迷彩服とアサルトライフル
六本の腕に大蛇な下半身を持つ女、ミアを加え、弘樹達は柵の奥、廃墟となった療養施設があるという場所を目指し歩を進めた。
ちなみに依り代だという、朱の塗られた楊枝の様な棒も回収しておいた。これでミアが縛られる事は無いだろう。
三人はやがて外の柵と同じく、紙垂と有刺鉄線の巻き付いた金属の柵に行く手を阻まれた。
「どうも、ドーナツ、中央をくり抜く形で柵が作られてたみたいですね」
「ふむ、この先に油取りが言っていた妖しい者どもがおるのかの……しかし、いったいどうやって出入りしているのやら」
「ホントですね。ざっと見ただけですが抜け道は無かったと思うんですが……」
「まぁ、それも先に進めば分かるじゃろう。弘樹、ミア、少し離れておれ」
「了解です。ミアさん、離れましょう」
「うー」
黒鉄の棒を作り出した千影を見て、弘樹はミアの手を引いて前回と同様、木の影に隠れた。
「千影さん、いいですよッ!」
「うむ、ではッ!」
千影は鉄棍を振り下ろし柵を切り裂いた。
「うーッ!?」
その様子を見てミアはギュッと弘樹の手を握りしめる。
「大丈夫、もう終わりましたよ」
「うー……」
いとも容易く自分が封じられた柵を切り裂いた千影に怯えたのか、その後、千影に近づく時もミアは弘樹の背中に隠れ様子を窺っている。
「何じゃ、ミア?」
「一撃で柵を壊した千影さんが怖いみたいですね」
「ふむ……儂の妖力を感じて怯えたか……ミア、儂はお主が弘樹との約束を違えぬ限り、何もするつもりは無い」
「うー?」
恐らく、本当? と尋ねたのだろうミアに「本当じゃ」と千影は返した。
そんなやり取りをしていた三人の耳を破裂音が貫き、千影の足元の地面が弾ける。
「動くなッ!! 動けば撃つ!!」
柵の向こう、少し離れた場所にアサルトライフルを手にした、迷彩戦闘服に防弾チョッキを着た集団が立っていた。
その中央に立つ黒髪短髪で口もとに傷跡のある男が、銃を構えたまま口を開く。
「お前ら何者だ? 姦姦蛇螺の封印を解いて従えるたぁ、並みの妖怪じゃねぇよな?」
「お主らこそ何者じゃ? この奥で一体何をしておる?」
「質問しているのはこっちだぜッ!!」
男は叫びと同時に威嚇の意味で引き金を引いた。
銃弾が千影の横をすり抜け、銃声が森に木霊する。
「ち、千影さん、アレは銃っていう凄く強力な飛び道具です。当たればいくら鬼でも……」
「ふむ、飛び道具か……ミア、弘樹を守れ」
「うー!」
「えっ!? 千影さんッ!?」
「なっ!? 抵抗する気かッ!? クッ、散開して攻撃だッ!!」
「ハッ!!」
男の命令で集団は周囲に散り、弘樹達に向けてライフルを乱射した。
その銃弾が弘樹達を捉える前に、弘樹はミアに抱かれ樹上に逃れ、千影は自身の影に溶け込む様に姿を消した。
次の瞬間には、散開した集団の背後に音もなく現れた千影の分身が、ライフルを持った男の部下に鉄棍を振り下ろす。
「ぐぎゃっ、う、腕がッ!? グガッ!?」
銃を構えていた腕をへし折られた後、頭に棒を突き入れられ、十人程いた男の部下は意識を失い一瞬で戦闘不能状態となっていた。
「馬鹿な……」
その様子を呆然と見ていた男の肩に、背後からそっと黒鉄の棒が据えられる。
「さて、先程の質問に答えてもらおうか。お主らは何者じゃ?」
「……」
「言わぬか……まぁよい」
千影は手にした黒鉄の棒をおもむろに振り上げる。
「待って下さい!」
そんな千影をミアに抱えられた弘樹が止めた。
弘樹はミアに自分を下ろす様に頼み、地面に降りると千影に駆け寄った。
「別に命を取ろうという訳では無い。暫く眠ってもらうだけじゃ」
「分かっています。ただ、その前に話をさせて下さい」
「無駄じゃと思うが……」
そう言いつつも千影は棒を下ろし、弘樹に道を開けた。
男はチラリと千影に目をやり、その手の棒が自分に向けられている事を確認すると、ライフルを投げ捨て、両手を上げながらゆっくりと振り返った。
「……何なんだお前、なんでこんな強力な鬼を用心棒に連れてやがる」
「別に千影さんは用心棒って訳じゃないです……実は俺、生身のまま幽世に迷い込んでしまって……」
「生身のまま……話には聞いた事あるが……そうか、お前、穴の噂を聞いてここに来たんだな?」
「そうですッ! 穴はあるんですかッ!?」
男が穴の話をした事で弘樹は思わず男に詰め寄った。
それを好機と見たのか、男は弘樹の首に腕を回そうと手を伸ばした。
「何ッ!?」
だが、男の腕が弘樹の首を絡め取る前に、弘樹の手が逆に男の腕をつかみ、男の視界はグルリと回転、気が付けば地面に体を叩きつけられていた。
「ぐ……」
「あ、すいません。つい反射で……」
「て、てめぇ……生身の人間じゃねぇのかよ……」
「俺は生身の人間ですよ、ただ、ちょっとばかし拳法をかじってただけです」
「うぅ……ちょっとばかしってレベルじゃ無かったぞ……クソッ」
弘樹に投げ飛ばされた男は身を起こしながら、顔を歪めた。
「で、話を戻しますけど、穴はあるんですか?」
「……」
「うーッ!!」
「グッ……グアアアッ!?」
口をつぐんだ男を睨み、ミアが突然声を上げる。
その直後、男が苦悶の叫びを上げた。
「ガッ、体がッ!! ぐぅうううッ、や、止めてくれッ!!」
「あっ、ミアさん、駄目ですよッ!」
叫びながら地面をゴロゴロと転がる男の姿に、弘樹は先程自分に掛けられた呪いだと気付き、ミアを制止した。
「ミア、一旦、呪を解け」
「うー……」
千影がミアに視線を送ると、彼女は少し不満そうではあったが、男を睨んでいた目を緩めた。
「はぁはぁはぁ……畜生、だから俺は妖怪を番犬にするのは反対だったんだ……」
「番犬のう……ともかく、先程の呪いを再び浴びたくなければ、弘樹の質問に答えよ。穴はあるのか無いのか?」
「……ちッ……ある……今は幹部の博士連中が実験に使ってるぜ」
「博士? 実験?」
博士と聞いた弘樹は改めて男達に目を向けた。
兵隊が着ているカモフラージュされた戦闘服にライフル、最初は軍隊かと思ったがどうやら違うようだ。
軍隊であれば、幹部が博士、つまり科学者というのはおかしいだろう。
「あの……あなた達は一体……?」
「へっ、俺たちゃただ現世に帰りたいって集団だ」
「現世にのう……」
「えっと確認なんですけど、あなた達は死者ですよね?」
「ああ、そうだぜ」
「死者が現世に帰った所で、彷徨う霊になるだけじゃろう?」
弘樹の質問に答えたしゃがみ込んだ男に、千影は棒を突き付けながら尋ねる。
「フンッ、だからこその実験さ」
「実験……お主ら一体何をしておる」
千影が黒鉄の棒を胸に押し当てると、男は分かった分かったと両手を上げた。
お読み頂きありがとうございます。
面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。




