おっさんを探して
警視庁特殊事案対策部第三課。そう名乗った黒スーツの集団と協力して時空のおっさんを探す事になった弘樹達。
その三課の課長だという美少年、源九郎に弘樹は話を聞いて気になっていた事を尋ねる事にした。
「あの、九郎さん、聞きたい事があるんですけど……」
「なんだ?」
「その何とか三課なんですけど、俺は全く聞いた事が無いんですが……」
「当然だ。我々の存在はまだ世間には公表されていない」
「あ、そうなんですね」
ああ、と頷き九郎は三課について発足の経緯を語って聞かせた。
それによると現世にも御伽噺に出て来る様な、妖怪やモンスターは普通に存在していて、これまでは対モンスター用の武器を装備した人間の警察官が対処に当たっていた。
だが、強力な力を持つモンスターに生身の人間が立ち向かうのには無理があると、九郎を中心とした吸血鬼の部隊、警視庁特殊事案対策部第三課が設立されたそうだ。
「近く、妖怪やモンスターの存在も世間一般に公表される予定だ」
「へぇ、そうなんですね。だったら千影さん達も現世で暮らせる様になるかもですね」
「ぬっ、現世で暮らすか……考えてもおらなんだが……それも良いかもしれんな……」
千影は顎に手を当て、弘樹との生活を考えたのか笑みを浮かべていた。
「うー、ミア、ひろといっしょがいい」
そう言うとミアは弘樹に抱きつく。
「ほう、瀬戸、お前随分と懐かれているじゃないか」
「えッ、ハ、ハハハッ」
思えば幽世に迷い込んだ切っ掛けは、彼女に振られた弘樹を慰めようと企画されたスキー旅行だった。
だが気付けば、お母さんポジとはいえ美人な千影と、異形で精神的に幼いが美人なミアの二人により添われていて……そんな状況が続いた事で弘樹はすっかり元カノの紗子の事を考えなくなっていた。
「ともかく、お前達が現世で暮らすとしても、まずは時空のおっさんを見つけねばどうにもならん」
「ですね。大学……学生街を中心に聞き込みをするのはどうでしょうか?」
「そうだな、我々はこれまで自分達がこちらに来る事になった廃ビルを起点に調査していたが……よし、ツーマンセルで各自、付近の大学周辺の死者を捜索、情報をあつめろ、振り分けは……」
九郎は巨漢を除いた四組八名の分担地域を指示、それを受けて部下の黒スーツたちは、ジャケットを脱いで背中から羽根を生やし、二組に分かれて無人の街に散っていった。
「蝙蝠の翼……ホントに吸血鬼なんですねぇ……あのそれで僕たちは?」
「お前達は我々と一緒に、一番近い新宿の大学へ向かって欲しい」
「了解です……ところで移動手段は? 九郎さんは飛べるみたいですけど」
そう言って弘樹は角を生やした巨漢の男に目をやった。
「弁慶か……」
「殿、儂は走ってでも……」
「お前は足はさほど早くなかろう……すまんが弁慶はお前達の車に便乗させてやってくれ」
「便乗って……大丈夫かなぁ」
弁慶と呼ばれた鬼の体を見ながら、弘樹は取り敢えず寒いけど幌は外そうと心の中で思った。
■◇■◇■◇■
結局、幌を外したジープの荷台に弁慶を乗せ、千影が九郎を抱きかかえる形で一行は大学近くの学生街に向かう事となった。
「瀬戸、所で気になっていたのだが、お前が持っている武器は一体……」
弘樹が太ももに吊り下げたハンドガン、それに荷台に置かれていたライフルや銃弾を見て、九郎が弘樹に尋ねる。
「えっと、道中で会った人達が武装してて、この車も含めて拝借しました」
「幽世には色々、危ない妖や祟り神も多いでな。お守り代わりじゃよ」
「出会った死者が言っていたが、そんなに危険な存在が?」
「うむ、古き者共の中は話が通じる者もおるが欲望のままに振舞う者もおる、それに新しい妖は多分にその性に従い行動するでな」
「その銃は破邪の印が書かれた弾を撃てるので、妖にも効果があるんですよ」
「なるほどな……」
そんな話を弘樹達がしていた後ろでは、弁慶がミアを見て首を捻っていた。
「お主はなんという妖じゃ? 磯女……とは違うようじゃが?」
「うー、ミア、ミアッ!!」
「ミアとはお主の種族では無く、個体名であろう?」
更に首を捻る弁慶にミアは眉根を寄せた。
「うー、ミア、だいじゃ、それにみこッ!! まざってグルグル……わかんないッ!」
「ぬぅ……大蛇とミコ……巫女か……その肩に乗っておるのは煙々羅ではないのか?」
「これはまるッ!! まるはつくもがみッ!!」
「付喪神……おお、この煙草盆の……人に鬼、大蛇と混じった巫女、それに付喪神か……おかしな組み合わせじゃ」
弁慶はそう言って苦笑を浮かべた。
彼の脳裏には弘樹と同じく、種族を問わず誰とでも分け隔てなく付き合っていた吸血鬼の姿が浮かんでいた。
弘樹達がそんな風にお互いの事を話している間に、車は学生街へと辿り着いていた。
車を下りた九郎はスンと鼻を鳴らし、こっちだと一行を先導して歩き始めた。
迷いなく進む九郎に弘樹は声を掛ける。
「凄いですね。そんなに簡単に……」
「吸血鬼の鼻は獲物である人を狩る為に非常に鋭敏になっているからな」
九郎は少し得意げな年相応に見える笑みを浮かべた。
「そうなんだ」
「弘樹、あのぐらいは儂でも」
弘樹が感心した様子を見せた事で、対抗心を燃やした千影もスンスンと鼻を鳴らす。
「あっちじゃな」
「千影さん、別に九郎さんと張り合わなくても、千影さんが凄い事は分かってますよ」
「ぬ、さようか」
そんな弘樹達を横目に、九郎は大学近くにあった一軒のマンションに足を向けた。
「ここだ。匂いは上からしているな」
「オートロックか……殿、ここは儂が」
弁慶は閉じられた強化ガラスの扉に両手置きを強引に押し開けた。
「ふぇえ……弁慶さんは見た目通りの怪力なんですね」
「ぐふふ、こそばゆい事を言う小僧じゃ」
「弘樹、あのぐらいは儂でも」
今度は弁慶に対抗心を燃やしたらしい、千影が先程と同様の言葉を口にする。
「千影さん、そんなに言わなくても俺は千影さんを一等、頼りにしてますよ」
「ぬぅ……」
「隠、瀬戸は非力な人ではあるが、子供では無い。被保護者では無く仲間として扱ってやれ」
「ググッ……」
僅かな間に関係性を見抜かれた千影は言葉に詰まる。
そんな千影に皮肉げな笑みを浮かべると、九郎は行くぞと踵を返した。
「千影さん、行きましょう」
少しバツの悪そうな千影に弘樹は右手を差し出す。
「……弘樹、儂は……」
「分かっていますよ。でも九郎さんが言ってた様に守られるだけじゃなくて、仲間として扱って貰えればうれしいです」
「……分かったのじゃ」
千影は口を尖らせつつ、おもむろに差し出された弘樹の手を握り返した。
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