居心地の悪いライトハウス
華は放課後、ライトハウスを覗きに行った。カウンターのいつもの席に座り、ブレンドコーヒーを注文した。客は華だけだった。南がいつものように黒いソーサーとブレンドコーヒーの入った黒いカップを紺色の学生服を着た少女の前に優しく置いた。華はミルクピッチャーから少しだけミルクをコーヒーカップに注いだ。白いミルクが黒茶色のコーヒーに溶け込もうとする時に女子高校生はピンクの唇を黒いコーヒーカップに付けた。
「フーッ」温かく優しいブレンドコーヒーが喉に流れると、華の体と心のこわばりが解けていく。
「綾子さん、もう体は大丈夫ですか?」
「エッ、ええ・・・」女性店主は華の頭上にぼんやりとした視線を投げかけて、そう答えた。華は首を左に傾け厨房の右奥にいる南に眼でサインを送った。南は少し困った表情を浮かべて、華と同じように小さく首を右に傾けた。
「綾子さん。綾子さんの最近の体調不良の原因はですね、白石先生が亡くなったことによるショックが大きいって言っていましたよね。と言うことは、白石先生は結構このお店に来ていたのですか?」黒いストレートヘアの女子高校生は感慨深げに言った。
「ええっ、まあ・・・」
「生徒と先生がこのライトハウスで一緒になるってことは殆どないでしょう。うーん、もしかしたら私たちが部活動をしていた時とかに、白石先生、このお店に来ていたのかなぁ?」
「あっ・・・、そう・・・だったかしら」
「綾子さん、白石先生を庇わなくていいですよ。もぉー『僕は忙しいから、部長、君たちで何かやっといてくれ』とか言って、自分はライトハウスでコーヒー飲んでいたんだ! もうほんとに酷いなあーっ、白石先生は」宮森華はピンクの頬を膨らませ怒った表情を浮かべていたが、本気ではなかった。
「ねえ綾子さん。白石先生はこのライトハウスで何を話していたの? また偉そうに物理学の知識をひけらかしていたのかなぁ。それとも知ったかぶりの文学論とかを話してましたか?」華は黒いつぶらな瞳を輝かせて目の前の店主に訊いた。
「白石先生は、えっと南ちゃんが、応対していたわ」綾子はそれだけ言った。
「えっ、そうだったのですか。ふーん・・・」華は少し驚いた。
「じゃあ南ちゃん、白石先生とはどんな話をしていたの?」好奇心旺盛な女子高校生は厨房の右奥にいる南に訊いた。
「あたしは白石先生とは、殆ど話をしていません」南の突き放すような声が飛んできたので、華はまた驚いた。(あれれ、二人ともどうしちゃったんだろ。白石先生、ライトハウスでも変なコトしてたのかな?)華は少し気まずくなったので、ちょっと俯き加減でコーヒーを飲んだ。そして上目遣いで南と綾子を見た。二人は厨房のスペースにいるのに別々の空間にいるようだった。華は珍しく居心地が悪くなったので、ブレンドコーヒーを飲み終えると席を立った。
「ごちそうさまでした」
「・・・・・・」目の前の綾子は華の声が聞こえていないようだった。
「あっ、ありがとう。華ちゃん、ごめんね」南が慌ててレジの場所まで来て精算した。
「ううん。南ちゃん、オーナーさんはまだ調子もどってないみたいだね」華は声を潜めてそう言うと顔を南の前に伸ばした。そして南の耳元で更に声を潜めて囁くように言った。
「綾子さん、大丈夫なの?」
「うーん・・・」南は突っ立っている女性店主を一瞬冷やかに見た。それから華を見て微笑んだ。




