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第113話 朱雀門の戦い(グレン視点)

 

「全員、突撃せよ!」


 俺が指揮をすると西部から共に着いてきた部下達が雄叫びを上げながら勇敢に朱雀門へと流れ込んでいく。

 正直な話だが、この戦場は他の二ヶ所と比べたら貧乏くじだ。

 朱雀大路は王都で一番道の幅が多く、店や人が集まる場所だが、都市設計としてはあえて敵が進軍しやすいように誘導し、包囲するための場所である。


「内からの防衛なら歓迎かもしれないが、攻め込むのは至難の業だな……」


 開門自体は容易だった。

 燃え盛る炎を纏った朱雀には生半可な攻撃は効かずに人も近づけないので、朱雀に外壁の魔術師を牽制させている隙に俺が門に触れ魔力を注ぎ込んだ。

 伯母上とエリンの言う通りに門は開いて部隊が潜ることは出来たのだが……。


「ここから先は我々が一歩も通さん!!」


 朱雀門の関所を少し通り過ぎた王都への一本道を塞ぐように盾を構え、重装甲の鎧に身を包んだ一団がいる。

 本来の役割は王都の守護であり、この国で五大貴族のトップや一部の例外を除けば最高戦力とも名高いアルビオン騎士団。

 そんな連中が無傷で俺の前に立ちはだかっていた。


「グレン・ルージュ殿とお見受けする。我が名はゴドリック・シアン。このアルビオン騎士団の騎士団長である」

「貴様のことは知っている。まさか国を守る騎士団が裏切り者になるとはな」


 騎士達の前に立って話している壮年男は数々の戦場を経験して下級貴族から騎士団長にまで上り詰めた本物の戦士だ。

 部下思いで正義感の強い男だったが、確か出身は東都だったな。


「どんな汚名も私は背負おう。しかし、この戦いは間違いなく王国に平和をもたらすための聖戦である」

「よく言う。何も知らない南部領や西部領生まれの騎士を大侵攻に送り込み、自分達は安全圏から奇襲して王都を制圧したくせに聖戦だと?」


 死の大地手前での砦の攻防にも騎士団の一部は参加していたので生き残った連中から情報は吐かせた。

 しかし、砦の騎士は何も知らず、ただ純粋に己の責務を果たしただけだった。

 例え自分が死んでも王都に残る仲間が国を守ってくれると信じて殉職した騎士も少なくないのに。


「死んだ部下に詫びる気は無いのか?」

「……必要な犠牲だった。大侵攻に参加した者達は立派な英雄だ」

「ならば何故、彼等の顔に泥を塗る。騎士としての誇りを失ったか!」


 問答をしながら敵戦力を分析してみるが、こちらの勝ち目は薄そうだな。

 朱雀を出して大暴れすれば有利に……とも考えたが、街中で無造作に火を放てば無関係な民を巻き込みかねない。

 くそっ。敵陣が自分のホームだとやりづらいことこの上ないな。


「貴殿のような若僧に何が分かる! この国は生まれ変わらねばならないのだ。今の不完全な在り方ではいずれ限界がくる。五大貴族による歪んだ政治を正すには武力による革命が求められているのだ!!」


 声を荒らげてゴドリックが叫ぶ。

 これがこの男が誇りを捨てて反乱をした理由か。


「若僧か……。確かに俺は未熟者であるし、貴様とは見てきた修羅場の数も違うのだろうな」


 かつての俺は何も見えていなかった。

 ただ母上に褒めてもらいたくて、父上のようにカッコよくなりたかった。

 伯母上のような凄い人に後継者に選ばれて自惚れてこの国の王になろうとした。


「だが、一つ疑問に思うことがある」

「何だと?」

「どうして道を塞ぐ者達の中に平民がいない? 城壁の上から攻撃していたのも親ブルー派の貴族達ばかりだったぞ」

「力を持たない平民なぞ国の革命をする戦場に相応しくないに決まっているではないか」


 当然のことだろうとゴドリックは言う。

 俺が質問した意味も理解できずに困惑するような表情さえ見せている。

 全く、かつての俺に似たことを考えているな。


「それでよく聖戦などと言えたな。革命をするなら、五大貴族の政治を正すというなら貴様達は民衆を味方につけて説得すべきだった」


 国民の大多数の願いならばそれをしっかりと受け止めて政治に反映するのが貴族の役目だ。

 俺の父上がそうやって南都の領地を栄えさせているように。

 魔力を持たず、戦う力が無くても貴族としての役目を果たしてきた。


「貴様達の言う国はただの名ばかりの飾りだ。例え王都を落とし、貴族の頭をすげ替えても何も変わりはしない。民衆を、国を支えてくれる人を、彼らひとりひとりの賛同もなしに革命などと笑わせるな!!」


 俺の体から炎が吹き荒れる。

 感情の昂りによって魔力の制御が甘くなって漏れ出してしまったせいだ。

 未熟者と伯母上に叱られてもおかしくないだろう。


「貴様達がやっていることはただの反乱だ。この国を脅かす大罪に過ぎない」

「……どうやら貴殿に何を言っても無駄なようだ」

「ハッ、言い返さないということは負けを認めるんだな? 自分達には正義などなく、ただ独裁者に唆されて手を汚しているだけだと」


 俺は目の前に立つ男が気に食わないし、王城にいるであろうブルー公爵家の老当主が嫌いだ。

 何故なら騎士団とブルー公爵家に与えられた役目は大侵攻の脅威から人々を、国を守る最後の盾となることだったのにそれを放棄した。


「俺は貴様達を許さん」


 西の砦で惨劇を見た。

 騎士も魔術師も冒険者も等しく死んだ。

 貴族でも平民でも関係なく自分達の大切なものを守りたいと武器を手にした者達が犠牲になった。


 そして、その惨劇を目にしても勇気を出して魔獣に挑んだ少女を見た。


 平民でありながら魔力を持っただけの女。

 与えられた力や流れる血筋がどれだけ高貴なものであっても何の学も箔もない一般人と変わらない。

 俺のように運命を自分で選ばせてもらって上を目指したのではなく、前に進まなければ大事なものや関わりもない全国民の命を失うと重荷を背負わされた同い年の少女がいた。


 その結果が最も親しい友の死であり、友が守りたかった国の陥落だと?

 ふざけるな! あの女は、エリンは頑張ったんだ! 俺がすぐ側でこの目で見てきた!!

 だからこんなふざけた結末は絶対に認められない。


「生き残っているアルビオン王国軍よ。こんな未熟な俺と共に命を投げ出す覚悟をしてくれないか?」


 怒りを魔力に込めて熱を生み出す。

 交渉の余地もなくゴドリックを含む騎士団は無言で剣を構えるだけになった。

 いくら俺が聖獣使いで、優れた魔術師であっても無傷の騎士団を相手に生き残れる確率は低い。

 むしろ俺のこの場での役目は連中を他の二ヶ所に行かせないよう数を減らすことだ。

 そのためには一人でも協力者が欲しい。


「あーあ、貴族のトップって言うからどんな冷血な奴かと思ったら熱いじゃないの少年」


 俺の前に大斧を構えた冒険者風の男が立った。


「お前、グレン様に向かって失礼だぞ。漢を見せた姿に感動したのは同意するがな」


 次に前に出たのは西部領の紋章がマントに縫い付けてある貴族の魔術師だった。


「私は南都の貴族として主人の共をします。ご立派でしたよ坊ちゃん」

「ゴドリック団長、オレは自分の騎士としての鞘を彼に預けます」

「子供ばっかりにいい顔はさせられねぇな」

「砦で魔獣の相手ばかりで退屈してたんだ。騎士団が相手ならやる気出るぜ」

「違うだろ? 騎士団じゃなくてクソッタレの集まりだ。坊主に力を貸してやろうぜお前ら!」


 ルージュ家の側近だった女貴族が、砦にいた騎士団の生き残りが、冒険者や衛兵や各地の貴族達が。

 出身や身分に関係なく共にここまで乗り込んできた仲間達が俺の周りに集まり、武器を手に取る。


「貴様らっ……」


 思わず目頭が熱くなるが、喜ぶのはまだだ。

 現実は何も変わっていないし、これから始まるのは命のやり取りで生きてる保障はない。


「……(トンっ)」


 全身をローブで包んでずっと俺とゴドリックのやり取りを見ていた彼女が肩を叩く。

 気負いすぎるなと言いたいのか、頑張れと励ましてくれているのかは分からない。

 でも、それだけで俺はやる気が湧き上がってくる。


「力を貸してくれ」

「……(コクリ)」


 俺はたった一人でこの場にいるんじゃない。

 みんなに支えてもらって立っている。

 ならば五大貴族の後継として、一人の武人として、男として戦おう。

 なに、相手は騎士だからノア・シュバルツのような卑怯な手は使わないだろう。

 リベンジが出来ないまま勝ち逃げされたのは癪だが、あの女も草葉の陰から俺の勇姿に感激しているはずだ。


「俺の名はグレン・ルージュ。五大貴族ルージュ家の後継者にして聖獣【朱雀】を従える者」


 ふむ。どうせ最後の口上になるのなら敵の出鼻を挫くためにもう少し盛るか。


「そして、いずれこの国の王になるものだ!!」


 かつてと今では重みが違う夢を口にして俺は炎を纏った剣で敵陣へと斬り込んだ。




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