聞き込み
エレベーターから降りた九郎は迷う事無くマンションの一室の扉の前で足を止めた。
「……怯えさせたくない、お前達は少し離れていろ」
九郎は弁慶、千影、ミアの三人を順繰りに見廻し、右手を上げて彼らに下がる様に指示を出した。
「御意」
「うむ」
「うー、ミア、こわくないッ!!」
「ミア、駄々をこねるな。マルも行こうと言っておるぞ」
「うー……わかった」
千影がミアの手を引いて扉から離れ、廊下の角に身を隠したのを確認した九郎はドアに視線を向ける。
「…………瀬戸、インターホンを押してくれ」
インターホンを見上げた九郎は、弘樹を振り返り指示を出す。
手が届かないのだろう。そう思った弘樹は笑みを浮かべ頷きを返した。
「分かりました」
インターホンを押すと、ピンポーンと慣れ親しんだ音が響き『誰?』と女性の声が聞こえた。
「えーと」
「瀬戸、私を抱き上げろ」
「九郎さんを?」
「そうだ、早くしろ」
「はぁ……よいしょッと」
『なに、子供?』
インターホンからは困惑気味の声が漏れ聞こえて来る。
「実は僕達、生きたまま、こっちに来ちゃったの」
そう言うと九郎は辛そうに目を伏せる。
『えっ、生きたまま? ……そういう話は聞いた事あるけど、こんなちっちゃい子が……ちょっと待って』
そう言った女の声には多分に同情が含まれていた。そんな女の声を聞いて九郎は弘樹に話を合わせろと囁く。
その後、パタパタと足音が響き、カチャリと鍵の開く音が聞こえ、茶髪の若い女が顔を覗かせた。
「えっと、変な格好だけど、君も生身のまま?」
「……そうなんですよ、俺は別の場所で迷い込んだんですけど、偶然、東京でこの子に会って……」
「ねぇ、僕、東京どこかの大学にいるっていう、向こうに送り返してくれるおじさんの噂を聞いたんだけど……お姉ちゃん知らない?」
「大学、送り返してくれるおじさん……そういえば確か、新田大学だっけ……その第二キャンパスに黒いハットの妖しいおっさんがいるって、聞いたような……」
「新田大学の第二キャンパスだねッ! ありがとう、お姉ちゃん、僕、行ってみるよ!」
「ありがとうございます」
「えへへ、帰れるといいね」
「うん、ありがとうッ!!」
そう言った九郎は見た目にマッチしたあどけない笑みを浮かべていた。
「やだ、可愛いッ!! お兄さん、絶対その子送り返してあげてね!!」
「は、はい、頑張ります」
「じゃあね。頑張るんだよ」
「うんッ!!」
笑顔で頷いた九郎に手を振って、女は扉を閉めた。
女と九郎のやり取りを終えた九郎に弘樹はチラリと視線を送る。
「なんだ?」
「いや、確かに可愛いかったなぁと思って」
「クッ、これは情報を得る為の演技だ。大体、私は貴様の何十倍も生きている吸血鬼だぞ」
そう言ってプイッと顔を背けた九郎を見て、弘樹は余計に可愛いなぁと父性愛が目覚めるのを感じていた。
「はぁ……さっさと成長したいものだ……瀬戸、とにかく下ろせ」
「分かりました」
肩を掴んだ小さな手に名残惜しさを感じつつ、弘樹は九郎を廊下に下ろす。
廊下に下りた九郎は足早に廊下の角にいた千影たちの下に駆け寄り、弘樹も慌ててそれを追った。
「聞こえていたと思うが、新田大学の第二キャンパスに向かう。弁慶、佐藤達にも第二キャンパスへ向かう様に指示を」
「了解です……こちら弁慶、新田大学、第二キャンパスで妖しい男が出没しているとの情報を得た、我々は第二キャンパスへ向かう。各隊も合流されたし……」
弁慶は左耳のインカムに向かい、そう指示を出し、各隊の返答を確認して九郎に頷きを返した。
「無線は使えるんですねぇ」
「あれは電話回線やネット、基地局に依存しない、特殊な物だからな十キロぐらいはやり取りできる」
「へぇ、便利ですねぇ」
「それより第二キャンパスだ……行くぞ」
ちょこちょこと歩く九郎の後ろ姿に、弘樹はほんわかしながら彼の後を追ったのだった。
■◇■◇■◇■
新田大学の第二キャンパス、幽世に作られたそれは勿論、大学の建物を模して作られただけではあったが、場所的には現世と同じ場所に存在していた。
弘樹達がその第二キャンパスに辿り着いた時には、九郎の部下の黒スーツの男達は既に正門前に到着していた。
「ボス、ざっとこの周辺の死者たちに聞き込みを掛けたのですが、確かにキャンパス内に怪しい男が出没しているそうです」
「俺が掴んだ情報では、男が見慣れない者達を消しているのを見たとか……こいつは期待が持てますね」
車に駆け寄った黒スーツたちが仕入れた情報を九郎に報告する。
「うむ、では各自散開、男を発見したらすぐに報告を。報告を受け次第、全員集合して交渉を行う事とする」
「了解ッ!」
黒スーツたちは再度、羽根を生やしキャンパスの上空に散っていった。
「我々は地上から構内を捜索する。奴は現世からの侵入者を察知できるようだから、うろついていれば、向こうから接触してくる可能性もあるだろう。行くぞ弁慶」
「ハッ」
九郎と弁慶は車を下りて正門へと歩みを進める。
ミアも彼らを追って煙草盆を抱え車を下りた。
車に残った千影が弘樹の顔を見て優しく微笑む。
「おっさんに会えば弘樹はようやく現世に帰れるのじゃな」
「……」
「なんじゃ、嬉しくないのか?」
「嬉しくない訳じゃないんですが……」
そう言って弘樹は千影をボンヤリと見返した。
千影は現世で暮らすのも良いかもしれないと言っていた。
一緒に来てほしいと願えば来て暮れるだろうか……。
「あの千影さん……」
「何をしている瀬戸、早く行くぞ!」
「あ、はいッ!」
九郎に急かされた弘樹は言いたい事を言えないまま車を下り、荷台に置いていたおっさんへの土産、猿酒やローストビーフ他を抱え正門前にいた九郎達の下へと駆け寄った。
「ふむ……やはり、放ってはおけんかの……」
そう小さく呟き、千影も車を下りて弘樹の後を追った。
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