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幽世放浪記  作者: 田中
妖狩りとエレベーター
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モンスターマスター

 歓待を受けた翌日、集落の人々の願いによって作られた弾薬を受け取った弘樹(ひろき)は、彼らに別れを告げて集落の東、平原の町にあるというマンションを目指しジープを走らせた。

 雪に付いた轍に沿ってジープを走行させる。銃弾の他にガソリンも住民達によって補充してもらったので、燃料の心配も当分必要無い。


「そういえば、昨日の宴会で聞いたんですが、これから向かう町には(あやかし)を引き連れている人がいるそうです。もしかしたら陰陽師とかお坊さんみたいな、霊力的な力を持ってる人かもしれないので、二人とも気を付けて下さいね」

「妖を引き連れるか……まるで(ぬし)様や役小角(えんのおづぬ)の様じゃの」

「役小角ですか?」

「うむ、強い法力を持ち、前鬼(ぜんき)後鬼(ごき)という夫婦の鬼を弟子にしたとか」

「うー」


 そんな話をしていると、シートの間から顔を覗かせたミアが人差し指で弘樹を指した。


「なんですミアさん?」

「うー」

「ふむ、確かに弘樹も儂とミアを引き連れておるし、似ておるかもしれぬな」

「俺は二人に助けられているだけで、引き連れている訳じゃないでしょ」

「フフ、そうじゃな」


 そんな話をしながら雪の道を走る事しばし、一行の前にコンクリート造りの町が姿を見せた。

 町には道路が整備され、これまでの集落に比べて格段に規模が大きく、高層建築もいくつか存在していた。


「大きな町ですねぇ……」

「そうじゃのう……」

「うーッ!!」


 弘樹がアスファルトの道をおっかなびっくり走行していると、道路にはちらほらと走行している車の姿も確認出来た。

 町の住人が運転しているのだろう。住人に話を聞こうと弘樹が車の後を追うと、車はにわかに速度を上げた。

 もしかして怯えさせたか、隣に座る千影(ちかげ)、それに荷台のミアの事を考え、仕方が無いと弘樹は車を路肩に止めた。


「追わぬのか?」

「ええ、出来れば話を聞きたかったですが……ともかく、教えてもらったマンションに行こうと思います」

「……もしや儂らが原因で……」

「知らない人に追い掛けられたら、誰だって驚きますよ。千影さん達の事は関係ないと思います」

「……さようか」


 千影は弘樹の言葉を聞いてそれ以上は何も言わず微笑みを浮かべた。

 妖や神仙の中にはあの蛇神の様に危険な者もいる、願いの力を持つとはいえ、元は普通の人であった死者たちが妖を恐れるのは仕方ない事なのかもしれない。

 人は同じ人間同士でも肌の色や文化の違いで、分かり合う事が出来ない生き物なのだから……。


 そんな事を考えながら、弘樹は車を異世界エレベーターがあるというマンションへと向けた。

 西宮から聞いた話ではマンションは町の東側、住宅地に建つレンガ風の十階建ての建物らしい。

 高層建築は町の中心に集中していたので、住宅街に建つマンションはすぐに見つける事が出来た。


「これかな?」


 弘樹はマンション側の路肩にジープを止め、車から降りてマンションを見上げる。


「ふむ、町を通る時も思うたが、人間はこれ程高い建物を作る事が出来る様になったのじゃな……」


 千影も助手席を降りて感心した様にマンションを見上げている。


「おい、お前ら」


 そんな弘樹達に若い男の声が浴びせられる。

 振り返れば、黒い皮のジャケットと皮のパンツを身にまとった、十代後半ぐらいの金髪の少年が立っていた。

 彼の後ろには猿の顔に狸の胴体、虎の足に蛇の尻尾を持つ牛より大きい獣と真っ白な肌に真っ白な着物、さらに真っ白な髪の美女が控えていた。


「ふむ、鵺と雪女じゃな」

「妖ですか?」

「うむ、鵺は雷を、雪女は吹雪を操る。中々に強力な妖じゃ……人に従う者達では無い筈じゃが……」


 千影の言葉を聞きながら、弘樹はおそらく彼が集落の女性が言っていた妖狩りだろうと当たりを付けた。。


「町に見慣れない車が走ってたから観察してたが、お前、中々良いモンスター連れてるじゃねぇか。そいつ俺に譲ってくれよ」

「譲ってくれって千影さんは物じゃありませんよ」

「タダでとは言わねぇよ。譲ってくれたらモンスターを使役する方法をお前にも教えてやる」

「使役……結構です。大体、なんで妖を使役なんて事してるんですか?」

「あ? 面白いからに決まってるだろ。リアルに怪物がいて、そいつらをぶちのめして、気に入った奴は仲間に加える。まんまゲームじゃん」


 ゲーム……確かに現世には、悪魔やモンスターを仲間にして戦わせるゲームは幾つかあった。

 しかし、それはあくまでゲームの中の事だ……死者が思いのままに過ごし、その心を癒す幽世(かくりよ)であっても、意思のある者を隷属し従わせる事は弘樹には歪んでいる様に思えた。


「止めませんか、そんな事」

「あん? お前もこの町の奴らと同じかよ」

「妖は妖でこの幽世で普通に生きてるんですよ」

「うるせぇッ!! 宵闇(よいやみ)氷柱(つらら)、こいつ等ぶちのめすぞッ!!」


 少年の言葉で獣と白い女は弘樹達に向かって雷と吹雪を放った。


「フンッ!!」


 弘樹を庇う様に前に出た千影が、出現させた鉄棍を振り妖気の波動で雷と吹雪を打ち払う。


「へぇ、思った通り強ぇじゃん。氷柱、男を押さえてろ。俺はこの鬼とやる」


 氷柱と呼ばれた白い女は無言で頷き、口から吹雪を吐き出し弘樹に浴びせかけた。


「わッ!?」

「弘樹ッ!!」

「お前の相手は俺だぜッ!!」


 少年は前に出た千影に向かってステップを踏み距離を詰めた。

 握り込んだ拳は鋲付きのグローブが覆っていて、その金属付きの拳が千影を襲う。

 千影は反撃していいものか悩み、防戦一方となった。


「どうした、打ってこいよッ!!」

「……ぬぅ……致し方ない」


 千影は鉄棍を消し、両手を構え少年と対峙した。


「素手相手に武器は使わねぇってかッ!? 気に入ったぜ、あんたッ!! 俺は神薙圭一(かんなぎけいいち)!! あんたはッ!?」

「隠……千影じゃッ!!」


 圭一の繰り出す拳を躱しながら千影が叫ぶ。


「千影か、なぁあんた、俺の物になれよッ!!」


 言葉と同時に圭一は千影の懐に飛び込み脇腹を狙い右フックを放つ。

 千影は後ろに飛んで辛うじてそれを躱した。


「ぬっ、見た事の無い動きじゃ……現世(うつしよ)の武術か……?」


 千影が戸惑っている間にも、圭一は上体を揺らしながら踏み込み、ジャブからのストレート、左フックに右アッパーとコンビネーションを続ける。

 その連撃をよけきれず、アッパーが千影の顎先を(かす)めた。

「グヌッ!?」


 脳を揺さぶられた千影は揺らめき、我知らず膝を突く。


「よし、笹姫(ささひめ)、絡め取れ!!」


 圭一の言葉の直後、千影の体に真っ白な糸が浴びせかけられる。


「クッ……ぬかったわ」


 千影は藻掻くが糸は粘り振り払う事が出来ない様だ。

 その糸の先、弘樹が上空を見上げれば八本の蜘蛛の手足を持つ、着物を着た女が千影にその蜘蛛の手を翳し糸を投げかけていた。


「千影さんッ!? 止めろ、千影さんを解放しないなら撃つッ!!」


 弘樹は圭一に腰から抜いたハンドガンを向けた。


「銃たぁ、無粋だねぇ……氷柱、さっさと凍らせろ」

「承知いたしました」


 氷柱は圭一の声で吹雪を放射状に撒き散らし、弘樹を追い詰める。


「クソッ、千影さんッ!!」


 弘樹は叫びながら左へ走り何とか雪と氷の混じった暴風を避ける。

 吹雪はその後も弘樹を追いかけ、彼はその軌跡から逃れる為、アスファルトの上を右へ左へ奔走した。

 その間に千影に歩み寄った少年は黒革の首輪を取り出す。


「こいつは陰陽道を研究してる奴から作り方を教わった、化け物を使役出来る首輪だ。こいつを嵌めりゃあ、お前も俺の仲間だ」

「ふざけるなッ!! 儂は弘樹を現世に帰さねばならんのじゃッ!! お主の遊びに付きおうておる暇は無いッ!!」

「んな事はもうしなくていいんだよ」


 そう言いながら少年は手にした首輪を千影の首に近づける。


「うーッ!!」

「グッ!?」


 圭一が首輪を嵌める直前、女の声が響き、彼は胸を押さえ後ろに飛んだ。


「うーッ!!」


 ジープの運転席から身を乗り出したミアが再度、声を上げると、上空にいた蜘蛛の手足を持つ女がふらつき地面へと落下した。


「はぁ、はぁ、もう一匹いやがったか……千影だったか、お前は絶対俺が手に入れる。覚えておけ……氷柱、笹姫を回収して撤収だッ!!」


 捨て台詞を吐くと、圭一は鵺に跨り弘樹達の前から飛び退った。

 氷柱と呼ばれた雪女も笹姫と呼ばれた異形の女を抱え圭一の後を追う。

 それを確認した弘樹は糸に巻かれた千影の下に駆け寄った。


「千影さん、大丈夫ですかッ!?」

「う、うむ……見た事の無い武術じゃった……人間相手じゃと油断したわい」

「うーッ」

「ミアさん、助かりました」

「うー」

「さてと……まずは千影さんから糸を取りましょうか?」


 ニッコリと目を細めたニアの頭を撫で、弘樹は彼女を促しグルグル巻きにされた千影を蜘蛛の糸から解放したのだった。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 圭一はボクサーなのかな? どちらにせよ、女の子に暴力は良くないです(´・ω・`) ポケモンか?っての。
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