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幽世放浪記  作者: 田中
吸血鬼とおっさんと女神と
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吸血鬼の美少年

 合掌造りの家が立ち並ぶ集落、その家の一つ、後藤(ごとう)の家を後にした弘樹(ひろき)達は東京へ向け車を走らせた。

 東京が近くなるほど道路は整備され、景色も都会的な物に変わりつつあった。

 恐らく、東京に住む死者たちが生前の景色を求めた事、それに利便性を求め整備したのだろうと弘樹は考えていた。


 様々な物を願い作り出せる死者の力。それを使って無人の街を作り出す。

 そんなに生前の都会の暮らしは彼らにとって魅力的だったのだろうか。

 確かに便利ではあったが田舎の地方都市出身の弘樹には、東京の忙しなさは少し息苦しく感じる部分があったので、街や道を整備してまで同じ景色の中で暮らしたいという想いは理解出来ない物も多分に含んでいた。


 そんな事を考えながら車を走らせている内、弘樹達は東京の中心、巨大なビルが立ち並ぶ新宿や渋谷と現世では呼ばれる街に辿り着いていた。

 車を路肩に止め、立ち並ぶビル群を見上げる。

 作った死者と時代が違う為か見慣れないビルもあったが、そこは確かに東京だった。

 ただ、溢れる様な人並みは無く、街は静かで以前、優子(ゆうこ)の集落の長、村田(むらた)に聞いた通りゴーストタウンと呼ぶのが相応しい気がした。


「ふむ、人の気配が無いのう」

「建物は多いですけど、暮らしている人は少ないって事でしょうか……」

「うー、たかい、でかい」

「おい、貴様らッ!!」


 弘樹達が車を下りて周囲を見回していると、甲高い子供の声がビルの間に木霊した。

 声のした方を見上げると、黒いスーツを着た髪の長い少年が宙に浮かびこちらを見下ろしている。


「うーッ!!」

「ミアさん、まずは話してみましょう。はい、何でしょうかッ!?」


 少年を見て腕を翳したミアを宥めつつ、弘樹は妖怪だろう少年に問い掛ける。


「ほう、空を飛ぶ人間を見ても驚かんとは、中々に肝が据わっているな」


 その美少年はそう言って笑みを浮かべると、ふわりと弘樹達の前に降り立った。


「お前達はこの街の住人か?」

「いえ、俺達は時空のおじさんに会う為に旅をしてて、ここにはさっき着いたばかりです」

「時空の……我々もその男を探しているのだ。どうだ情報を共有しないか?」

「待て、お主、人ではあるまい」


 少年がそう言って弘樹に歩み寄ろうとすると、すかさず千影が割って入った。

 千影はスンスンと鼻を鳴らし、少年に鋭い視線を送る。


「この血の臭い……お主、吸血鬼じゃろう?」

「確かに私は吸血鬼だ。だが我々は無差別に人を襲ったりはしない、これでも公僕なんでな」

「公僕って……お役所かなにかの……?」

「私は源九郎(みなもとくろう)、警視庁特殊事案対策部第三課の課長だ」


 少年はそう言って警察手帳を取り出した。

 手帳には名前と顔写真、所属する部署の名前が記されている。


「警視庁って幽世に警察があるんですか?」

「いや、現世の警察だ。我々、第三課の職員、十名は最近頻発している失踪事件の調査で廃ビルを捜索中、全員がこの無人の街に気が付けば来ていた。調査する内、ここが幽世と呼ばれる死者や妖怪、神仙が暮らす場所というのは分かったのだが……」

「ふむ、お主らも現世に帰る方法を探しておると?」

「そうだ。時空のおっさん、そう呼ばれる男がこちらからあちらへ人を飛ばす力がある事は突き止めた。しかし、その男が何処にいるかまではまだ不明でな」


 そう言って九郎は見た目に沿わない苦笑を浮かべる。


「僕らもおじさんを探してて、都市伝説じゃあ、無人の大学にいるってなってましたけど……」

「大学か……そちらはまだ捜索していなかったな……」


 九郎はそう呟き、顎に手を当てた。


「殿ッ!!」


 そんな九郎に向かいドスドスと足音を響かせ、黒いスーツを着た巨漢が同じく黒スーツを着た男達を引き連れ駆け寄る。

 巨漢の頭には二本の角、それに下顎からは牙が二本、天に向かって突き出ている。

 恐らく彼らが三木が言っていた無人のビルをうろついていると噂の者達だろう。


「ぬっ!?」


 そんな集団の接近に思わず身構えた千影に、九郎が部下だと静かに告げる。


「相手が何者か分からぬのに、一人で突出されるのは危険ですッ!!」

「大分、力は戻っている。大抵の相手には遅れはとらん。それよりこの者達も我らと同様、時空のおっさんを探しているようだぞ」

「あの男を……何者です?」

「それはこれから聞くところだ。我々は先程も言った様に、警察の人間、いや、妖だ。お前達は?」


 黒スーツの集団は九郎の言葉で弘樹達に一斉に視線を向けた。


「うっ、迫力が凄いな……えっと、俺は瀬戸弘樹(せとひろき)、大学生で生身のままこちらに迷い込んでしまって……」


 弘樹は黒スーツの集団、特に巨漢の鬼の眼光に少したじろぎながら、自身の出自を語った。


「儂は隠千影(なばりちかげ)。幽世に迷い込んだ弘樹を拾って、現世に送り返す為に協力しておる鬼じゃ」

「うー、ミア、ひろのなかま、これはまるッ!!」


 いつもの様に自己紹介した弘樹達を第三課の面々はじろじろと観察する。


「生身のまま幽世に……そこの鬼、隠は何故、瀬戸の帰還に協力を?」

「弘樹は儂が仕えた主にどことなく似ておってな、まぁ縁を感じたのじゃよ」

「後ろの蛇娘、ミアと肩に乗っているまるという妖も縁があってという事か?」

「まぁそうじゃな」


 千影の言葉を聞いた九郎はあからさまに顔を顰めた。


「……お人好しな鬼だ……」

「ハハッ、どこか咲太郎(さくたろう)の事を思い出しますなぁ」

「あいつの名は出すなッ! ……ふぅ、ともかく我々もこのまま幽世に留め置かれるのは本意ではない。血も必要な事だしな……どうだ瀬戸、我々と協力して事に当たらんか?」


 そう言って右手を差し出す九郎を見て、弘樹は暫し思考を巡らせた。

 現状でおじさんの情報は、東京のどこかの大学にいるんじゃないかという、あやふやな物だ。

 探すなら人では多い方がいいだろうし、警察ならそういった捜査のプロだろう。


「……そうですね、こっちも有益な情報がある訳じゃないですし……協力するって事で良いですか、千影さん?」

「弘樹が良いなら、構わんが……」

「ミアさん、それにまるはどうです?」

「うー、みあ、よくわからない、ひろ、いいなら、いい」


 そう言ったミアの肩で煙の妖、まるの揺らめきながら頷いている。


「じゃあ、協力するって事で」


 弘樹は差し出された九郎の小さな手を握り返した。


「よろしく頼む」

「はい、よろしくお願いします」


 こうして弘樹は吸血鬼を名乗る美少年、九郎とその部下達と協力し、現世への帰還のキーマンである時空のおっさんを探す事となったのだった。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 妖怪の警察官とはこれまた…同じような状況の方と出会えて良かったですね。
[良い点] 九郎が出てきたー\(//∇//)\!! [一言] 通勤に読んでますよー♪
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