中岡美奈子のエクスタシー
「水樹君、今日もまだ疲れているの?」白衣を着た養護教諭は少し呆れていた。
「まだ昨日の疲れが抜けません」
「あなた二時限目からベッドに眠っているけど、もうお昼よ、何か食べる?」
「いえ、何も要りません」ベッドで仰向けに寝ている水樹晶はうっすらと目を開けた。ベッドの横には黒いスカートと赤いブラウスそして白衣姿の中岡美奈子が彼を見下ろしていた。
「体温も血圧も呼吸も問題なし。顔色も悪くないし。水樹君、あなたそんなに疲れているとは見えないけど」
「そうですか」水樹晶は相変わらず眠たそうにうっすらと目を開けている。
「水樹君、あなたはここで何かやりたいことがあるの?」中岡美奈子は中腰になり顔を寝ている生徒の顔に近づけた。
「別に何もありません」水樹晶はそう答えると目を閉じた。養護教諭は床に両膝をつきベッドのシーツの上に両肘をついた。彼女は掌に尖った顎をのせて、目を閉じている少年を見つめた。(この子、本当に疲れているの? 何をするために休憩室に来たの?)彼女は水樹晶が一時限目後に休憩室に現れたことを思い出していた。昨日と同じように彼女の前で学生服を脱ぎ黒いボクサーパンツとTシャツ姿になった。そして昨日と同じように彼のペニスは激しく勃起していた。
中岡美奈子は男子生徒の勃起した姿を思い出していると呼吸が乱れていた。
「先生、どうしましたか?」水樹晶はガラス玉のような瞳で養護教員を見ていた。二人は見つめ合っていた。
中岡美奈子は突然この部屋が閉じられた空間のように感じられた。休憩室は他の部屋と繋がっておらず、職員室や相談室のある二階建ての建物にも含まれていない。全く独立した空間で誰もこの部屋に入ることができない場所だった、水樹晶と自分以外は。
「中岡先生、何か言いたいことがありますか?」少年の声はコンピューターで作られた無機質的な信号音のようだった。
「水樹君、君は昨日の夕方の景色を見たでしょ?」
「何のことでしょう?」機械的な声が中岡美奈子の耳に響いた。
「君が教室から出て行って家に帰る途中、重い雲がぼんやりと光を放って辺りが明るくなった。そして雲がいきなりいつもの黒っぽい灰色になって辺りは闇に閉ざされた。水樹君、君はこの不思議な現象の意味を知っているのでは?」中岡美奈子は目の前の少年が何故か老成した賢者のように思われた。
「中岡先生、何を言っているのですか?」感情を伴わない音声が密室に流れる。
「だって君、帰る途中、あの不思議な光景に遭遇したでしょ?」
「いえ、いつもと同じ夕方でした。もう夜の帳がおりていました」
「そんな・・・・・・、だって私だけではなくて、白石先生もあなたのクラスの渡辺美冬も一緒にその光景を見たのよ。最初に白石先生がその異変に気づいたし」
「そうですか。それではそういうことにしましょう。僕はそんな不思議なことには出逢わなかった。中岡先生、それでいいですね?」水樹晶の声には少しだけ嘲笑の響きが含まれていた。
「水樹君! 違うの、そうじゃないの。そういうことじゃないのよ!」中岡美奈子はベッドで横になっている生徒を揺り動かそうとした。しかし彼女の体は全く動くことができなかった。
「中岡先生、この世界にはあなたが理解できない現象があります。それらを理解しようとしても無駄です。そのことがあなたにとって何の意味があるのですか? 何もない。あなたがこの世界を理解しようとする作業は何も意味はないのです」水樹晶の目はステンレスのような銀色に光っていた。中岡美奈子はその銀色の光に取り込まれていた。
「水樹君、君はなぜそんなことが分かるの? 私が知りたいことが無意味だということが」
中岡美奈子は自分が彼に向かって話しているのか、それともただ頭の中で考えているだけなのか分からなくなっていた。彼女は現実世界で音声を発しているのか、それとも思念の世界で水樹晶の思考とアクセスしているのか判断がつかなくなっていた。先ほどまで水樹晶は口を動かしていたのだろうか? あのコンピューターが作ったような電子音は彼の声なのだろうか? 彼女は混乱していた。
「あなたは違うことを求めています」今まで聞いたことのない声が中岡美奈子の頭の中で響いた。
「私は何を求めているの?」彼女はもはや口も喉も舌も動かすことが出来なくなっていた。ただ興奮した脳が考えているだけだった。
「あなたはこの世界の成り立ちを理解しようなどと思っていない」
「そんなことはないわ! 私はこの世界の実相を見てみたいのよ!」
「あまり自分に嘘をつかないほうがいいですよ」水樹晶は心底軽蔑しきった笑いを浮かべた。
「噓じゃない、噓じゃないわ!」中岡美奈子は自分の体の毛穴から体内の全ての水分が滲み出ていくような感覚に陥った。そして自分の体がドロドロと溶けていくように感じた。
「中岡先生、あなたは小賢しい知恵を振りかざして生徒や同僚を馬鹿にしているが、一番愚かな人間はあなただということに気づいていない」
「私が一番愚かな人間?」
「そう」
「何故、そんなことを言うの?」
「中岡美奈子が歴史の教師をしているのも養護教員をしているのも、自分の下劣な欲望を満たすためだからですよ」水樹晶は眉間に深い皺を寄せたが、銀色の瞳は相変わらずガラス玉のようで何の表情もなかった。
「君は・・・、君は、いったい何を言っているの・・・」中岡美奈子の心臓は圧迫され下腹部は異常な熱を持っていた。
「あなたはそのことを僕の口から言わせる気ですか。いいでしょう」水樹晶はニヤリと笑った。底意地の悪さが透けて見える笑顔だった。
「あなたは教師という仕事を大義名分として多くの男子生徒と接することができる。その中で気に入った男子生徒を見つけて、その子と獣のようにセックスをしたいだけ。いつもそのことばかり考えている。そうでしょう? 中岡先生」
「違う、違う、違うのよ! 私はそんなことを考えてなんていないわ。昨日、あなたにしたことはそんな意味じゃないの! 分かって、水樹君」
「中岡先生、そんなに自分をごまかさなくてもいいのですよ。今、自分がしていることをしっかり見てください」水樹晶は憐れみを帯びた声でそう言った。
「エッ?」中岡美奈子は水樹晶の言っていることの意味が分からなかった。そして彼の顔が何処にあるのかも分からなくなっていた。彼女は前を見ると白い壁があり右を見ると白いパーテーションがあった。
「先生、これで満足でしょう?」男子生徒の声が中岡美奈子の下から聞こえると、快感が彼女の下腹部から全身に広がっていった。中岡美奈子は水樹晶と騎乗位で性交していた。彼女の性器から脳天に向けて太い快感の矢が何本も突き抜けていく。彼女は男子生徒の上で激しく腰を振る以外は何もできずに意識を失うほどの快感に耐えていた。眼鏡がずり落ち眼球は上転し口元は弛緩し唾液が流れ落ちている。両手には力が入らず手首はとても強い力で握られていた。彼女のヴァギナは硬いペニスを貪るように咥えこんで、青い静脈の浮き出た白い太腿は体液で濡れている。
「何かが、何かが・・・遠のいて・・・いく・・・・・・」痺れるような快感は中岡美奈子の意識を奪いつつあった。
「白い!・・・白い、真っ白!」彼女の視界は白い閃光で埋め尽くされた。それと同時に激しい痛みのような快感が彼女の体を突き抜けた。中岡美奈子は口を限界まで広げて声にならない叫びをあげた。真上に真っ直ぐ延びた彼女の背筋は大きく痙攣し太腿も男子生徒の細い腰を異常な力で締め付けた。全ての息を吐ききって新たな空気が肺に入った瞬間、彼女は崩れ落ちた。




