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第18話 二人目の攻略キャラ


 パッカパッカと私を乗せた馬車が王都の街を征く。

 いつもなら屋敷の地下で堅苦しい禁書と睨めっこしながら魔術についてあれこれ鍛練をしている頃だけど、今日は用事があってお出かけとなった。


「オレが付いてきてもよかったんすかね?」

「仕方ないわよ。メフィストは付いてこれないんだから」


 黒百合の紋章がペイントされた馬車の中、私の対面に座ってそわそわしているのは執事見習いのキッド。

 新調した他所行きの執事服を着ているが、成長することも考えて少し大きめに作ってあるので服に着られている感がある。

 髪も今日に合わせてピッシリとキマっている。

 私が指示してオールバック風になっていて、キッドの放つちょっと不良っぽい雰囲気を活かしている。


「この服慣れないな。早く脱ぎたい」

「我慢しなさいよ。私だってもっとラフな服装が良かったわよ」


 従者のキッドと同じように私の服装や髪もキッチリとしたものになっている。

 相変わらずの黒いドレス風の服に髪型はツインテール。

 子供っぽいので好きじゃないのだがメフィストが頑なに譲らずにこの髪型になった。

 あの悪魔は何を考えているのか今日は色々なものを私に押し付けてきた。後でしばく。


「五大貴族の会合なんて参加したくねぇっすよ」

「貴方は後ろに立ってるだけでしょ。私なんてもっと大変なんだから」


 私達の馬車が向かっているのは王都の西側にある貴族の屋敷。距離としてはシュバルツ家からそう遠くはない場所にある大豪邸だ。

 この辺りは貴族街とも呼ばれていて立派な屋敷が建ち並んでいるが、その中でも異彩を放つのが今回の目的地でもあるヴァイス公爵家の本邸だ。

 シュバルツ家、グルーン家に続く五大貴族の一つ。それがヴァイス家。


「会合って王城とかでするもんじゃないんすか」

「本来はそうなんだけれど、今回のはヴァイス家が主催の子供の顔合わせらしいわ」


 このアルビオン王国は百年前から王族がおらず、五大貴族と呼ばれる五つの貴族の家によって運営されている。

 彼らは定期的に主人が不在の王城に集まっては国家運営のための会議を開いている。

 ただし、今日行われるのはその五大貴族のヴァイス家が開くお披露目会のような会合だ。

 国家の今後についてではなく、自分の家の子供達を紹介し合おうというものだった。


「子供自慢なんてよっぽど自信があるんすね」

「当代最強の魔術師……なんて呼ばれているらしいわよ」

「そりゃあ凄いや」


 素直に感心するキッド。まだ見ぬ相手がどれほどの強者なのか興味があるようだ。

 一方の私は考えるだけで気分が落ち込む。

 五大貴族のヴァイスの子供で私と同い年の少年。つまりはラブメモの攻略対象だ。

 私の命を脅かす破滅フラグの一つだったりする。


「当代最強ってお嬢より強いんすかね」

「さぁ? 私も初めて会うしわからないわよ」


 これは嘘だ。

 もしもヴァイス家の彼が私の知っている通りの人間であれば今の私では太刀打ち出来ない。


「おっ。着きましたよ」

「お父様の馬車も先に着いているわね」


 全身を鎧で覆った屈強な門番が立つ門を抜けて奥へ進むと白い壁の美しい屋敷があった。

 シュバルツ家が不気味な幽霊屋敷、グルーン家が緑豊かな森の洋館とくればこちらは無骨な神殿風というところか。


「でっけぇ」


 大きな声でそう言ったキッドに私も同調するように頷く。

 流石はこの国でトップクラスの貴族。もはや小さな城と言っていいくらいの規模だ。

 庭は隣の家が見えないくらい広く、植えられた木々には果実がなっている。


「おーい。ノアさーん!」


 スケールの大きさに圧倒される私達が棒立ちしていると名前が呼ばれた。

 声の主は少し離れた位置に停車している馬車から降りてこちらへと小走りで近づいて来る。


「お久しぶりです。ノアさん」

「久しぶりね。マックス」


 緑髪に翡翠の瞳。子犬のような人懐っこい顔をしたグルーン家の子供。マックス・グルーンだ。


「また会えて嬉しいです」

「私もよ。あれ以降会えなくて心配していたのよ」

「ちょっと北部領に戻っていたので」


 申し訳なさそうにマックスは言った。

 話を聞くと、私が呪いを解いた彼の母の親戚にあたる人物が急死したらしい。

 その人はグルーン家が統治している北部領の中でもそこそこ重要なポジションにいたので、その対応や葬儀に出席するために王都を離れていたとか。


「ノアさんにはもっと早く再会したかったんだけど、中々戻れなくて」

「それは仕方ないわよ。私の方こそ手紙くらい出せばよかったわね」


 マックスと彼の母についてはその後が気にはなっていたが、こちらも孤児院の一件があったのですっかり後回しになっていた。

 今日の会合には五大貴族の当主とその子達が参加するのでマックスにも会えると思っていたが正解のようだ。


「そちらの方は?」

「紹介するわね。彼は新しく私の世話係になったキッドよ」

「どうも。キッドと言います。以後お見知り置きを」


 ガッチガチに固まったぎこちない態度で挨拶をするキッド。

 普段の軽い態度と違う姿に笑ってしまいそうになるが、本人は真剣なので黙っておく。


「よろしく。僕はマックス・グルーン。これから仲良くしてね」

「うっす」


 けれどそこは流石のマックス。

 優しい笑みを浮かべるとキッドの手を握った。

 落ち着いた雰囲気と柔らかい声のおかげか癒しのオーラのようなものが分泌されている。

 キッドも緊張しながらも先程までのぎこちなさは消えて手を握り返した。

 なんだかこの前会った時よりもマックスが社交的に成長しているような気がする。


「な、なにかなノアさん?」

「いいえ。なんでもないわ」


 男子三日会わざれば刮目して見よとはこのことか。

 親戚の子供が成長したくらいには嬉しかったので肩を叩いておく。


「えっと……?」

「あー、たまにお嬢はこういう奇行をするんでお気になさらず。多分悪意は無いんで」


 男の子同士でこそこそと話しているが、私はそんなことお構いなしにヴァイス邸へと足を進める。

 屋敷の玄関にも屈強そうな男が二人立っている。

 敷地の入り口もそうだけど警備が厳重なのね。


「本日はヴァイス家へお越しいただきありがとうございます。当主が中庭でお待ちしております」


 メイドさんに案内されて屋敷の内側にある中庭へと案内される。

 外の庭も広かったのに中にも庭があるなんて驚きだ。

 しかも広いし、池まである。

 中庭には屋根に瓦が使われた東屋があり、円形のテーブルを囲むように大人達が座っていた。


「西側は最近どうでしょうか」

「駄目だな。魔獣共の動きが活発化している」

「やはり数年以内に大侵攻(スタンピード)が起こるか」


 難しい顔で話をしている三人の男。

 一人は私のお父様。

 二人目は緑髪のダンディなおじ様で、おそらくマックスの父であるグルーン公爵。

 残る最後の逞しい肉体を持つ銀髪の巨漢がヴァイス家の当主か。


「皆様。御子息様達がお見えになりました」

「応。やっと来たか」


 巨漢がこちらを向いて席から立ち上がる。

 顔を見るには首をほぼ真上に向けないといけないのでどれくらい高い身長なのかがわかる。

 腕の太さなんて私の胴と同じサイズじゃないだろうか。


「ようこそ我がヴァイス邸へ……って、人数少なくないか?」

「ブルー家とルージュ家は欠席だ。ブルーは東部領に戻っている。ルージュ家は知らぬ」

「けっ。何様のつもりだアイツ等。この俺様が誘ったってのに」


 お父様の補足を聞いてヴァイス公爵が悪態をつく。

 今日集まるのは五大貴族のうちの三つだけのようだ。

 まぁいいかと巨漢が席に戻り、私達も一緒にテーブルに着く。

 キッドは使用人なので東屋の外で立って待機をする。

 公爵家の揃い踏みしている場から少し離れられて安堵の息を吐いたのを私は見逃さなかった。

 あっちに行っていいですか? ……はい。駄目ですね。


「我らの自己紹介は省く。この子が娘のノアだ」

「ごきげんよう。ノア・シュバルツです。以後お見知り置きを」


 トップバッターで名前を呼ばれたので焦ってしまったが、なんとか動揺がバレないように挨拶できた。

 椅子から立ち上がってスカートの裾を軽く摘み上げる。


「ではこちらも。息子のマックスだ」

「こんにちは。マックス・グルーンです。よろしくお願いします」


 貴族同士での交流に慣れているマックスはハキハキとした声で挨拶をした。

 ぺこりと頭を下げる姿には余裕を感じる。


「お前達! こっちに来い」


 最後はヴァイス公爵家。

 子供の姿が見えていなかったが、公爵が呼ぶと二つの人影が近づいて来た。


「アタシはフレデリカ・ヴァイスだ!」


 先に挨拶をしたのは活発そうな女の子。

 ショートカットな髪型とキリッとした顔つきから男の子にも見えるが、スカートを履いているのと声の高さから女の子だと判断できる。


 そしてもう一人。


「オレがティガー・ヴァイスだ! オラァ!」


 歯を剥き出しにしてこちらを睨み付けながら獣のように吠えるように名乗る少年が現れた。



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