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幽世放浪記  作者: 田中
異形の女と異界への穴
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捕らえられた者達

 仙薬を作り現世(どうやら別の世界線のようだが)に戻ろうとしている者達の幹部が、研究を続けている施設に潜入した弘樹(ひろき)達は集団の実働部隊の姿を借り、施設内を探索していた。

 施設一階には殆ど人の姿は無く、いくつか覗いた部屋にも人の姿は見られなかった。


「一階は使われていない様ですね」

「弘樹、地下から人と(あやかし)の気配がするのじゃ」

「地下から……先に妖の方に行きましょう。千影さん、案内を頼みます」

「任せるのじゃ」

「うー」


 千影の後を追って弘樹、そして姿を消したミアが続く。

 千影はコンクリート造りの施設の壁や曲り角が作り出す影を伝う様に、音もなく移動していく。

 弘樹はそんな彼女の後を必死で追いかけた。


 やがて階段を降りた先、倉庫らしき鉄の扉が見えた所で千影は物影に身を潜めた。


「あの中から妖の気配を感じるのじゃ」


 扉の前には見張りらしき男が二人、ライフルを持って立っている。


「どうするのじゃ? また、こやつらの姿で一芝居打つか?」


 千影の言葉を聞きながら、弘樹は目を細め見張りを観察した。

 手にしているのは、柵の側で会った佐々木達が持っていたのと同じ、軍用のアサルトライフルだ。

 腰にはホルスターが下げられ、ハンドガンも装備しているようだ。


「そうですね……このまま近づいた後、不意を突いて意識を奪いましょう。ミアさんは俺が手こずった場合にサポートをお願いします」

「うー」


 ミアの声は天井から聞こえてきた。どうやら蜘蛛や蜥蜴の様に天井に張り付いているらしい。


「まずは普通に近づいて、あとは一気に」

「承知」

「うー」


 千影と二人、物影から出ると弘樹は片手を上げ、挨拶を装いながら見張りの二人に近づいた。


佐々木(ささき)隊長? 保管庫に何か用ですか?」

「ああ……ちょっと中が見たくて、ねッ!!」

「ガフッ!?」


 銃から左手を放し、敬礼した見張りの一人に近づき、弘樹は唐突にその顎先を拳で打ち抜いた。

 脳震盪を起こした見張りは白目を剥き膝から崩れ落ちる。千影に目をやると彼女は腕を見張りの首に巻き付け、頸動脈を締め上げていた。

 そちらも、もう一人の見張りに続き意識を失う。

 弘樹はそれを確認すると、自分が気絶させた見張りの服を探り、保管庫の鍵を見つけ出した。


「この二人は部屋の中に連れ込みましょう」


 そう言いながら弘樹は見張りが持っていた手錠で見張りの男を後ろ手に拘束する。


「うむ」


 千影も弘樹に倣い、頷きを返しながら気絶させた男の手に手錠をはめた。

 拘束した男を担ぎ、弘樹が見つけた鍵で扉を開くと、中からは何とも言えない臭いが漂い漏れて来た。


「うっ、なんだこの臭い……」

「うー……」

「これは……」


 臭いに顔を顰めながら見張りの二人を室内に運び込み、扉を閉め、壁際に設置されていた照明だろうスイッチを入れる。

 パッと部屋が明るくなり、臭いの正体が判明した。

 部屋の中には大小様々な金属の檻が置かれ、その中には小型の龍や河童、かまいたちに肉の塊のような謎の妖怪等、多種多様な妖が捕えられていた。


 妖達はそのどれもが憔悴した様子で、全員が体に傷を負っており、簡易な治療は為されてはいたが、巻かれた包帯には血が滲み変色していた。

 臭いはその包帯に染みた血や体液が原因の様だ。

 妖達は迷彩服姿に化けた弘樹達を見て怯えた様子を見せていた。


「酷い……」

「うーむ……檻に妖封じの印が刻まれておるな。恐らくあの男の言っていた研究を行っていた者の仕業じゃろう……どれ」


 千影は自身の妖気で黒鉄の棒を作り出し、一番近い河童の檻に突き入れた。


「な、何する気ッ!?」


 甲高い河童の悲鳴が響く中、檻の上部外枠、丸に星印の印を狙った一撃は、バチッという音と共に弾かれる。


「ぬぅ……かなり強力な封じの様じゃな。もっと妖力を込めれば壊せるじゃろうが、檻の中の妖にも影響が出そうじゃ」

「うーん……そうだ。その印を壊せればいいんですよね?」

「まぁそうなのじゃが、儂では印だけを壊すのは無理じゃぞ」

「任せて下さい」


 弘樹はそういうと周囲を見回し、気絶させた見張りの腰から大振りのナイフを引き抜いた。

 その後、河童の入れられた檻に近づき、千影が指し示した紋様に目を向ける。


「すぐ出して上げますから」

「え? あなた達、あいつらの仲間じゃ……」


 困惑気味の河童に微笑み、弘樹はナイフを紋様に向かって振りかぶる。


「フッ!!」


 河童により大力を得た弘樹の振るったナイフは、鋼鉄の檻に刻まれた丸に五芒星の印の一部を削られ、妖封じの印は力を失った。


「あとは鍵ですね。千影さん、お願いします」

「なるほど、印は妖気を持つ妖の攻撃は弾いても、力を持たぬ人には無力という訳じゃな……弘樹、お主は印を壊して回れ、鍵は儂とミアで破壊しようぞ」

「うーッ!!」

「了解です」


 千影がミアの名を出すと六本腕に蛇の尾を持つ異形の女が保管庫に姿を現した。

 それを見た河童が再度、弘樹に問い掛ける。


「あんたらホントに何なんのよ?」


 檻の中、顔を顰め首を傾げる河童に、弘樹は変化を解いて元の姿に戻った。

 千影も勾玉に願いその身を鬼の姿に変える。


「俺は瀬戸弘樹(せとひろき)現世(うつしよ)に帰る方法を探してる人間ですよ。ただ、ここの人達と違って妖怪の皆さんには色々とお世話になっているので」

「儂は隠千影(なばりちかげ)、この弘樹を現世に送り届けるために付き合っておる鬼じゃ」

「うーッ!!」

「あ、この人はミアさんです。ミアさんも皆さんと同様、ここの人達に捕まってて……」

「……助けてくれるの?」

「ええ、皆で逃げましょう」


 そう言って弘樹は河童に向かって微笑み、檻に刻まれた妖封じの印を壊す為、ナイフを握り締めた。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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