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第114話 白虎門の戦い(ティガー視点)


「そこをどけよオラっ!」


 オレは力任せに近づいてきた魔術師をブン殴った。

 風を纏ったオレの拳は相手をきりもみ回転させながら遠くにブッ飛ばす。


「中に入れたのはいいが、キリがねぇな」


 白虎に乗ったまま白虎門に突撃して扉を勢いよく開いたのはいいけど、敵がわんさか待ち構えていやがった。

 遠くで閃光だったり火柱が上がったりしてるが見えたからマックスやグレンの野郎も上手く侵入は出来たみてぇだが、そこからがキツい。


「ティガー様! ここは我々が!」

「貴方は先に進んでください!!」


 オレと一緒に来た連中は北部領の奴が多いけど、腕のいい連中は大半がまだ西の砦で治療中だ。

 この場にいるのは怪我してんのに無理矢理着いてきた奴やオレと年が近くて弱い奴らだ。

 冒険者のまとめ役や魔力は無くても武術の達人みたいな奴らはみんなグレンの方に預けた。

 あの馬鹿はこういう作戦の時にプライドとか誇りとかを持ち出して自己犠牲しそうだからオレの判断は間違っていねぇと思う。


「バカ言ってんじゃねぇ! テメェらだけだと囲まれておしまいだろうが」

「ですがこのままでは目的が!」


 部下の言うことは正しい。

 オレ達の目標は城にいるブルー公爵家の人間を捕まえるか殺すかして東部領の連中の動きを止めることだ。

 ロナルド・ブルーっていう聖獣使いに親父ですら正面から戦いたくねぇって言ってた化け物ジジイもいる。

 後のことを考えるとここでいつまでもチンタラしてる場合じゃねぇ……ねぇけどよ……。


「仲間も守れねぇでヴァイス家の当主が務まるかってんだよぉ!」


 ちょうど敵に押し倒されて剣を刺されそうだった奴を助けて、殺そうとしていた敵を蹴り飛ばす。

 壁に叩きつけられて相手が気絶するのを確認すると別方向から火の球が飛んでくる。


「へっ。こんな火力じゃオレに効かねぇ!」


 グレンに遠く及ばない火を風で掻き消し、代わりに風を纏った蹴りをお見舞いすると、振り下ろした足に合わせて空飛ぶ斬撃が相手をねじ伏せた。


「ふぅーふぅ─」


 戦場の何処を見ても油断が出来ねぇ。

 オレが目を離した隙にどいつもこいつも死にかけちまう。

 まだ魔力には余裕があるが、先に体力と集中力の方が尽きるかもしれねぇ。


「……(クイッ)」


 イライラしてるオレが心配になったのかローブ被ってる女が服を引っ張った。


「わりぃ。確かに力を借りてぇがオマエはまだだ。バレちゃいけねぇ」


 同じローブを被って王都に入ってる女は三人いる。

 ルージュ家のババァが言うには敵が一番脅威として排除したいのはエリンだから狙いを分散させる必要があるんだとよ。

 そのおかげでオレらが相手するのは敵の総戦力から分散した部隊だけで済んでる。

 これがバレたら他の場所にいる敵から増援が送り込まれるってんだからタチが悪い。


「ここはオレが相手するから一人で……ってのは無理があるよな」

「……(ションボリ)」


 ローブのフードが下を向く。

 残念だが敵の攻撃を掻い潜って単身で城に突撃しろってのはいくらなんでも無茶だったな。

 こういう時に姐さんならいつの間にか忍び込んでこっそり敵のボスを殴り飛ばしてそうだけど、同じことを求めるのは酷な話だ。

 靴に暗器を仕込んでたり触れるだけで状態異常の呪いを撒いたり挙句には魔女の力まで使いこなしてた姐さんがどんだけ規格外なのか改めて実感する。


「落ち込むなよ。テメェはオレが必ず送り届ける」


 オレ自身が辿り着けなくても他の二ヶ所からきっと誰かが駆けつけてくれるはずだ。

 マックスもグレンもそう簡単に負けるような奴じゃないし、女勢も一筋縄じゃいかないからな。


「若様。やはりこのままでは埒があきません」

「テメェら、まだオレに逆らうのか?」

「いずれヴァイス家を継ぐというのなら我々臣下の気持ちも汲み取ってください!!」


 部下の一人、親父からのお気に入りでもあったやつがオレに掴みかかってきた。

 若くて年も近いからオレと一緒に親父から武術の手解きを受けていた奴だ。


「私からもお願いしますティガー様!」

「リーリャ、テメェもかよ」


 腕に包帯を巻いた状態でモーニングスターを振り回すフレデリカのルームメイトで側近だった女だ。

 まだ学生なのに砦の補給部隊に志願してここまで食いついてきた根性のある奴だが、実力不足で危なっかしい。


「私たちは弱いし、足手まといかもしれません。けれどそんなのは百も承知でこの戦いに参加したんです」

「若様の荷物になるくらいならこの場で捨て石になる覚悟はあります」


 敵は東部領の貴族連中。

 有り難いことに想定していた中でも一番厄介そうな騎士団の姿は見えねぇ。

 けど、国境を防衛するために対人戦闘技術を学んだ東部の人間とずっと魔獣相手に戦ってきた西部の人間じゃどっちの分が悪いかなんて一目でわかる。


「それでもオレは……」


 足は止まらねぇし、拳も振り下ろして襲ってくる敵を迎撃する。

 だけど心が前に進まない。決心がつかない。

 ここでオレが離れちまったら、オレが知らない所でコイツらが怪我して死んじまうかもしれない。

 親父や、姐さんのように……。


「「若様(ティガー様)!!」」

「くそっ、どうすりゃ……」


 どうもオレらしくない精神状態になっている。

 それも当然で、オレよりずっと強かった姐さんや親父ですら全部は守れないし手が届かねぇ。

 なのに二人よりも弱いオレじゃ、身近な仲間すら失う可能性が高い。

 子供の頃みたいに何だって出来るくらいにオレは強くて凄いって思えていたら良かった。

 けどよ、攫われて自分より強い本物の化け物を見ちまってビビったんだ。

 そこからは人を頼ることが悪いことじゃないって学んだし、仲間との連携も身につけた。


 オレは一匹狼なんかじゃなくて、群れを率いるリーダーになりたいんだ。


 誘拐事件が終わって親父にそう言ったら嬉しそうに頭を撫でてくれた。

 そっからオレの夢は親父みたいな立派な男になることになった。

 だけど、夢ってのは遠くて掴めない。


「……オレは弱い。それに情けないからテメェらを見捨てるなんて出来ねぇ。誰かがいなくなるなんて認めなくねぇんだよ!!」


 オレを慕ってくれている連中に心に秘めていた本音をぶつける。

 こんな場所で何を言ってんだって呆れられたり笑われるかもしれねぇ。


「コレがオレだ! 文句あるかよぉ!!」


 無茶苦茶言ってる自覚はある。

 マックスやフレデリカがいたら苦笑されるし、グレンからは馬鹿って言われそうだ。

 姐さんなら何て言うかな? 


「ふん。あのフーガ・ヴァイスの息子と聞いて警戒したがとんだ甘ちゃんだな」

「このままお仲間と一緒に親父の元へ送ってやるぞ」


 敵の中からかなり強そうな奴が出て来た。

 二人がかりでオレを抑え込むつもりらしい。

 倒せなくもないけど、その隙にローブの女や仲間が殺されちまうかもしれねぇ。


「くっそぉおおおおおっ!!」


 ありったけの魔力で白虎をもう一度呼び出す?

 いいや。それじゃ間に合わないし、その後に魔力切れになって詰む。

 損得を割り切れなくて、覚悟ある仲間の気持ちを汲み取れなくて、我儘のせいで最悪の結末が訪れる。


 ──その筈だった。


「どっこいっしょ!」


 突然、何処からか熊みたいな厳つい顔をしたハゲのおっさんが現れた。

 手には少し錆びついたバスターソードっていう太い剣が握られている。


「いやぁ、久しぶりに振り回すから腰やりそうだな」


 おっさんは慣れた手つきでバスターソードを振り回すとリーリャに攻撃していた連中を蹴散らした。


「おっさん、誰だ!?」

「俺はしがない菓子店の亭主だ。昔は冒険者をやっていてそれなりに腕が立つぞ!」

「いや、マジで誰だよ……」


 急に現れた謎のおっさん。

 まぁ、腕が立つってのは本当らしいけど魔力を感じないから鍛えているだけの一般人だ。


「ここは危ねぇぞ。さっさと家に隠れてろ」

「そんなわけにはいかないさ。若者達が命をかけて戦っているのに大人が見て見ぬふりなんてしたらカッコ悪いだろ?」

「だからっておっさん一人じゃ、」

「一人じゃない。俺と同じように機会を窺ってた連中はまだいるぞ」


 おっさんがニカっと笑うと何処からとも無く矢が飛んできた。

 空を見上げると、近くの建物の窓から年取った爺さんがボウガンを構えていた。


「わしは昔猟師をしておったんじゃ。腕が鈍って誤射するかもしれんが援護するぞ〜」

「安心出来るかジジィ!」


 プルプルしながら装填して矢を討つジジィ。

 東部領の敵が呆気に取られていると近くの路地からぞろぞろと人が集まって来た。


「僕も戦うぞ!」

「アタシも暴れてやるさね」

「肉屋の包丁捌きを舐めてもらっちゃ困るぶひ」

「引退した執事ですが元は騎士の端くれ。今一度剣を振りましょう」


 どいつもこいつもまともな装備や武器を持っていないような奴ばかりだ。

 中には貴族街から年寄りや見たことある魔術学校の生徒までバラバラな連中が何百人も集まった。


「何だよテメェら……」

「ここにいるのは皆んな、戦う力が足りなくて機会を待っていた人々だ。流石に正面から騎士団に立ち向かうのは無謀でね。君達が暴れているのを見て好機だと踏んだんだ」


 菓子屋のおっさんが説明してくれた。

 確かに西部領に行ったのは現役で戦える魔術師や冒険者で志願しなかった学生や非戦闘員は王都に残っていた。


「だけどよぉ、普通こんなに集まるか?」

「それは君が時間を稼いでいてくれたからだ。仲間と共に足掻いてしぶとく生き残ってくれたからこそ集まったんだ」


 オレのおかげだって言うのか?

 あんなに情けなくてみっともない姿を晒していたオレの?


「そうだろ皆んな!」

「「「おーっ!!」」」


 おっさんの言葉に集まった連中が腕を突き上げて答える。


「少年! ……えっと、ヴァイスさま?」

「呼び名なんてどうでもいいぜ。そんなもん気にしねぇよ」

「では少年。ここは俺達と君の仲間に任せて先に行きたまえ。急いでいるんだろ?」

「あぁ。何が何でもブッ飛ばさないといけねぇ奴らが城にいるんだ」

「俺達に出来るのはこれくらいだ。だからそっちは任せた」

「おうよ!!」


 リーリャと兄弟子に視線を送ると二人共力強く頷いてくれた。

 相手は未だに健在とはいえ、多勢に無勢だしこれなら後を任せられる。

 さっさとブルー家の奴らを倒せば被害だって最小限に抑えられる筈だよなぁ!


「最高速度で駆け抜けるぜ。しっかり掴まってろよ」


 オレは救援に駆け付けてくれた奴らと部下達に背中を託してローブの女を抱き上げ、走り出す。

 風の魔術を使うオレなら最速で城まで辿り着けるから与えられた役目がある。


「あばよ野郎共! なんてキザな台詞は言わねぇ。行ってくるぜダチ公!!」


 風を切りながら鼻をぐずぐずさせるオレの顔はとてもじゃねぇが見せられねぇ。

 待ってろよロナルド・ブルー。姐さんの分もまとめてオレがブン殴ってやるからよぉ!





 ♦︎




「ヒュー。お涙頂戴ってヤツかねぇ? まぁ、仕事が楽になりそうで俺としては助かるけどな」


 男が手にしている手配書に描いてあるのは三人の少年と一人の少女。


「しっかし、あの時のクソガキがあんなに成長するなんてなぁ……今ならいい値段で売り飛ばせそうだぜ」


 男は笑いながら姿を変化させる。

 すると現れたのは人間サイズの蝙蝠に近い怪物だった。


「さて、狩りのスタートだ」


 空を飛ぶ男の腕には笑う蝙蝠の刺青が彫ってあった。


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