幻想の少女とのセックス、そして香の願い
宮森華の顔が近くにある。中学の制服を着ている。彼女はその制服を脱ぐと僅かなふくらみの胸を露わにした。乳首は薄いピンク色だ。少し恥ずかしそうにしているが、物怖じしていない。スカートと白い下着もとった。左膝下には微かに継ぎ目がある。華は両手を僕の首に回し熱いキスをした。驚いて彼女を見ると幼馴染は黒い瞳をうっとりとさせている。彼女は僕の服をはぎ取るように脱がせていく。彼女はベッドに横たわり僕を招き入れる。僕は彼女に誘われるままに勃起したペニスを彼女の中に入れる。華はきつく僕を抱きしめて僕は彼女の中で激しく射精した。力が抜けた僕は呆然と華を見た。華は僕を見下したように邪悪な笑みを浮かべている。華? この女は誰なのか? 僕は改めて女を見ると大きな乳房が僕を馬鹿にしたように揺れている。女の手が僕の手を掴み乳首に触らせよとする。僕は抵抗するが指先に乳首のザラッとした感触があり、悪寒が全身を駆け巡った。「晶・・・・・・」と声がする。僕から少し離れた場所に城北高校の制服を着た華が立っている。華は悲しそうに僕を見つめている。その姿が徐々に遠ざかっていく。僕は諦めてしまっていた。どんなことがあっても諦めればいいと理解していた。だから淋しくないのだ・・・・・・。闇に覆われた視界の端にぼんやりと赤茶色の光が現れた。その光が黄色になった。それから薄い紫色に変わった。そして視界は白い光に覆われた。
水樹晶は眩しさのあまり瞼をしっかりと閉じた。それから目を擦った。
「晶さん、お目覚めですか?」爽快な目覚めを促すような声が聞こえた。おぼろげな水樹晶の視界に高梨香の美しい顔が現れた。
「ここは私の部屋です。と言っても高梨の家ではなくてAFZの13階ですが」ストレートジーンズにベージュのトレーナー姿の香は朝食の準備をしていた。
「どうして僕はここにいる?」
「あら、晶さん、昨夜のことを覚えていらっしゃらないのですね」香は白いダイニングテーブルに白いソーサーとホットコーヒーの入った白いカップを置きながら微笑んだ。パジャマ姿の水樹晶はベッドから起き上がり食卓の椅子に座った。
「ここ数日、いろんなことがあって僕は混乱している」水樹晶は熱いコーヒーをゆっくりと飲んだ。熱いコーヒーが喉を通り食道を経て胃に入っていく。すると彼は猛烈な空腹を感じた。彼の目の前にはトマトとサラダ、バターの塗った厚切りトーストが二枚あった。水樹晶はまず八分の一に切られたトマト二個口に入れた。それから一枚のトーストを二分の一食べコーヒーを飲んだ。そして青じそドレッシングのかかったサラダを二口食べ、またコーヒーを飲んだ。その後トーストの残りを食べ終えコーヒーを飲みサラダを平らげ、残っている一枚のトーストを食べた。
「晶さん、コーヒーのお代わりは?」
「うん、お願いします」香は水樹晶の白いコーヒーカップに熱いコーヒーを注いだ。そして彼の目の前ある白いソーサーに白いカップを置いた。それからプル―ベリージャムを乗せたヨーグルトの白い皿も彼の前に置いた。
水樹晶はジャムの混じったヨーグルトを食べ、コーヒーを飲んだ。
「ごちそうさま」彼はそう言うと深く息を吐いた。
「晶さん、落ち着かれましたか?」
「うん、久しぶりにまともな食事をした」
「ふふ、それは良かった・・・」訪問客の左斜めに座っている香も美味しそうにコーヒーを飲んだ。
「ねえ、晶さん。いろんなことがあって混乱していると言っていらしたけど、何があったのかな?」香の右手が水樹晶の左手の甲に置かれた。
「うーん、それがあまり覚えていない。いろんな人にあったような気がするけど・・・。あっ、AFZの村上玲さん。玲さんには会った。香さんは知らないと思うけど」
「村上玲さんはよく知っていますよ。ショートカットで紅いメガネをしている可愛い人でしょ」
「えっ?」
「私のパパはこの会社の役員でしょ。私も半分AFZの社員みたいなものだから、かなり社員の方々のことを知っていますよ」香は秘密を打ち明けるように言った。
「そうかぁ」水樹晶は香に何か訊きたかった。だが何を訊きたいのか分からなかった。彼は冷めかけたコーヒーを一口飲んだ。
「少し前に古本屋で林田さんという人と話した。彼も本が好きで話が合うと思った。その時に僕はこんなつまらない世界じゃなくて、もっと人が激しく生きている世界に生まれたかったと後悔した。ねえ香さん、以前はそんな世界が本当に存在していたんだよ。でも今はまともな人間はほとんどいない。林田さんと会った夜は珍しく雨が降り出した。そして僕は雨の降る中、この街を出て行った」
「えっ、この街を出て行ったのですか?」香の瞳が一瞬大きく見開らかれた。
「西に延びる道路を歩き続けたら、いつの間にか周囲が荒れ地になって街を出ていた。何時間もずっと歩いたからかな。そして自動販売機のある場所で岡野という人に会った。彼が僕に言った。『まだ街に留まる方がいい』と。僕は何故か彼の言うことに従って、この街に戻ってきた」
「そうですか」
「香さん、僕は何処で生きて良いのか分からない」水樹晶は呟くように言った。香はしばらく何も言わず自分のコーヒーカップを見ていた。
「この街は晶さんにとっては生きていくことが辛いのですか?」
「それも分からない。分からないんだ。ときどき無性に周囲にあるものが偽物に見えてきて、それらをぶっ壊したくなる」
「周囲にあるものが偽物で、人間も嘘っぽいと感じるのかなぁ、晶さんは」
「うん・・・・・・」水樹晶は考えていた。(人は誰だって嘘つきだ。そんなことは自明のことで、自分だって噓つきだ。それかどうしたと言うのか。だけど周囲にあるものが偽物だろうか? このコーヒーカップは飲むのに役に立っている。この皿だってそうだ。この白いテーブルだって食事をするためには必要だ。なのにどうして僕は周囲にあるものが偽物で余分なモノだと思うのか?)
「晶さんの言っていることは、私にも少しは分かるような気がします」香の右手に少し力がこもった。
「私たちが生きているこの世界は、山の頂上から転がり落ちているようなものですもの。だから何処にいたって虚しく感じるのかもしれません」
「・・・・・・」水樹晶は頷いた。そして香が言った言葉に驚いていた。
「晶さん、少し前に空を覆っている分厚い雲が裂けて星がたくさん見えたことがありました。そこには天の川銀河が流れていた。その星々の光は夜だというのに眩しくて。その光景を見て、それから晶さんのお話を聞いて、こう思いました。確かに人が熱く激しく生きていた世界が存在していた、そのことは事実なのだろうと」香の白い頬が少しばかり赤くなっていた。
「でも、今はそんな世界は何処にも存在しないような気がします」香は水樹晶の左手を握ったまま彼の顔を見つめていた。しばらくして彼女は自分の右手を小柄な青年の左手から離した。水樹晶は自分の左手を見た。
「確か晶さんは高校の文芸部に所属していますね?」
「うん、幽霊部員だけど」水樹晶はつまらなそうに答えた。
「尊が言っていたのだけど、明日の昼過ぎに文芸部員の皆さんが私の家に来るみたいです。晶さん、何か聞いていますか?」
「いや、何も。僕は最近、ほとんど文芸部に顔を出していないから」
「携帯電話にメールでの連絡はないのですか?」
「携帯電話のメール、最近はほとんど見ていない」
「ふふ、さすが幽霊部員さんですね」
「大したものでしょう。しかし、どうして香さんの家に文芸部員が集まるのかな?」
「弟が言うにはフランツ・カフカの『審判』の書評を検討するとか・・・」
「そう言えば、僕がカフカの書評をそれぞれで書こうと提案した記憶がある」
「あら、それでしたら晶さんも私の家にいらしたらどうですか?」
「でも僕はカフカの書評を書いたかなぁ」水樹晶は右手で長髪を梳き、それから頭頂部付近を四本の指で軽く掻いた。
「晶さんは『審判』を読まれたのでしょう?」
「うん、読んだよ」
「それでしたら、書評をまだ書かれていなくても他の人の書評を聞くことは、晶さんにとって意味があるのではないかしら」
「そうかな・・・そうかもしれない」水樹晶はその時突然、自分が何処にいるのだろうか? 何をしているのだろうか? と疑問に思った。
「ね! 晶さん。明日の文芸部の集まりには晶さんも是非いらしてください。私も美味しいお茶とお菓子を用意しますし。あっ、もし晶さんがよろしかったら夕食もご一緒しませんか?」香は水樹晶の左手を両手でしっかり包んで、彼の小さな目をじっと見つめた。
「ああ、うん、考えておく」小柄な少年は曖昧に頷くことしかできなかった。




