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黒い鳥の世界  作者: 西野了
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華の夕食ー梅干し入りのおにぎりとコンソメ味の野菜スープ

 マンションに帰った華は自室で紺色の制服と白いスクールシャツを脱ぎ、ゆったりとした灰色のトレーニングパンツをはき紺色のトレーナーを着た。ストレートヘアを茶色の紐ゴムでまとめてポニーテールにした。そして立川書店で買ってきた画集を持ってリビングルームに移動した。彼女は無垢材のダイニングテーブルに、コンビニエンスストアで買った梅干し入りのおにぎりとコンソメ味野菜スープのカップを置き、そして画集を隣の椅子に置いた。それから白いボディの電気湯沸かし器に水を入れ、そのスイッチボタンを押した。湯沸かし器の中の水は数十秒で沸騰した。杏子色の急須にほうじ茶のパックを入れ、その急須に湯沸かし器の熱いお湯を入れた。また野菜スープのカップにもお湯を注いだ。三〇秒立つとほうじ茶のパックを取り出し桜色の小皿の上に置き、急須と同じ色の湯飲みにほうじ茶をたっぷり入れた。

「いただきまーす」無垢材の椅子に座って合掌した後、ポニーテールの女子高生はカップスープの蓋を取った。そして小さな銀色のスプンで野菜スープの具をかき混ぜた。コンソメと野菜の混じった匂いが少女の食欲を刺激した。銀色のスプンにコーンと細切れのポテトと人参を乗せ、それに息を吹きかけた。スプンに乗った野菜類が少し冷めたと思うと、それらを口に入れ味わった。華の口の中にはコンソメをベースにしたコーンとポテトと人参の味が混ざって広かった。彼女は同じ動作を三回して野菜スープを味わうと、おにぎりのビニールの包装を解いた。そしてゆっくりとおにぎりの上の部分を咀嚼した。海苔とお米と少しだけ梅干しの味がした。野菜スープとおにぎりを食べ終える途中に一回だけほうじ茶を飲んだ。

「ごちそうさまでした」小さく息を吐きながらそう言ったあと、ほうじ茶をゆっくり味わった。そして華は隣の椅子に置いていた画集を手にした。

「北の灯台に行こうかなぁ」一人暮らしの女子高生は自分が発したその言葉は、現実味を欠いているように感じた。彼女は隣の椅子に置いてあった「雹」と題字してある画集を手にして、その表紙を眺めた。中岡美奈子が真壁褾に似ているという可憐な少女の髪の色は黒かった。

(アレッ? この女の子の髪の色、黒かったかな。真壁さんと似ていると気づいたから真っ白かと思っていたけど・・・)華は自分の思い込みの激しさに少し驚き呆れた。(中岡先生がこの女の子が真壁さんに似ているって言われなければ、私はこの子が真壁さんと結びつけることができなかったかもしれない。中岡先生って勘が鋭いのかな。それとも私が鈍いの?)

 城北高校に通う女子生徒は画集の表紙を見ながら、立川書店で出会った養護教諭の姿を思い出した。中岡教諭は飯塚綾子がこの街を出て行きたかったと言った。(南ちゃんも綾子さんが居なくても何も変わらずに仕事をしていたし、中岡先生もそう。人と人との繋がりって、やっぱりそんなものなのかなぁ。でも私も最近、晶のことをよく忘れているし・・・、何か嫌だなぁ。だけど私も綾子さんと同じで、この街を出て行きたいって思っている。その理由は違うと思うけど)

 華はそんなことを考えながら画集のページをゆっくりと捲った。画集の中の少女は同じポーズだった。上半身だけ描かれているので、彼女が立っているのか椅子に座っているのか分からない。その顔は真っ直ぐ正面を向いていて、無表情に見える。十ページ目で華の手が止まった。描かれている少女の髪の色が黒ではなく茶色だった。

(・・・美冬?)華は茶髪の少女の絵を凝視した。描かれている茶髪の少女は親しい友人の顔に見えてきた。(この絵は数年前の真壁さんのようだけど・・・、どうして美冬に見えるのだろう・・・。髪の色は似ているけど髪型は違うし)華は絵の中の少女の瞳を見つめた。その少女のつぶらな瞳は深い鳶色だった。その色は古い血の色にも見えた。(美冬の綺麗な銀色と紫色の瞳と違うのに、この絵とダブって見える・・・)彼女は真壁褾と渡辺美冬に共通するものを探そうとした。華の脳裏にはワインレッドの車椅子にそっと乗っている真壁褾の映像が浮かんできた。その車椅子を押している人間は飯塚守だった。二人の周囲には小さな雪が舞っているようなイメージが浮かんできた。

(雪・・・・・・)華が小学生五年生の頃、父が「面白い風景があるぞ」と言って、雪が降りしきるDVD映像を観せてくれた。テレビ画面に映った、その世界は白い雪に覆いつくされていた。場面が切り替わると古い町並みが現れた。立ち並ぶ家の閒を吹き抜ける風に乗って小さな雪片が舞っていた。

(真壁さんと一緒にいたら雪が見ることができるかもしれないかも)華はそんなことを思い一人で小さく笑った。

(美冬はどんなイメージなのかな)城北高校3―B教室の女子生徒は鳶色の瞳の少女の絵を観ながら、オッドアイのクラスメートを思い浮かべようとした。だが美冬の可憐な姿を思い浮かべることは出来なかった。華の脳裏には銀色と紫の瞳を持った真壁褾の顔が浮かんでいた。白く輝く髪が白い眉までかかっていて、右の銀色の瞳と左の深い紫の瞳が妖しく光っている。薄く紅い唇から真っ赤な舌がチロチロと出たり入ったりしている。するとその口が大きく縦に開き、渡辺美冬のピンクの舌の先が引きつるように下唇に触れた。美冬の顔に変わった少女は悲しみの色を瞳に湛えて喘いでいる。

 華は茫然と脳裏に浮かんだその映像を観た。そして画集を閉じた。それから冷めてしまったほうじ茶を飲んだ。ほうじ茶は少ししか残っていなかった。彼女は携帯電話で高梨尊に連絡を取ろうとした。けれど彼女の携帯電話と尊の携帯電話の回線は上手く繋がらなかった。

 華はノイズを発している携帯電話のモニターをぼんやりと見続けた。


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