蛇神退治
「という訳でこのお三方が神様を説得してくれる事になりました」
西宮は弘樹達と話した後、三人を集落の住民と引き合わせた。
集落の集会所に集まった人々の中には千影やミアの姿に怯える者もいたが、明らかに人と違う容姿の二人に期待する者が殆どだった。
「俺達も願いの力で神社をどうにかしようとしたんだが、撤去の為に出した重機は動かなくなるし、それをやった奴は骨が無くなったみたいになって、最終的に気が触れてね……手の打ちようがなくて困ってたんだ」
集落の代表だという男がそう話した後、小さな男の子を連れた男女が弘樹達に話しかける。
「あの、どうか息子を助けて下さい」
「よろしくお願いします。我々に出来る事は何でもしますから」
「ええ、出来る限りの事はするつもりです……えっと、この子が将太君ですか?」
「はい、将太、お兄ちゃんにご挨拶なさい」
しゃがみ込んだ弘樹に、将太と呼ばれた男の子はおずおずと弘樹を見て、言葉を紡いだ。
「あ、あの、新田将太です。七歳です」
「将太君だね。俺は瀬戸弘樹、二十歳です」
「隠千影じゃ、年は千五百とちょっとじゃ」
千影が弘樹の横にしゃがみ微笑むと将太は顔を赤らめた。
そんな将太に二人の後ろにいたミアが腕を振り上げ唸る。
「うーッ!!」
「ひうッ」
「あ、この娘はミアさんです。年は分かんないけど、いい娘だから安心してね」
将太は六本腕に蛇の下半身のミアを見て、涙目になったが、ミアが二ッと歯を見せて笑うと安心したのか笑みを返した。
「ともかく、俺達三人で神社に行ってみます。もし手に負えないようなら、妖の知り合いに頼んでみます」
「妖の知り合いに……ありがとうございます。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げた将太の両親に、三人は笑みを返した。
■◇■◇■◇■
新月の夜に迎えに行く。
そう集落にいつの間にか出来ていた神社に棲まう神は子供の死者、将太に言ったという。
集落の住民達との顔合わせを終えた、弘樹、千影、ミアの三人はその神が棲むらしい神社を訪れていた。
弘樹は一応、交渉が決裂し戦闘になった場合を考え、背中に太刀、右手にはアサルトライフルを装備していた。
話し合いでどうにかなればいいが、その神が将太を諦めないなら戦う他ないと弘樹は考えていた。
「何というか、ミアさんがいた柵の中と同じ雰囲気がしますね」
「ふむ、神気というよりは妖気に近いの……やはり祀られているのは祟り神の様じゃ」
「祟り神……取り敢えず、御社に行って話せば伝わるでしょうか」
「そうじゃな……ミア、何をしておる、早う来い」
「うー……」
ミアは神社の鳥居の前で佇み、弘樹達に視線を送っている。
「うーん、似たような雰囲気の場所にずっと閉じ込められていたから、嫌なのかな?」
そう考えた弘樹はミアに歩み寄り、六本ある手の一つを握った。
「恐いなら手を繋いで行きましょう」
「うー……うーッ!」
ミアは暫く口をへの字にして唸っていたが、やがて意を決したのかゆっくりと鳥居をくぐった。
その直後、弘樹とミアの横に、髪の長い白い着物を着た女がいつの間にか立っていた。
『穢れを持った半端者が我の神域に足を踏み入れるとはのう』
女はそう言って三日月の様に細長い瞳孔の目をミアに向けた。
どうやらこの女が将太が出会った神の様だ。
そう思った弘樹は女を見据え口を開く。
「あの、集落の子供を迎えに行くそうですが……」
『いかにも、あの子供は姿を消していた我が見えた。そういう人の身で力を持つ者を喰う事で、我の力は増していく』
「その子は集落全体の子供じゃそうじゃ。喰わせる訳にはいかぬ」
黒鉄の棒を手にした千影が棒を女に翳しながら静かに言う。
『鬼、それに蛇妖と混じった巫女、おや、お前は生身の人かや?』
女は弘樹達を見回し、嬉しそうに目を細めた。
『ククク、近頃は現世にも行けず生きた人の子を喰えずにおった。お前は鬼と半端者を喰ろうた後の口直しとしようかの』
女はそう言うとおもむろに口を開いた。口はその端から裂け、四本の鋭い牙を覗かせながらドンドン広がって行く。
「ちょっと待って下さい!! 俺達は話合いに……」
『人の子と話す事など無いわ!! 大人しく我に喰われろ!!』
「交渉決裂の様じゃな」
「クッ、仕方ないです。戦いましょう」
「うーッ!!」
弘樹達は三方に分かれ女から距離を取り、弘樹は銃を、千影は自らの妖気で作り出した鉄棍を、ミアは六本の腕を女に向け翳した。
「うーッ!!」
『我は神ぞ。呪いなど効かぬッ!!』
女の言葉通り、先陣を切って行ったミアの呪いによる攻撃は効いていないらしく、女は何の痛痒も見せず変化を続け、やがて髪と同じ真っ黒な鱗を持つ大蛇となった。
「ふむ、やはり蛇神か……執着されても厄介じゃ!! ここで確実に祓うとしようぞ!!」
「了解です。指示をお願いします!!」
「うむ、弘樹はその武器で目を狙え!! ミアはより強い呪で足止めを!!」
「分かりました」
「うーッ!!」
『妖風情が神に勝てると思うてか』
「行きますッ!!」
鎌首をもたげた大蛇に向け弘樹はライフルを構えた。
そんな弘樹に向けて蛇神は紫色の霧を吐く。
「毒かッ!? 喝ッ!!」
毒霧が弘樹に届く前に千影が鉄棍を地面に打ち付け、波動を放ち紫の霧を吹き飛ばす。
『小癪な鬼めッ!! まずは貴様から喰ろうてくれる!!」
「千影さんッ!!」
千影に襲い掛かろうとした蛇神に弘樹は銃を向ける。
銃など撃った事はおろか手にした事もなかったが、幸いな事に銃の上部にはガラスの中に赤い光点の浮かぶ照準器が乗っていた。その赤い光点を頼りに狙いをつけ、引き金を引く。
「わっ、反動が凄いッ!?」
吐き出された銃弾の反動で暴れる銃身を、弘樹は強く握りしめ何とか押さえつけた。
目に当てる事は出来なかったが、銃弾は鱗を剥し大蛇の顔面の肉を抉り取る。
『クッ、何じゃこの弾はッ!?』
顔面に銃弾を受けた蛇神は鱗を抉った弾丸に思わず驚きの声を上げた。
「今じゃミア、傷口に呪をッ!!」
「うーッ!!」
ミアの体にため込んだ呪いが、破邪の弾で抉れた蛇神の傷をグチャグチャと蝕む。
『ギャアア!? おのれ、半端者がぁッ!!』
蛇神は今度は呪を放ったミアに狙いを変え、巨大な顎を彼女に振り下ろした。
「うーッ!?」
「させんッ!!」
影の中を走り、ミアを襲おうとした蛇神の頭を挟む様に出現した二人の千影は、上あごに生えた二本の牙目掛け、手にした黒鉄の棒を振り抜いた。
『グギャアアア!?』
野球のフルスイングに似た形で千影とその分身に牙をへし折られた蛇神は、苦痛の声を上げながら弾かれた様に頭を天に向けた。
「終わりじゃ」
千影は跳ね上がった頭を追って跳躍、鉄棍を思い切り振り下ろした。
ズガンッ、境内にそんな音が鳴り響き、大蛇の首は参道の石畳に激突。
警戒して弘樹が銃口を向けた先では、蛇神が口元からベロリと先の割れた舌を出し、目を回していた。
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