妖たらし
「うっ……なんだよ、何で邪魔するんだよぉ……」
青く光る眼に本能的な恐怖感じ、たじろぎながらもシュピテムは青年を睨む。
「悪い子にはお仕置きが必要ですね」
「こっ、こっちに来るなッ!!」
シュピテムは後ろに飛ぶと右手を翳し、ミア、それに千影に放った閃光を青年に撃ち込んだ。
青年はその閃光を左手を軽く振って弾き飛ばす。
「嘘ッ!?」
驚き目を見開くシュピテムに青年は一息で間合いを詰め、その頭を左手で掴んだ。
「は、放せよぉッ!! みんな、助けてッ!!」
「女神様を守れッ!! 暴風」
シュピテムの声を聞いた召喚された者一人が暴風を使い、煙草盆の付喪神マルの煙を吹き飛ばし視界を晴らす。
「よしこれならッ!! 貫けッ魔法矢ッ!!」
「雷矢ッ!!」
「石弾ッ!!」
シュピテムの声を聞いた召喚された人々は、青年に向けて魔法を放った。
「クッ、喝ッ!!」
「風よッ!!」
千影は波動を放ち、九郎は風を操って魔法を打ち消すが、流石に数十人の放った魔法だ。その全ては消す事が出来ない。
赤髪の青年はそんな魔法を放った人々に右手を向けた。
次の瞬間、放たれた魔法の全てが出現した黒い何かに飲み込まれ消える。
「何だとッ!?」
「信じられぬ……」
驚愕の声を上げる千影達に笑みを見せ、青年は青く輝く瞳を女神に呼ばれた人々に向けた。
それを合図に勇者の力を与えられた人々から光が飛び出し、その光は青年の翳した右手の中に吸い込まれた。
「氷棘ッ!! なんでッ、魔法が使えないッ!?」
「障壁ッ!! ち、力が消えてるッ!?」
呼び込まれた人々は勇者の力を使おうと、次々にコマンドワードを唱えるが魔法が発動する事は無かった。
「嘘……僕の与えた勇者の力を吸い取った……?」
「魔法陣を消して、転生させた人を戻して下さい。じゃないと」
青年はシュピテムの頭を掴んだ手にほんの少し力を籠める。
「いっ、痛いッ!! 止めてよぉッ!!」
「止めて欲しいなら、さっき言った事をやって下さい」
「ぐぅ……魔法陣は消せるけど、転生させた人は……もう向こうで新しい命として生きてるから……」
「……」
青年は目を閉じ、シュピテムを通じて彼女が転生させた者達のその後を通し視た。
殆どの者はまだ幼児か赤子で、その世界で家族と共に過ごしていた。
今の彼なら、彼らを現世に戻す事も出来そうだったが、それをすれば別の世界で悲しむ者が出るだろう。
何にしても、彼女の力は現世と異世界の誰かの悲しみに繋がる物のようだ。
「……状況は理解しました……シュピテムさん、貴女のその力、封じさせてもらいます」
「封じるッ!? やっ、止めろぉ!! 力がなくなったら、僕の存在意義がッ!!」
「存在意義なんて、後でじっくり考えればよろしいッ!!」
青年の叫びと同時に彼の周囲に炎が吹き上がり、シュピテムを包み込む
「ぼっ、僕の力が燃えるッ!? 僕の力が燃えて、消えてしまうッ!!」
「グッ、この力は……」
青年から噴き出す炎に思わず千影は顔を庇い左手を翳した。
普通の大学生だった青年、瀬戸弘樹は新たに生まれた幼い妖怪、転生の女神シュピテムをその身から噴き出す炎で焼いた。
炎はシュピテムの体では無く、その能力のみを吸い取り燃やしていた。
その事で商店街を覆っていた桃色の魔法陣も弘樹を中心に姿を消していく。
「止めろッ、止めろって言ってるだろうッ!? お願いだよッ!! 力が無いと僕の存在する意味が……お願い……許して……」
「数年もすれば力も戻ります。その間に貴女の持つ力で飛ばされた人がどうなるのか、飛ばされた人の周囲の人間が何を思うのか、よく考えて下さい」
その時の弘樹にはシュピテムの力、その後の未来まで思考を向けるだけで見る事が出来たし、自分のしたい事の為に何を為すべきか手に取る様に分かった。
言葉を言い終えた時には、炎は消え、シュピテムの頭を掴んでいた弘樹の左手の甲には眩い光が宿っていた。
弘樹はシュピテムを放すとその光る左手をスッと召喚された人々に向けた。
「元の場所へ」
弘樹の言葉と同時にシュピテムが呼んだ人々の足元に、黄金色の召喚陣が出現し数十人いた現世の人々は、彼らが生きる世界、現世へと強制的に送還された。
残ったのはしゃがみ込みえぐえぐと泣いているシュピテム、その原因となった弘樹、そして千影たちだけだった。
「弘樹……何があったのじゃ、あの髪は一体……」
「うー、ひろ、ミア、たすけるために、ぬっぺっぽふのにく、くった」
「ぬっぺっぽふ……確か、中国では封と呼ばれる妖で、その肉は仙薬になると聞いた事はあるが……」
「仙薬……では弘樹は仙になったのか……」
そう言って千影が見つめる先では、弘樹がシュピテムの前にしゃがみ込み静かに言葉を紡いでいた。
「誰だって逃げ出したい時はあります。その先が自分が英雄になれる異世界なら憧れも持つでしょう。でもそんな憧れを持つ人にも選ぶ権利はあると思うんです。どんなに望んでいても強制はよくありません」
「グス……だって、僕の使命はそれしか……」
「あなたはまだ幼い、与えられた使命しか見えていないのでしょう……もう少し生きれば、きっと別の生き方も考えられる筈ですよ」
「……ほんとう?」
「ええ、実際、俺の仲間のミアさんは出会った頃とは見違える様に変わりましたから」
そう話した弘樹の髪は黒に、瞳は青い光を失いこげ茶色に戻っていた。
人の姿に戻った弘樹をシュピテムはボンヤリと見つめ返す。
「……あなたの仲間になれば、使命が果たせなくても辛いの無くなる?」
「え゛っ!? いや、それはどうかな!? 別に俺じゃなくても他の人でも多分大丈夫だと」
ワタワタとシュピテムに両手を翳しながら弘樹は慌てる。
彼は力を奪ったシュピテムをおっさんに預けようと考えていた。
おっさんの下で自我を育み、力を本能では無く自分の意思で使えるなら、彼の手助けにもなるだろうと考えていたからだ。
だが、シュピテムはじっと弘樹を見つめ、瞳を潤ませている。
「どうしたのじゃ弘樹、もしや仙になった事で体に不調がッ!?」
慌てた様子を見せた弘樹に我に返った千影が駆け寄り、ペタペタと体を触って異常が無いか確かめる。
「わわッ、千影さん、だッ、大丈夫ですからッ、そッ、それに仙って何のことですかッ!?」
「ぬっ、気付いておらんのか? 先程、こやつを燃やし力を奪い、呼び込まれた者達を現世に送り返しておったじゃろう?」
「ああ、あれはぬっぺっぽふさんのお肉を食べて得た力で……えっ、あのお肉ってもしかして仙薬なんですかッ!? あわわッ、じゃあ、俺も消し炭や電気にッ!?」
「落ち着け、今はもう元に戻っておる。身の内に力は残っておるようじゃが、気を高ぶらせない限り表には出んじゃろう……それより何を慌てておったのじゃ」
「僕が弘樹の仲間になるって言ったんだよ」
シュピテムはそう言って立ち上がり、弘樹に抱き着き千影を睨む。
「ぬっ、お主が仲間に!? 弘樹、どういう事じゃッ!?」
「え、あ、それはですねぇ……」
「僕の使命は現世の人間を召喚して、力を与え異世界へ送る事……でもその力は無くなっちゃった……辛いんだッ!! 使命を果たせないと、胸の奥が痛くて耐えられないッ!! ……でも弘樹の仲間になれば辛くなくなるって……」
シュピテムは弘樹の胸に顔を埋めてポロポロと涙を流す。
「えっ、あの、シュピテムさんッ!?」
「瀬戸、お前はどうやらかなりの女たらし、いや妖たらしの様だな?」
声に視線を向ければ九郎がジトっとした目をこちらに向けていた。
九郎の後ろには魔法陣の対処に当たっていた弁慶達もいつの間にか戻り、なんだが微妙な笑みを浮かべている。
「うー、ひろ、おんなたらしッ!!」
「グッ、ミアさん、そんな言葉は覚えなくていいですッ!!」
こんなはずでは無かった、そんな想いを込めた弘樹の絶叫が人のいない商店街に木霊した。
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