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黒い鳥の世界  作者: 西野了
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美冬はハーバートの大きな右手を握って歩き出した

「スルジャと宮森サーン、イイ感じですネーッ」

「そうねぇ、高梨君もようやく自分の想いを素直に伝えることができるようになったね」

 美冬とハーバートは尊たちから少し離れた場所で、鯉が集まっている水面を見ていた。

「そんなに宮森サーンはァ水樹クンに関わっていたのデスカ?」

「華と水樹君は幼馴染で一緒にいることが当然みたいな感じだったわ。水樹君も華といるときは普通に話していたけど他の人とはほとんど話さなかった。もちろん誰でも話しやすい相手とそうでない人といるけどね」

「確かにそうデース」美冬はハーバートの顔を見てトレーナーを見てクスッと笑った。

「ンン? どーしました、渡辺サーン」

「ハーバート、あなたのそのファッション、とても刺激的だわ」

「オー! このジミ・ヘンドリックスのプリントですカァ。ソー言えば渡辺サーンもジミ・ヘンドリックスのファンと聞いて超驚きマシターッ。ビックリですゥ」

「私の父が昔、ジミ・ヘンドリックスのファンだったの。彼のライブのDVDが家にあってそれをたまたま見つけて観たの」

「ぶっ飛びましたカァ?」

「フフッ・・・。私は音楽のことはあまり分からないわ。彼のギターがどう凄いかなんておそらく分かっていないと思う。ただ彼の生きていく姿勢みたいなものにとても強く惹かれたわ」

「ホワット? 生きていく姿勢ですカァ」

「そう、生き方って言えばいいかな。ジミ・ヘンドリックスは若くして亡くなったよね。昔の資料、主にインターネットでは早すぎる死を惜しむ声や、もっと長く生きていたらさらに素晴らしいパフォーマンスを披露してくれたに違いないという話もたくさんあった・・・。ハーバート、これってどう思うかな?」

「アーッ、あまりそんなことを考えたことないデース。死んだら死んだデース」

「ハーバートは現実主義者ね」

「リアリストという意味ですカァ? 渡辺サーン、僕はゲンジツ主義者ではないデース。それは間違ってイマス」

「あっ、そうね。あなたはリアリストではなくてロマンチストだったわね」

「イエス、イエス、そうデース」美冬は視線を池の水面に移した。彼女の前にある水面は鯉の動きで揺らいでいた。

「ところで渡辺サーン、さっきのジミ・ヘンドリックスについてのクエスチョン、どういう意味ですカ―ッ」

「ねえ、ハーバート、あなたは人の運命って信じている?」

「運命ですカァ。あまり分からないデース」

「例えば、私の父は五年前に街から出て行って行方不明になった。そのことは父にとっては決まっていたこと、つまり運命とは人間の意思を超えた決定事項みたいなものかなぁ」

「渡辺サーンのおとーさん、いなくなったのですカァ・・・・・・」

「いいのよ、ハーバート。そんなに気にしなくても・・・。ちょっと例えが変だったかな」

「オー、でも運命の意味、何となく分かりマシターッ。ジミ・ヘンドリックスは二十七歳までの人生で、彼のパフォーマンスも二十七歳までという意味デスカァ、渡辺サーン?」

「うん、そうだと思うの。二十七歳までの人生でジミ・ヘンドリックスは精一杯プレイしたような気がするの。周囲はもっと長く生きてほしかったと思うけどね、本人はどうだったのかしら」

 美冬は静かに水面を見ていた。池の水面はまだ小さく揺れていた。

「アーッ、渡辺サーン、おとーさんのこと思い出させてしまって悪かったデス。ごめんなサーイ」

「ううん、いいのよハーバート。あなたが謝る必要はないわ。でもありがとう、心配してくれて」美冬は微笑みながらハーバートの顔を見た。見つめられたハーバートは何と言っていいのか分からず、首を振ったり両手を上げたり下げたりした。

「少し前から私は出て行った父の気持ちも分からなくはないと思うときがあるの」

「ンン、渡辺サーンもこの街を出たいと思うのですカァ?」

「そうではないわ。ただこの先のことを考えるとこの街を生きていくことに虚しさを覚えるときがある」

「ウーン、虚しさですか? 分からないデース」ハーバートは両掌を肩まで上げて困った顔をした。

「フフッそうね。あなたはニューヨークを出てこの街にやってきた特別な人だからね」

「イエス、イエス! でも3―Bクラスにもスペシャルな人がイマース」

「華でしょ、宮森華」

「イエス! 僕、初めて宮森サーンに会ったとき、ビックリしまシタァ。彼女の周り、白く光ってマシタァ! 白いオーラがハッキリ見えマシタ。こんな人、初めてデスゥ。渡辺サーン、僕の言っていること、お分かりですカァ?」

「うん、分かるよ・・・・・・」美冬は静かに頷いた。

「オー、やはり渡辺さんも見えるのデスネーッ。それから宮森サーン、よく怒ります。プンプンプンプン怒りマース。あんなに怒る人、今ではほとんどいないデース」

「フフフッ、ハーバート君もよく怒られているね。華に怒られること、嫌なの?」

「ノーノーノー。宮森サーンに怒られること嫌じゃないデース。逆デース。宮森サーンに怒られると元気出マース。楽しいデース」

「それで君は華を怒らせているのね」

「アウチ! 渡辺サーン、イッツトップシークレット。このこと誰にも言わないでくだサーイ」ハーバートは合掌して美冬にペコペコ頭を下げた。

「わかったわ、ハーバート。だけど高梨君の前では華を怒らせないほうがいいと思うよ」

「ハーイ、そーします。スルジャ、この前、宮森サーンのことでとても怒りましたから。あれほど怒ったスルジャ初めて見ましたーァ。怖かったデスゥ」

「それも宮森華のスペシャルなところかな?」

「オー、スルジャが宮森サーンにラブだからですカァ?」

「それもあるけどね」

「他に何かあるのデスカー?」

「ハーバート、あなたが華を怒らせると元気が出て楽しいって言っていたでしょ。それと同じことだと思うよ」

「ンン?」ハーバートは首を捻った。

「私の言ったことは華を見ていたら後々分かってくると思うわ」

「イエス、分かりマーシタ!」ハーバートは大きく頭を上下して納得した表情を浮かべた。

「エッ! もう分かったの?」

「ノーノー、そうじゃないデース。3―Bクラスでもう一人スペシャルな人がいると思ってイマシタ。それ、間違いじゃなかったデース」

「エッ、もう一人、スペシャルな人いるの?」

「イエス、もう一人のスペシャルな人は渡辺サーン、アナタでーす」ハーバートは両手の親指と人差し指でピストルの形をつくり、それを美冬に向けた。

「ハーバート、サンキュー。でも私はそんな特別な人間ではないわ。少し素直じゃないだけ」

「素直じゃナイ・・・どういうコトですカ?」

「うーん、そうね。自分の思っていることをストレートに話せなかったり出来なかったりする、そんな感じかな」

「アーッ、ひねくれモノということデスカ?」

「フフッ、そうねぇ、私はあなたが言う通り、ひねくれ者かもしれないわ」美冬は楽しそうに笑った。

「オー、ごめんなサーイ、渡辺サーン。何か違う気がしマース。日本語難しいデス」ハーバートは美冬の笑顔を見て何故か慌ててしまった。

「渡辺サーン、あなたはとても頭が良くて複雑なことを分かっている人デス。だから人と人とのコミュニケーションをスムーズにすることができマス。そのことを言いたかったデース」

「ありがとう・・・・・・エリック・ハーバート。あっ、白石先生が来たよ。華たちの方に行きましょう」美冬はハーバートの大きな右手を握って歩き出した。長身のアメリカ人は聡明な少女の大胆な行為に戸惑い、そして胸の高まりを感じた。




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