この辺りで設備を整えよう2
エリーカが叱られているのをいいことに、立体縮尺図をヨルムンガンドがいじり出す。おいおいくれぐれも丁重に頼むぞ? 怒ってるエリアナは怖いんだぞ。ヨルムンガンドはさっさっさっと城の規模を変えていく。ヨルムンガンドの拠点である『紅宮』は、ほとんど一階建ての平たい建物が山の傾斜に合わせて下って行く感じだ。上から見た形は六角形の塀が二重で構えられ、中には水堀が引かれている構えの固い山城である。風合いは奇抜な色柄から貴族の屋敷のようにも見えなくもないが、今回弄ったおかげで全体に二階建てに、一部三階建てになっている。また、城の地下を5階層掘り抜き、迷宮としての入口は山の横を通る渓流の河原から。ちなみに、爆走魔道列車の駅はまた別の所にくっついている。
そこまでをエリーカが叱られている間にササっと行う手際の良さ。これは凄いな。
エリアナの袖を引くのはジオゼルグ。エリアナも溜息を吐きながら無茶な改造でなければ。……と許可を出す。ジオゼルグが作ったのは何やら複雑な傾斜のある筒? また、オアシスの中心を丸ごと一階層沈め、上部は吹き抜けだ。そこに先ほどの筒状の何かを伸ばしていく。トンネル? 『水滑り台』とのこと。ジオゼルグは周辺の防衛施設は美観を崩すので嫌がる。リゾートパーク型の護る気があるのかないのか解らない迷宮を完成と言う。迷宮核はどこにあるのか解らない。そうだよね。当然だ。
「へ~。ジオちゃんの所は面白そうね」
「うん。ジオの所はジオが楽しむための迷宮だから。戦うのは外。別に迷宮は必ず戦わないといけないことはない。楽しければなんでもいい」
ジオゼルグらしい考え方だ。それを聞いて考えたのか、スルトも豊穣の迷宮の一階層の部分を拡大表示し、未だ広大で使われていない区画へ木造の平屋の建物を……でっか。それでも地形をいじる訳ではないおかげでポイントは全然減らない。回復するポイントの方が高いくらいだ。
スルトは今度は施設設置の魔素板を滑らせ、中からよくわからない物を選択。岩? 岩を器用に設置し、かなり広く歪んだ円状に設置。さらに中心に大岩を置いて、その岩と地面を融合して改造。温泉か……。さすがスルトだな。全然ポイントを使わずにスルスルとそれなりの施設を建設している。エリアナもこれには驚いていた。
スルト曰く、『水源の迷宮』のリゾートスパに行っても人数が多すぎるので、こっちにも欲しかったとのこと。こちらはドワーフや獣人族が鉱山での採掘や鍛冶、畑仕事をするので風呂の需要は以前から大きかったという。スルトも近くに風呂がある方が嬉しいんだろうな。自分でもなかなかいい感じにできたおかげで尻尾をゆっくり振っている。これは『なでなでプリーズ』の合図。なのでなでなで。スルトは嬉しそうに目を細める。……最近恒例なのだが、帽子を抱えてヨルムンガンドとジオゼルグが並ぶ。いつもならエリーカも並ぼうとするが、今は正座タイムであるので無理なようだ。諦めろ。
「スルちゃんはこういうの上手よね~」
「うんむ。パパ直伝。細かい作業は得意」
教えたことはないと思うけど頷いておいた。
で、僕は気になったので先に聞いた。怒られたくはないので。施設移動は一回当たりのポイントが決まっている。それが距離換算なのか、サイズ換算なのかだ。エリアナからの答えで僕は満面の笑み。施設移動のポイントはかなり低い。僕はいろいろ面倒臭い移動を省略するため、一つの案を決行。実は移動のコマンドの中には『複製』というコマンドがある。一つの施設あたりの複製回数には上限があるようなのだが、僕はグランデール跡地に僕の『黒鋼の森』にあるオリハルコンの大樹をコピーしてストン。複製もポイントは移動と同じらしく全然かからない。さらに、元々『黒の森』だった場所から、ファンテール王城跡地へ僕のオリハルコンの大樹を移動。『黒鋼の森』をズームアップしたら、『オリハルコンの木の芽』と表示されるポップが出現。これは予想外だけど……。
皆驚いたけど、これでいろいろ便利になるぞ。
実はオリハルコンの大樹には魔物避けの結界が張られていることが既に分かっていた。それとまだ僕にはいろいろと調べてみたいことが残っているので、もう一つやりたいことがあるんだよね。これもできるかは解らないし、ポイントが高いならエリアナの許可は必須の事項。僕の領域に取り込まれたので、ファンテール王城を僕がいじる許可が出た。その詳細を表示。
「う、嘘……。え? こんな事できるの?」
「できるみたいだね~……。実験でやっただけなんだけど、驚く程上手く行ったよ……。エリアナ、ちょっとお高めだけどいい?」
「うん。私も綺麗な状態のお城に行ってみたいし」
「おっけ。じゃ、修復っと……やっぱり修復は規模依存みたいだね。他の壊滅した領地の領主館とかもできるけど、十数ポイントしか使わない。対して王城は数十万。この差は施設の重要度と緻密さなんだと思う。やっといろいろ調べられる」
「何を調べるの?」
「それはお楽しみ。もしかしたらってだけだから」
僕が遊んでポイントを使っても回復しているので、そのままイオの拠点製作に入る。基本はイオの意志や好みによって変わるのだけど、イオが地下に伸びている迷宮をズームアップ。なかなかファンシーな迷宮だった。お菓子の迷宮?
とりあえず内部を拡張するのと地上面に小さい丘を作り、スルトの縄張りギリギリに入口を設置。力技で丘を吹き飛ばさない限りは入るの無理だよね? それが目的らしい。ドヤ顔……。クールキャラのドヤ顔ってなんか面白い。そのまま内部。イオの話では鬼族の全員を一度シェイドの眷属として譲渡し、イオは虫系統の魔族を眷属化する。根本が魔物で継代的に魔人の形質を繋いだせいか、こういう所には対応しているんだね。便利なのか不便なのか……。
鬼族も虫魔族も位階の上昇が確認され、外観が大きく変わる。この辺も迷宮の機能なんだろう。迷宮の位階が上がると僕らの位階が上がるように、所属している主や拠点の強化によって眷属の強さも変わるようだ。ただ、なんでもかんでも眷属にはできないらしい。その主にある何らかの指向性と共通点などを汲んで変化を及ぼすらしく、他がいろいろ眷属化を試したけどほとんど無理だった。……ちなみにすぐ解除したけど、出来心でツェーヴェを僕の眷属にしてみたらできちゃった。直ぐに解除したけどね? また、エリアナが獣人族が可能。タケミカヅチは古龍以外なら眷属化可能。
「やはり興味深いですね~。私も獣人さん達を眷属化はできるんですね。でも人数の限界値が低いです。エリアナでも10人ですもんね」
「その辺りは力の問題かと。眷属の人数はその者の位階と実力が関係しているようですから。これも一種の甲斐性なのでしょう」
「ハーマさん、その含みのある言い方はやめてください」
「はて? 何のことやら」
はぁ~。まぁいいですよ。あくまでイオの拠点は防衛や攻撃ではなく居住拠点なので、それ程規模は上げなくていい。その点をイオも解っているようで、爆走魔道列車の駅を設置して改造は終わった。エリーカがやらかしたこと以外はとりあえず問題なし。かなり高くなったからな~。センテン高地……。あれ高くなりすぎて不便な気がするのは僕だけなんだろうか?
それから各人は拠点へ帰還。僕も『王祖の迷宮』の第六階層にできた貴族風の『ザ・お屋敷』って感じの庭付きコの字型の大邸宅の目の前まで来た。毎日ここにいる訳ではないけど、全員の私室を用意するとなるとやっぱこういうサイズ感になるんだね。正面入り口には金ぴかに光るリビングアーマー?が敬礼して門を開けてくれる。……リビングメイルっていう上位種らしい。
中は薔薇園だ。いろんな色があってかなり高めに垣根ができているのは、エリアナのプライベートテラスをここに移したからだろう。反対側にはブランコ付きの小さなオリハルコンの木が生えている……? なんで作ったエリアナが首をかしげてるの? 疑問は流したらしく、入口にも居るリビングメイルが入口の大扉を開けてくれた。
中には? 小さな5歳くらいの双子が居る。両方とも女の子だろうけど、片方がメイド服、片方が執事服だ。その後ろからファンテール王城に憑いていたシルキーの代表エルンが来て……。双子をなでる。
「お帰りなさいませ。旦那様。奥様方。新邸宅へようこそ」
「「父上様、お帰りなさいませ」」
「はい?」
僕の疑問を完全にスルーしてエルンが説明を求めたセリアナさんに答えている。どうも僕のミスでまた妻を増やしたらしい。家妖精系統は普通は家に憑く思念から生まれるので、有機生物の繁殖のような増え方はできないのだけど……。それを可能にしてしまったのが僕の樹と氣。
ファンテール王城から離れたと言ってもエルンの本体は城だ。崩壊してもエルンが消えなかったのは地下の宝物庫だけは残ったから。完全に壊れてたらヤバかったらしい。その城をイレギュラーな方法で僕は再建した。そう、修復したんだよ。その時に僕が『黒鋼の森』のオリハルコンの大樹を取り除かずに再建してしまった。これが原因。僕の因子が詰まった大樹を取り込んでファンテール王城が復活した。その時、エルンにも僕の因子である氣が彼女に大量に流れ込んだ。それこそはちきれんばかりに……。結果、溢れた分を新たな存在として切り離した。それがこの子達。僕とエルンの因子が混ざった位階が高い、まだそんな存在が確認されていない新たな上級種の誕生だ。ちなみに、エルンも同じ位階に登っている。
セリアナさんや訳が解っていないメンバーは、素直に片手を頬に当て顔を染めるエルンを祝福しているが、そういう事に詳しいメンバーは亜然。ようはこの世界に無い前例を作ってしまったのだ。ハイエルフのカレッサや古龍のメリア、ジュネ、コスモなどがわかり易く狼狽し、僕に慌てて詰め寄って来る。……できてしまった物は仕方ないので、責任はとるよ? 妻も子供も。僕の心中など露知らず、クラシックメイドスタイルのスカートを揺すり恥じらうエルン。こんなに表情豊かだったか? まぁいいや。僕より少し小さい程度の双子に纏わりつかれ、僕は僕で大変なんだよ。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後140日~145日
主人 エリアナ・ファンテール
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~省略~
取得スキル
~省略~
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