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幽世放浪記  作者: 田中
異形の女と異界への穴
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新たな仲間

 天幕に戻った弘樹(ひろき)が出会った異形の女の姿、六本の腕を持っており下半身が蛇、というのを伝えると、千影(ちかげ)はうーむと首をひねった。


「さような(あやかし)に心当たりは無いのう……それもぽーの様な新参の妖怪やもしれぬな」

「ネットの掲示板出身の妖怪って事ですね」

「恐らくな……弘樹、あの柵を超え奥に進む気に変わりはないか?」

「はい」

「……分かった。ではもうひと眠りするとしようぞ。明日は恐らく、その妖ともなんぞありそうじゃしな」

「……分かりました」


 再び千影と一緒に毛皮に潜り込み、寄り添って眠る。

 目が冴えて眠れないかとも思ったが、焚火の熱と千影の体温ですぐに弘樹の意識は眠りに落ちた。


 翌日、保存食で軽い朝食を終えた後、天幕を葛籠(つづら)に仕舞い、柵の中心、療養施設があるだろう場所を目指し出発する。


「まずはこの柵をどうにかせねばの。弘樹、少し離れておれ」

「了解です」


 千影が自らの妖気で黒鉄の棒を作り出したのを見た弘樹は、小走りで木の裏に逃げ込んだ。


「……フンッ!!」


 気合一閃、上段から打ち下ろされた黒光りする棒が、金属の柵に絡み付いた有刺鉄線や紙垂を巻き込み両断する。


「よし、開いたぞ弘樹!」

「凄いですね。その棒」

「フフッ、大昔にはこの棍で主様の敵をバッタバッタと……昔の話はせずともよいな……行こうか」

「……そうですね」


 なぜだか千影は昔の話をしたくないようだ。

 そういえばこの前も油取りが彼女の正体を語ろうとした時、止めていた。

 いつか話して貰えるだろうか。


 そんな事を考えながら弘樹は千影が開けた柵の隙間を通り、中へと足を踏み入れた。

 それまでも柵からは神聖な物のような、禍々しい物のような、腹の奥から不安がこみ上げる感覚はあったが、内部に侵入するとその

感覚はより顕著になった。


「……やはり()めるか?」


 顔を青ざめさせた弘樹を見て千影が問う。


「……いえ、行きます」


 もしかしたらこの感覚こそが人払いの結界の効果なのかもしれない。

 そう思う事でこみ上げる不安を振り払い、弘樹は千影と共に柵の奥に続く暗い森へと歩を進めた。


 やがて二人は六本の木に注連縄(しめなわ)が巻かれた場所に辿り着いた。

 その中心には賽銭箱に似た箱が置かれている。


「……ふむ、なんぞ良くないモノをここに鎮め封じておるようじゃな」

「封じてる? 俺が会った妖の女の人を封じてるんでしょうか?」

「うーむ……この奥に行って欲しくない者が強力な妖に門番をさせている?」

「門番ですか……千影さん、これ、壊しちゃ駄目ですかねぇ?」

「何? 封じを解けば妖は自由を得て暴れるやもしれんぞ?」

「でも、ここに閉じ込められている訳でしょう?」


 そう言った弘樹は、昨晩会った異形の女の事を思い出していた。

 無言で自分を見つめ、干し肉を食べていた女の目は暗く、何の感情も浮かべてはいなかった。

 土地に縛られ身動きが取れない。それは辛く苦しい事では無いだろうか。


「……ふぅ……分かった。封印を解くとしようぞ。じゃが言うた通り、鎮め封じておるという事は、解けば怒り狂うやもしれぬ」

「そうかもしれないですが、怒った人を封じ込めて、こんな場所に縛り付けておくのはどうにもスッキリしません。怒るって事は何かされたんでしょうし、それを封殺するのはちょっと……」


 世に理不尽な事は溢れている。弘樹が経験した不良たちの報復もそうだ。

 あの時は友人が怪我をした事で、警察に任せ自分でそれ以上、何かする事は控えたし、暴力が生み出すのは負の連鎖だとも分かっている。

 しかし、酷い目に遭って黙った時、こころに溜まる何か、それは怒りであり、憎しみである事も理解している。


「ここに封じられているあの人は、ちゃんと相手に言うべきです。じゃないとモヤモヤは消えない」

「……そうかもしれぬな」


 千影もこの世界、幽世に祟り神を祀る塚が幾つもある事は知っていた。

 祟りとは怒りや憤りで、その感情の源は理不尽な行いである事が殆どだ。

 箱を見下ろし思う、この箱によって封じられた者も、恐らくはそんな行いの犠牲者なのだろうと千影は考えた。


「弘樹、封を解き出て来たモノはお主が諭し導け。恐らく、お主なら出来る筈じゃ」

「……頑張ります」

「うむ、心配せずとも儂も手を貸す。二人でならどうとでもなるじゃろう。ではまず注連縄(しめなわ)を解くとしようぞ」

「はいッ!」


 二人は注連縄を外し、次に箱を調べる。

 箱は側面の一部が外れる様になっており、中には液体の入った壺が四つ、四隅に置かれていた。

 中央には端に朱の塗られた赤い楊枝の様な物が置かれている。


「ふむ、神に供えた酒で存在を模した依り代を封じ、本体をこの地に縛っておるようじゃの」

「じゃあ、周りのお酒を外せば?」

「恐らく姿を見せるじゃろう」


 千影の言葉を聞いた弘樹は箱の前にしゃがみ込み、慎重に箱から酒を取り出した。

 ガサガサガサ、そんな音が頭上から鳴り響き、箱をはさむ形で対面に異形の女が舞い降りる。

 女は何も言わず、弘樹をじっと見つめた。


「えっと……あなたを縛っていたのはここから先にいる人ですか?」


 女は弘樹の言葉に無言で頷く。


「じゃあ、俺達と一緒にその人に文句を言いに行きましょうか?」


 それにも女は無言で頷きを返した。


「あ、文句はいいですけど、殺したりするのは無しでお願いします」

「うー……」

「どうやら気に入らんようじゃな」

「気に入らないって言われても、誰かを殺すのは俺的にNGです」

「なんじゃ、えぬじいとは?」

「絶対駄目って事です」


 さようか、そう言って苦笑を浮かべた千影は異形の女をみやり、絶対駄目じゃそうじゃと肩を竦めた。


「うー……」


 牙を剥き唸り声を上げた女に弘樹は「駄目ですッ!」とピシャリと言い放つ。


「うーッ!!」


 そんな弘樹を女は声を上げ睨みつける。


「グッ!?」

「フンッ!!」

「うーッ!?」


 一瞬、弘樹の体を激しい痛みが襲ったが、千影が何かを断ち切る様に黒鉄の棒を振るうと、その痛みは一瞬で消えた。


「ふぅ……なんだ今の……」

「呪いじゃ。こやつは他者を呪い殺せる程、身の内に呪力を溜め込んでいるようじゃ」

「呪いですか…………」


 呪い、呪詛……そんな物を溜め込んでいるという事は、やはりこの異形の女は心の内に強い怒りを抱いているのだろう。だが。


「やっぱり人殺しは容認出来ません。言う事を聞かないなら、お酒を戻してまたここから動けない様にしますよ」

「うー……」


 女は不満そうに唸り声を上げ、牙を剥いたが弘樹は駄目ですと取り合わなかった。

 しばらくにらみ合いが続いたが、呪いはことごとく千影に弾かれ、最終的に女は折れて、弘樹は誰かを害する事はしないと約束させた。


「ぬぅ……やはり弘樹は主様の血を引いておるのかものう。あの方も妖に対して怯え一つ見せぬ方じゃった」

「そうですか? 道場で先輩に揉まれたからかなぁ……それじゃあ、えっと、名前が無いと呼びにくいですね」

「フフ、優子に倣ってうーちゃんとでも呼ぶか?」

「それはちょっと……」

「うーッ!!」

「ほら、この人も嫌だって……そうですねぇ……」


 六本の腕に蛇の下半身……六本腕といえば阿修羅だけど、あーちゃんは関西じゃ確かアホの子って意味だったと思うし……。


 考え込んだ弘樹を女はじっと見つめている。


 うぅ、なんだか期待されてる気がする……蛇……駄目だ、ラミアしか出て来ない。


「えっと……じゃあ、ミアさんでどうでしょうか?」

「ミア? どこから出たのじゃ?」

「ま、まぁ、それはいいじゃないですか。で、どうです? ミアさんで?」

「うーッ!!」


 女は弘樹の命名を気に入ったのか、蛇の尻尾の先をバシバシと地面に打ち付けながら、うんうんと頷いた。


「いいみたいですね」

「じゃのう……ではミア、共に行くとしようぞ」

「うーッ!!」


 こうして弘樹達は新たに異形の女、ミアを加え、柵の中心を目指す事となった。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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