神に気に入られた少年
道中の集落、情報を求め尋ねた家で出会った西宮徹と名乗る男に、情報と引き換えに千影を紹介して欲しいと頼まれた弘樹は彼と共に千影の待つジープ迄、彼を案内した。
「弘樹、話は聞けたのか?」
戻って来る弘樹の姿を見た千影が助手席を降りて弘樹に歩み寄る。
「えっと、この人は西宮さん、現世へ行く方法の噂を知ってるらしいんですが……」
「あ、西宮徹と言います。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げた西宮を眺め、千影はふむと頷き口を開く。
「隠千影じゃ」
「うーッ!!」
千影に続き助手席のドアから降りたミアが、六本の手を振り上げ声を上げる。
「あの娘はミアさんです」
「……君、凄い娘連れてるねぇ」
六本腕で下半身は蛇というミアの姿を見た西宮は、ポカンと口を開けた後、弘樹に引きつった笑顔を見せた。
「ハ、ハハハ……」
「それで、わざわざ儂らに挨拶に来たのには理由があるのじゃろう?」
「ええ……ええっと、ここでは何なので家で話しましょうか」
「良かろう。ミア、行くぞ」
「うー!」
器用に尻尾でジープのドアを閉め、千影の後を追うミアをチラチラと見ながら、西宮は弘樹達を家へと招き入れた。
板張りの壁が暖かい印象の応接間、暖炉には薪ストーブが置かれ、印象だけでなく実際に暖かい。
その応接間のソファーで弘樹達は西宮と向かい合った。
ソファーの前のテーブルには、西宮が入れてくれたコーヒーが湯気を立てている。
「よいか、ミア。このこーひーという物には、砂糖とこのふれっしゅを入れて飲むのじゃ。決してそのまま飲んではいかんぞ」
「うー?」
なんで? と首を傾げたミアに千影は顔顰め説明する。
「そのまま飲むと恐ろしく苦いのじゃ」
「うーッ!」
添えられたスティックシュガーとミルクをカップに注ぎ、慎重にかきまぜている千影たちを横目に、西宮が口を開く。
「瀬戸君、ありがとね。じゃあ僕が知ってる噂を先に話しておくね」
「え、いいんですか?」
「うん、紹介してくれたし、僕が知ってるのはあくまで伝聞だから……これは僕が少し前にこの集落に立ち寄った人から聞いた話なんだけど……」
その東から旅をして来たという男は、平原に建っていたとあるマンションに一夜の宿を求めようとしていた。
幽世には死者の願いで造られた建物が多く存在する。そんな建物は大体が生前の暮らしを懐かしんだ者によって造られており、殆ど空き家の場合が多い。
そんな空き部屋を拝借しようと男がマンションに入ろうとすると、近所の住民だろう女が男を呼び止めた。
「あの、そのマンションには入らない方がいいですよ」
「え? どうして?」
「マンションのエレベーターである順番にボタンを押すと、現世に帰れるって噂があるんです」
「現世に? それホントなの?」
「実際、噂を試した人が戻って来た事は無いです。でも現世に戻れたとしても私達、もう死んでるから……」
確かに死者のまま現世に戻った所で、何も出来ない霊体として彷徨う事になるだけだ。
ただ、少し気になった男は女にその方法だけを尋ねてみる事にした。
最初は渋っていた女だったが、話のタネにと男が食い下がると渋々な様子で方法を教えてくれた。
エレベーターで四階、二階、六階、二階、十階、五階の順番でボタンを押していく。
五階で止まった時、女が乗って来るが、話しかけられたら失敗。
話しかけられず、続いて一階を押すと何故かエレベーターは十階へ、そのまま乗って十階まで行くと別の世界、すなわち現世へとつながるらしい。
話を聞いた男は女と別れた後、早速、マンションに入り途中まで聞いた方法を試してみたそうだ。
だが、実際に五階で女が現れた事で怖くなり、検証を止めたそうだ。
「いや、なんかジトッとした目の不気味な女でさぁ。もう死んでるから怖い物なんて無いと思ってたけど、あれは怖かったね」
西宮に話を聞かせてくれた男はそう言うと、アハハと笑っていたそうだ。
「という噂というか、体験談なんだけど……」
「異世界エレベーターですね」
「あ、知ってた?」
「ええ、でも場所は知らなかったので情報としては有難いです」
「ふむ。して西宮、儂らに会いたかった理由とは?」
「実は、この集落に子が神様に狙われてて……」
そう言うと西宮は眉を寄せてコーヒーを口に含み舌を湿らせた。
「神様に……あの神社の神様ですか?」
「うん。アレって僕達住民が建てた物じゃなくて、いつの間にか気付いたら出来てたんだよ。その神社で遊んでた集落の子供……将太君はホントに子供、小学一年生なんだ、僕達みたいに望んでこの姿になったんじゃなくてね」
ホントに子供、つまりその将太君は幼くして亡くなったという事だろう。
沈黙が応接室を支配する。
「……将太君は集落で夫婦になった人達の家の子供として暮らしてるんだけど、あまり子供の死者はいないから、この集落じゃ住民全員の子供みたいなものなんだ……その将太君が神社に棲む神様に気に入られちゃったみたいで……」
「えっと、その神様を何とかしてほしいって事ですか?」
「うん。将太君の話じゃ、一週間後の新月の夜に迎えに行くって言われたみたいで……ひどく怯えていて見ていられないんだ」
「ふむ……神社に祀られる神と言うても、福を与えてくれる者もおれば、祟りから逃れようと祀られた者もおるからの……その神はどうやら後者のようじゃな」
千影は隣で両手でカップを持ち、コーヒーをチビチビと飲んでいるミアにチラリと視線を向け、言葉を紡ぐ。
「して、その神を儂らにどうにかして欲しいと?」
「はい、出来るならでいいんですが……勿論、お礼はします。僕達の中に、そういった祟り神的な物に対処する知識を持った人はいないしで、どうしたらいいのか……瀬戸君からは隠さんはとても強い鬼だと聞いています。お願い出来ませんか?」
「ふむ……」
千影は今度は弘樹に視線を向けた。
「……千影さん、俺からもお願いします……小さい子が親から引き離されるなんて、やっぱり駄目ですよ。俺も出来る事はしますから」
「……神か……あい分かった。儂が御せる相手かは分からんが、諦めるよう説得してみよう」
「あ、ありがとうございます!!」
西宮はそれまで暗かった表情を一転させ、千影に頭を下げた。
「うーッ!!」
「ほう、ミアも手伝うか?」
「うーッ!!」
六本の腕を振り上げたミアを見て、弘樹も笑みを浮かべたのだった。
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