勇者召喚
転生の女神シュピテムに胸に大穴を開けられたミアを救う力を求め、弘樹はぬっぺっぽふの肉を飲み込んだ。
怪異の肉は弘樹の中に溶け、その身を人では無いものに変えていく。
「ぐぅ……体が……あつい……」
肉が溶けた胃を中心に熱が体中を駆け巡る感覚、それが落ち着いた時には弘樹の髪は燃えるような赤に、瞳は青い光を宿していた。
その光が宿った目でミアの体に視線を落す、彼の目にはミアの胸で燃える金色の炎が消えかけているのがハッキリと見えた。
多分、これはミアさんの命の火で間違いない筈……消させない!!
どんな力を手に入れたのか、それは分からない。
そう思った弘樹だったが、何故か自分のすべき事が自然と分かった。
その知らない筈の既知の知識に従い、傷付いた者に殆どの人がそうする様に弘樹は右手をミアの傷付いた胸に当てた。
一方、女神シュピテムと対峙した千影はどうすべきが迷っていた。
首を締め上げてもシュピテムは意識を失く事は無かった。通常の方法での無力化は難しい。
このまま戦いを続け、押し潰す事は恐らく可能だろうが、殺してしまうのは弘樹の願いに反してしまう。
それに千影自身も、ただ自分の存在意義に従う自我の薄い幼い妖を殺めたくは無かった。
「隠ッ!! 何をしているッ!? そいつは危険だッ!!」
動かない千影に九郎が声を荒げる。
「分かっておるッ!! じゃがッ!!」
ビルの壁、地面、空中、至る所に勇者召喚の魔法陣が発生している。
「致し方ない」
千影は弘樹との約束を破り影を無数に生み出して、分身を使って陣を破壊している弁慶達に加勢した。
だが、次から次へと転生陣は現れ数百の分身をもってしても破壊は間に合わない。
「無駄だよ。僕は神なの、モンスターが敵う相手じゃない」
やがて魔法陣から人が現れ始める。
「えっ、ここってセンター街? てか、なにあのピンク色の奴ッ!? プロジェクションマッピング?」
「なにここ? あたしさっきまで新宿にいたんだけど?」
数十人の男女、年齢もバラバラな人達に女神は叫びを上げる。
「みんな助けてッ!!」
「なんだ? 女の子?」
「何言ってんだ?」
「てか、あの女、角生えてね?」
「助けてって? どういう事?」
新たに人を呼び込んだシュピテムを睨み千影は口を開く。
「何故、無関係な人間を巻き込むッ!?」
「何故って、女神は勇者に助けを求めるものじゃん?」
シュピテムはそう言ってクスクスと笑った。
その笑顔には全く罪悪感は無く、自分が間違っているとは微塵も思ってはいないようだ。
「隠、倒すしかない」
「クッ、なるべく穏便にすましたかったが」
千影は妖気を練り上げ黒鉄の棒を作り出し、その棒を構え腰を落した。
横に並んだ九郎も血で刃を作り出し、腰だめに構える。
「みんなぁ、僕は転生の女神シュピテム!! みんなには勇者の力があるのっ!! 力の使い方は頭の中に浮かんでるよねッ!! お願い、その力で僕をモンスターから守ってッ!!」
シュピテムは両手を口の横に翳し、千影たちの後ろ、召喚された人々に向かって叫んだ。
「転生の女神? 勇者の力……えっ、マジで、確かに戦い方は分かるけど……」
「ファ、火球!!」
戸惑う人の中、黒髪眼鏡の少年が右手を翳し叫ぶ。
右手からはバスケットボール程の火球が飛び出し、千影たちに向かって飛んだ。
「チッ、本当に力を与えたのか」
九郎が舌打ちと共に刃を振るうと、風が火球を切り裂き、切り裂かれた火球はその場で火炎を撒き散らした。
「うぉ、マジかよ……」
「どうやら本当に僕達、本当に勇者になったみたいですね」
少年が隣にいたマッシュヘアーの青年に視線を向ける。
「勇者か……よっしゃ、いっちょ、女神の為に戦うか!!」
「ですねッ!!」
「止めよッ!! 我らが戦う意味は無いッ!!」
「そうだッ!! この娘は女神などでは無く妖怪だッ!!」
「えっ、妖怪……?」
「違うよッ!! 妖怪はこの二人の方だよッ!! 上を見てッ、奴らの仲間、完全に魔物でしょっ!!」
シュピテムの声で見上げたビルの上には翼を生やした九郎の部下が魔法陣を壊す為に飛んでいた。
「あれって悪魔!?」
「見て下さい、あそこにいるのはオーガですよッ!!」
「うわ、おっかねぇ!!」
シュピテムに召喚された人々は、少なからず異世界に憧れを持っていた者達だ。
金髪の美少女であるシュピテムと、コウモリの翼を持った吸血鬼達、角と牙の生えた弁慶、角の生えた千影、見た目は美少年だが深紅の瞳に真っ赤な刃を手にした九郎を魔物と捉えてもおかしくはなかった。
「戦うしかない」
「そ、そうね……雷矢ッ!!」
「よし俺も……魔刃ッ!! わっ、ホントに出たッ!?」
状況に戸惑い躊躇う者もいる中、少年達の様に力を使い戦おうとする者が出始める。
「クソッ、民間人に力を持たせるとは……厄介な事を……」
放たれた電撃の矢を血刀で弾きながら、九郎は口元を歪めた。
「ぬぅ……しかし人間に刃を向ける訳には……」
千影の言葉を聞いて、女神と召喚された人々に挟み撃ちにされる形となった九郎がギリッと歯を鳴らす。
と、召喚された生者たちを突然真っ白な煙が包み込んだ。
「げほげほッ、何だコレ……」
「煙い……目に染みる……」
「これは、マルの煙?」
「何なのッ!? もう、そんな煙なんて、風で吹き飛ばしちゃえばいいんだよぉッ!!」
突然の出来事に両手を振り上げ叫ぶシュピテム。
そんな彼女の側に、異形の女を抱えた赤髪の青年が降り立つ。
女の抱えていた箱からはモウモウと煙が立ち上り、召喚された人々に向かって流れていく。
「ミア、それに弘樹……なのか?」
「あれが瀬戸?」
燃える様な赤い髪はゆらゆらと炎の様に揺れている。
「いい加減にして下さい」
青年は抱えていた異形の女を地面に下ろすと、その青く輝く瞳をシュピテムに向けた。
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