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幽世放浪記  作者: 田中
吸血鬼とおっさんと女神と
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転生の女神

 異界のおっさんに協力する事に決めた弘樹(ひろき)達。

 彼の頼みは現世から人を幽世に引っ張り込んでいる"転生の女神"を止めて欲しいというものだった。


 詳しく話を聞くと、女神は召喚という形で現世から人を呼び込み、力を与え何処か別の世界に飛ばしているらしい。

 その際に現世と幽世に通り道が生まれ、そこを知らずに通った者が幽世に迷い込むケースが増えているそうだ。

 元々、それほど数が多く無かった為、今まではおっさん一人でも何とかなっていたが、女神の所為で件数が激増しおっさんは疲労困憊らしい。


「いやぁ、送り返すだけでも手一杯なのに、穴まで開けちゃうんだもの。完全にオーバーワークだよ」

「我々もその穴を通って、こちらに来てしまったという訳だな」

「多分ね。あの娘が人を呼び込む度に幽世の何処かに穴が開く。自然に閉じる場合が殆どだけど、それに掛かる時間もまちまちだし、危ないから近場で見つけた穴は閉じる様にしてるけど……」

「もしかして俺がこっちに来る事になったのも……」

「ふむ……弘樹もその娘の被害者の一人かもしれぬな」


 弘樹の呟きに千影(ちかげ)も賛同の声を上げる。


「ともかく、その妖怪、転生の女神は止めねばならんな。失踪者の何人かは確実に女神の召喚が関係していそうだしな」

「殿、具体的にはどうされますか? 逮捕という形を取りますか? それとも……」


 弁慶(べんけい)はチラリと弘樹達に視線を向けつつ、九郎(くろう)に問い掛けた。

 弘樹にも弁慶の言葉の後は分かった。それとも、排除しますか?


 排除。以前、弘樹も香澄(かすみ)の集落で襲って来た狒々(ひひ)たちを香澄を守るため何匹も殺した。

 だが……やっぱり何かを殺す事は嫌だ。


 そんな事を考えていた弘樹に九朗は顔を向ける。


「……瀬戸(せと)は殺しは嫌なのだろう?」

「……はい……道中、人食いの狒々は倒しましたけど、もし、ミアさんみたいに自我を持てる可能性があるなら……」

「うー?」


 九郎は首を傾げ弘樹を見るミアの様子にうーむと唸り声を上げた。


「……おっさん、その転生の女神の居場所は分かっておるのか?」

「うん、今は渋谷にいる筈だよ」

「ではともかくと渋谷に向かうとしようぞ。相手の力を見極めねば対処法も浮かばんじゃろうしな」

「……大学への道中でお前達の力の事は聞いたが、(なばり)は影に身を潜む能力と分身、ミアは隠密と呪いによって対象に痛みを与えられるのだったな?」

「そうじゃ」

「うーッ!!」


 九郎は肯定した千影達に頷きを返し言葉を続けた。


「では、隠は影に潜み女神がおかしな動きを見せたら押さえて欲しい、ミアも姿を隠して呪いを使い女神の動きを止めろ。交渉は私と弁慶が行う、瀬戸と佐藤(さとう)達は距離を置いてバックアップしてくれ」

「待って下さい。弁慶さんだと女神が警戒しませんか?」

「警戒か……現状でどれ程の自我があるか分からんが、巨体に反応する可能性はあるか……」

「ですよね、なので交渉役は俺と九郎さんでどうでしょうか?」

「弘樹、危険じゃ。おっさんの話では女神は別の世界に人を飛ばすらしいではないか」


 千影が弘樹の身を案じ、声を上げたが彼は首を振って笑った。


「なるだけ退治とか、そういう方向にはもっていきたくないんです」

「ぬぅ…………じゃが、もし女神が弘樹を飛ばそうとしたなら、儂は容赦はせぬぞ」

「うーッ、ミアも、ミアもッ!!」

「はい、頼りにしてます」

「決まったみたいだね。それじゃあ、女神の場所だけど渋谷のセンター街付近に最近はいる様だよ。そこで召喚する人間を物色しているみたい」

「センター街だな。では現地に向かい女神の捜索を開始しよう」


 九郎の言葉に弘樹達は頷きを返した。



■◇■◇■◇■



 無人の商店街をフワフワした柔らかそうなドレスを着た金髪の少女が、鼻歌を歌いながら歩いている。


「フンフンフーン♪ どれどれ、うーん、この子は結構、逸材かも……キープだね」


 少女は時折立ち止まると、何かを覗き込む様な仕草を見せながら、ゆっくりと町を闊歩していた。

 その歩みが唐突に止まる。


「ん? 君達は……僕、転生し忘れちゃったかな?」


 無人の商店街の道の先、黒いスーツの少年と黒い古風な旅装束の青年が金髪の少女の前に立っている。


「我々は貴様に呼び込まれた者では無い。貴様の行為により現世では多くの人間が失踪している。今すぐに召喚をやめろ」

「どうして? みんな異世界に行きたいって思ってるから、その願いを叶えてるのに?」

「そういう願望がある人もいるでしょうけど、そんな事考えていない人も、貴女の所為でこちらに迷い込んでるんですッ!」

「そんなの知らないよ! それに僕は皆を異世界に送る為に存在してるんだもんッ、止める訳にはいかないよッ! そうだ、君達も冒険の世界に送ってあげるね♪」


 少女が両手を広げると桃色の魔法陣の様な物が弘樹達の足元に浮かび上がる。


「くっ、瀬戸、陣から出るぞッ!!」

「は、はいッ!!」

「弘樹ッ!?」


 影に潜り少女の背後に潜んでいた千影は思わず飛び出し、弘樹の下に駆け付けた。


「もう、動いちゃだ、グッ、いた~いッ!?」


 弘樹達が陣から飛びのいた直後、少女は胸を押さえ蹲る。


「うーッ!!」

「もう、なんでモンスターが天界にいるのッ!? えいッ☆」

「うがッ!?」


 商店街の建物の影に潜んでいたミアに少女が右手を翳すと、その右手から閃光が放たれミアの胸を貫いた。


「ミアさんッ!?」

「おのれぇッ!! 弘樹ッ、ミアに河童たちの薬を!!」

「は、はいッ!!」


 千影は自分の行動がミアを危険に晒したと拳を握り、女神の下へ跳躍した。


「へへんッ、女神シュピテム様をあなど、グエッ!?」


 腰に手を当て胸を張った女神の首を、黒髪をなびかせた鬼が締め上げる。


「動くな、動けばこのまま絞め落す」


 低く冷たく言った千影の後ろで、弘樹は慌てて車に駆け戻り、背負い葛籠から河童の(しずく)とかまいたちの紅葉(もみじ)に貰った薬、それにぬっぺっぽふの肉を取り出し、ミアの下へと急いだ。

 弘樹が車に向かうのを横目で確認した千影は、持ち上げたシュピテムに視線を戻す。


「ググッ、オーガまで……」

「ここはお主が考える天界とやらでは無い!! ここは幽世(かくりよ)、死者がその魂を休める世界じゃ!! お主の行いは現世の人々を苦しめ、死者の安寧(あんねい)を奪っておる!!」

「そ、そんなの知らないもんッ! ぼ、僕は皆を異世界に送るのが役目だもんッ!!」


 両手で千影の右手を掴みシュピテムは足をばたつかせる。

 だが首を掴んだ千影は小動もしなかった。


「そう貴様が思い込んでいるだけだ。生まれたばかりの妖は己が性に従うモノらしいからな」


 千影たちに歩み寄った九郎は声を荒げるシュピテムに静かに告げた。


「妖? ふざけんなッ!! 僕は女神だッ!!」


 シュピテムはそう叫び千影の胸に左手を当て閃光を放った。


「グヌッ!?」


 胸に閃光を受けた千影は、思わずシュピテムから手を放す。

 その隙に彼女は商店街に無数の桃色の魔法陣を出現させた。


「クッ……今すぐ陣を消せッ!!」


 閃光は千影の体を貫く事は無かったが、それでも彼女の肋骨を砕いていた。

 その痛みをこらえ千影は叫ぶ。


「嫌だねッ!! 僕の邪魔をする魔物は勇者に消してもらうんだからッ!!」

「勇者だとッ!? まさか現世から人をッ!?」


 シュピテムの狙いを生者の召喚だと察知した九郎は、咄嗟に風を操り魔法陣を切り刻む。それにより彼の周囲に現れた陣は薄れ消えた。

 しかし桃色の光は商店街の道や建物の壁等、ドンドン数を増していく。


「弁慶、陣を破壊しろッ!!」

「御意ッ!!」


 九郎の命を受けた弁慶と吸血鬼達は弁慶は拳で、吸血鬼達は血を弾丸の様に飛ばし魔法陣を抉り破壊していく。


「ミアさん、いま薬をッ!!」


 そんな状況の中、薬を手にミアの下に駆け付けた弘樹は、閃光で胸を貫かれた彼女を抱え上げ、傷口に紅葉の薬をぶちまける。

 シュウシュウと音を立て、傷はふさがって行くが出来た傷跡は大きく流れる血は止まらない。


「うーッ……こぷっ……ひろ……ミア、ゆだん……」


 ミアは口から血を吐き出しながら、儚く微笑む。


「喋らなくていいですからッ!!」


 弘樹は壺に入っていた雫の薬もミアの傷にかけ、ぬっぺっぽふの肉を彼女の口元にあてがう。


「ミアさん、これも食べて下さいッ!!」

「うー……あう……ひろ……いっしょ……」


 だが、血の気の失せたミアにはそれを嚥下する力は残っていなかった。


「クソッ、どうすれば……」


 弘樹は視線を彷徨わせた後、手にした肉片に目を落とす。


 ぬっぺぽふの肉を食らえば多くの力を得られるらしい、その力の中に傷を癒す物があれば……。

 そんな力を得てしまえば、現世に戻っても普通の人間として暮らせないかもしれない……。


「そんな事、言ってる場合かッ!!」


 ミアを失うぐらいなら、普通の人の暮らしなんて送れなくても構わない!!

 そう覚悟を決めた弘樹は、手にした肉を口に放り込みそのままゴクリと飲み込んだ。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 弘樹もとうとう妖怪に…… 女神、嫌な奴ですー( ̄△ ̄) ミアちゃん、死なないで(;_;)
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