃねぇか!」

「そっちこそ。今ので勝てたと思ったよ」


 壁の一部が崩れてマックスが出てくる。

 どうして有利な場所から出てくるのかと思ったら、あのままだとお互いに攻撃出来なくて勝敗がつかないとキッドが解説してくれた。


「オヤジ! アレを使っていいか!」

「……いざとなれば俺が止める。やれ!」


 これからどう動くかと注目していると、外野にいる父に許可を求めるティガー。

 アレってなんだろう?


「出てこい! 【白虎】!!」


 全身から魔力を放出しながら少年が吠える。

 すると、ティガーの背後から一匹の白い虎が現れた。

 全体の大きさは大型犬くらいのサイズでまだ幼体のようだけど、放たれるプレッシャーはとてつもない。


「お嬢。なんだよあれ」

「あれは守護聖獣よ。実物は初めて見るわ」


 五大貴族の中でシュバルツ家以外の四つの家の人間しか呼び出すことの出来ない最高ランクの召喚獣。

 遥か昔、神話の時代に世界を生んだ女神から大地の守護を任された伝説の生き物。

 二百年前にはあの白虎を含む四匹の聖獣の力を使って【災禍の魔女】が討伐された。

 その強さは桁違いで、守護聖獣の力を使えるかどうかで五大貴族間のパワーバランスは大きく傾く。


「これがオレの本気だぜ! 覚悟しろや!」

「守護聖獣の白虎。こんなに凄いなんて……」


 少し離れて位置で観戦している私でさえもビリビリとした気迫に足がすくみそうになる。

 正面から向き合っているマックスは今にでも逃げ出したいだろう。


「やれ! 白虎!」

「ガァアアアアアアアアッ!!」


 主人であるティガーのひと声で聖獣はマックスへと突撃を開始し、大地を駆けるその身に風を纏いながら地面を削るように進む。


「ううっ……僕は逃げるもんか!!」


 その力は圧倒的でマックスが用意した土の壁ごと破壊しながら進んでいく。

 あわやマックスが虎に撥ね飛ばされると思った瞬間、人影が立ちはだかった。


「ふんぬぅ!」


 荒々しい声を出しながら白虎の前に割って入ったのは銀髪の大男。

 ヴァイス公爵が両手を突き出して魔術を使うと、守護聖獣は霧散して消えた。


「ふぅ。間に合ったな」

「助かったぜオヤジ。やっぱり白虎の制御はまだまだダメみたいだぜ」


 肩で息をしながら父に礼を言うティガー。

 ヴァイス公爵に守られたマックスは腰を抜かして地面に座り込んでいた。


「勝負あったようだな」


 お父様がティガーの勝ちを宣言する。

 私はマックスが心配になって彼の側に駆け寄った。


「大丈夫? マックス、怪我はない?」

「あははっ。負けちゃったんだね僕」


 服のあちこちに泥がついているが、血が流れている様子は無かった。


「すげぇ根性だったなお前。フレデリカでも泣いて逃げ出してたぜアレは」

「泣いてねぇし! 逃げてもねぇよ!」


 妹にポカポカと叩かれながらティガーがマックスの元へ来る。


「ううん。僕は何も出来なかっただけだよ。足が動かなくて逃げられなかったんだ」

「そうは見えなかったぜ。オマエ、名前は?」

「マックス。マックス・グルーンだよ」

「気に入った。これからはオレのライバルだなマックス!」


 ニカっと笑いながら地面に座るマックスに手を伸ばすティガー。

 どうやら正面から守護聖獣と戦おうとする姿勢が好ましかったようだ。

 戦って強かったから認めるってサッパリしてるわよね。武闘家みたいだ。


「俺のせがれの勝ちだな」

「そうだね。でも、マックスの成長が親として誇らしいよ」


 親同士もお互いの子供を認め合ったようだ。

 これでこの騒ぎもひと安心かな?


「ノアさんならもっと戦えたかもしれないのに僕はまだまだだね」

「へぇ……」


 立ち上がって服についた汚れを落としているとマックスがそんなことを言った。


「そんなことないわ。私なんかじゃマックスにも及ばないわよ。男の子ってやっぱり凄いわね」


 こちらを見るティガーから目を逸らしながら適当な言い訳をする。

 じっとこちらを見るティガー。必死に顔を見ないようにする私。

 た、助けて!


「まぁ、オレも疲れたし今日はいっか。白虎を呼ぶと魔力切れになるのが問題なんだよなぁ」


 ほっ。諦めてくれて助かった。

 ティガーは疲れたといってタオルを持って来てくれた使用人に飲み物の用意をさせる。

 それにしても守護聖獣というのは本当に別格な強さだ。

 ゲームでも最後の切り札って感じだったし、ヒロイン達が追い詰められた時も守護聖獣を呼べば大抵は勝てた。例外もいくつかあったけど、心配いらないだろう。

 まだ制御が完璧ではないティガーは数秒間だけしか呼び出せないようだけど、ゲームのラストバトル、ノアとの最終決戦では白虎に跨って無双していた。


「さて、子供達の顔合わせも済んだみたいだけどこの後はどうするのかな?」

「うーん。俺らで腕自慢するか?」

「馬鹿者。五大貴族の当主同士の戦いなどすれば屋敷が壊れるぞ。それよりも三家も集まったのだから滞っている政務について話すのが有意義であろう」

「そうしようか。北部領の話をしたいと思っていたんだ」


 ヴァイス公爵は暴れ足りなさそうだけど、グルーン公爵とお父様は提案を断った。

 子供同士ですら中庭が荒れてしまったのだ。当主同士なんて誰か巻き込まれて怪我人が出るわよ。


「その前に地面をならしておこうか」


 グルーン公爵が手に持っていた長い杖で地面を小突くと、ボコボコになっていた地面が元通り綺麗になった。

 ほんの僅かな時間で魔術を発動させたし、均等に整地するなんて魔術の制御が上手い。


「おい! 酒持って来てくれや!」

「馬鹿者! 昼間から酒など飲むな!」


 白虎を止めたヴァイス公爵もだけどこれだけ細かく魔術を調整するグルーン公爵も凄い。

 きっとお父様も二人と同じくらいに強いのだろう。

 だからこそ、そんな大人達が束になっても勝てなくて圧倒的な強さを持っていたノアがどれだけ規格外なのかが分かる。

 少なくとも今のままじゃ自分の身を守れるかも心配だ。

 あぁ、私も強くならなきゃ。


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