南方の少数民族問題
作戦終了の後から一夜明け、タケミカヅチと念話魔法を繋ぎ、アポを取った。その流れでイオとエリアナを交えて今回取り入れることになる『暗夜の森』とアルジャレド通商連合国とその周辺国の国との関係を見ていくことにした。
その上で問題になったのが、他の龍族に頼んで運んでもらったとある少数民族の代表だった。
その少数民族というのが、いわば土地なしの魔人だ。この場合は魔族とでもいうのかな? 魔人は魔物より突発的に変化した存在である。でも、今回の種族は皆継代的に血筋を受け継ぎ、変異が見られない安定した種族だからだ。また、何故魔族と呼ぼうと考えたかというと、魔法適正の高い彼らだが、魔素の薄い地域でも普通に生活できたのである。もう広い意味での人間種と考えていいと僕は思った。
その代表者の種族が数がとても多かった鬼族派閥。こちらは種族は雑多で虫の特徴を体に持ち、人間と同等の知性を持つ存在だ。基本はこの二種族。
暴走の対処後にイオが異常な密集を確認し、保護したのが彼らになる。今は『暗夜の森』に作った仮の迷宮に収容して保護。イオも意向としては保護したいが、その判断は僕やエリアナに任せると言っている。その際にアルジャレドとの関係も含めて話しておきたかったのだ。彼らはベルトールさんのことを知っていたようだし。
「なんと……すまない。君達まで我々の私事に巻き込んでしまって……。この通りだ」
「そ、そんな。ベルトール様には何にも悪いとこはねーだよ」
「んだんだ。おいらー知ってるぞー!」
「おいも……大旦那はええ人。おいらみたいな人モドキを保護してくれたんは、大旦那の爺様からだけだでん」
「はい。それにベルトール様も今回は被害者の側ですゆえ。我々は今まで通りにお付き合いさせていただきとうございます」
ベルトールさんの所には長男の次代風龍代表が居て、その下に次男と三人の弟、長女は既に別の龍に嫁いでおり、今回ニンニルがタケミカヅチに嫁いだ。残り三人の娘がいるがまだまだ子供で結婚とかそういう話はではない。早くとも500年はかかる。三つ子の300歳だと言うので……。
ことの始まりはアルジャレドの商売相手の連続した滅亡にある。
まずはファンテール王国である。ファンテール王国は岩塩鉱床が無く、内陸国である故に塩をアルジャレドから購入していた。鉱産資源なども最近では産出量が低迷していたので、いいカモだったのだろう。相場より多少高くとも買うからだ。必需品だけあり、値切ることも難しかったんだろうね。完全に首根っこを掴まれている感じだから。
その次が最近に滅亡したグランデール獣人国。その領地は周辺の森林が枯死し、不吉なことが連続したことにより新規移入も見込めず完全に忌地扱い。土地として強奪できるか考えた時もあったようだが、あそこは森林資源を除いては特にめぼしい資源もない。しかもラザークに繋がる意外は隣国もなく、大きく商売を拡げるには初期投資がかかり過ぎる。そんな場所を占拠してもコストばかりかかってしかたないとのことだろう。まぁ、口でならなんとでも言えるからあそこはもう『うちの土地』と周辺国に言い張っているらしいが。
「そういえばクロ君、あそこは使っているのかい?」
「はい。あそこは欲しいと言われたのでシェイドを送り込んであります。シェイドは探索や森林内での探知が得意で、隣にある二か所の小規模な魔境を意欲的に飲み込んでますよ」
「ははは……。小規模でも魔境の奪取は難しいんだけどね……。まぁ、君の眷属だからいけるだろう。そうなるといつか連中と事を構えることになりそうだけど、どうするの?」
ベルトールさんの言う『あそこと』はグランデール獣人国の跡地だ。最初はセラやケイラに返すと言ったんだけど……。きっぱりと『要らん』、『要らない』と完全拒否。この王祖の迷宮でのんびりする方がいいとのこと。
なので聞いてみたら結構意欲的に欲しがったシェイドに譲渡。シェイドはかなり意欲的な性格であるのは先ほども言った。小規模な魔境程度だと特に強敵も居ないのか、グランデール城を根城にして既に半分近くを奪取しているという。
これは余談だけど、一緒に生まれた兄弟のアポロンはファンテールの西南西のかなり奥地にある荒野を欲しがっている。まだあそこまで行くには時間がかかりそうだけどね。
それでベルトールさんの言う連中とはアルジャレド通商連合国のことだ。
そのアルジャレド通商連合国と僕らが意欲的にことを構えることはない。ベルトールさんにはこれまでと同じようにタケミカヅチと協力してもらう。エリアナ女王国の周辺哨戒や、僕の『黒鋼の森』の拡張具合を観察してもらう事にしている。かなりの数の風龍がこっちに来ているので、哨戒部隊は凄く豪華だ。小柄で体重の軽いことで戦闘力は他の龍族に劣る風龍だけど、飛行速度と継続飛行時間は段違いだから。凄く助かっている。
「君のように力を持ってもそれを振りかざさない強者こそ、本物の強者なのかもしれないね」
「いえいえ、僕なんて本当に新参の若造ですよ。ベルトールさんのように深謀遠慮は深くないです。アースさんのように居るだけで重石に成れるような重みもなく、ヴォルカニアスさんのように睨みつければ切れそうな威厳もない。……まだまだ僕は未熟です」
「くくく。そうかい……。それじゃ僕ももっと頑張らないといけないね」
「ははは。では、あっちの様子も気になるのでそろそろお暇しますね」
「また来てくれると嬉しいよ」
ベルトールさんとの連絡相談を終わらせ、各族の族長にも安心してもらいたいので、イオの拠点もそうそうに強化したい。イオが主となった『暗夜の森』は深く大きい。それに隣接するようにエルフの国がある『大森林』という魔境が隣接している。あそこが空きテナントなら誰かしら主を入れたいんだけど、今のところ相性のよさそうな子がいない。次に孵る卵で考えればいいとは思うが、何が理由で孵るのか僕にも解らないからね。
今は現状維持だ。無理だけはしないようにベルトールさんにも任務は継続してもらうし。飛行速度では最速のタケミカヅチが、アルジャレドと険悪な四つの国も様子見してくれると言う。あちらは魔境が少ない人種の統治する場所だ。こちらから無理に手を出す気はない。
……試案しているとイオの仮拠点に到着。エリアナに頼んで数名の迷宮主や魔境の主を呼んでもらう。エリアナの眷属になっている『魔人衆』だ。知恵を出してもらうことと副主人登録を行い、設置、改造、回収の権限解放と知識の共有を行う。迷宮の拡張は迷宮主や迷宮に関係する者の知識により大きく変わるので。
イオの希望で目立たない方がいいと言うので、地上部は隠蔽を行った上で地下の迷宮となる。食料に関してはここでの生産は無し。ここからは建築や軽工業の働き手を出すことで話がまとまった。虫系の魔族の中には自身が糸を出せる者も居るのでそういう者はイオと相談し、活用していくことを念頭にする。魔族は少数民族であるが故に人族に圧し負けていた。だが、個の力としては明らかに上回っている者が多かった。例外的な種族も居るので、彼らの保護と魔物、魔獣との区別をすることが急務となるだろう。
「そうですね。かなり柔らかい印象ですし、ちゃんと話せれば解ってもらえるんでしょうけど……」
「おいらー、魔物と間違えられるんだー」
「そいや、おいらは魔物と違うんじゃー」
彼ら自身は解っているんだ。いるんだけども……。周りが見た時の判断と彼ら自身の主張とでは食い違うことは多いと思う。人でも魔物でも外見から判断する種族は多い。魔物や魔獣の中には外観を似せて油断させていると思える程そっくりな物も居る。人魚族とセイレーンや鳥人とハーピーとかね。
呼び方にしても今はそれに似ているからそれを引用しているけれど、ちゃんと変えていかなくてはならない。彼らは魔物のように知性の無い存在ではなく、ちゃんと考える力を持つ。その尊厳と誇りは守らねばならないからね。エリアナもそれには頷いてくれる。しばらくは周知することに務め、彼らの種族的な長所と短所を見て行かねばならない。それと並行して……。
あ、良い場所があるじゃないか。
僕の反応に気づいた面々が訪ねて来たので、僕の縄張り『黒鋼の森』で一部の作業を頼もうかと思う。あそこは魔人か龍族、もしくは彼らくらいの力がある種族でなければまだ危険だ。戦闘力という面では大鬼族や牛頭族、馬頭族ならばたいした問題にはならない。……中心のオリハルコンの大樹から離れすぎなければ。中心部は魔人が生きられる程度の魔素しかなく、かなり薄まっている。魔素があろうがなかろうが生きられる魔族の皆ならばあそこで食料生産もできるし、あそこの開拓もできる。
もちろんこの場所の防衛もお願いしたいので、最初のスタンスは外さない。あくまで彼らの所属は『暗夜の森』で、その出張先として『黒鋼の森』が選択肢としてあるだけ。種族によっては紅宮に言って調剤に役立てるかもしれない。乾燥に強い種族が居るならジオゼルグの縄張りに行くのもあり。環境や産業的に『水源の迷宮』はきついな。ゲンブに話を通せば『蛇神神殿の迷宮』も可だろう。それに僕としては少し分配してもらってシェイドの管理しているグランデール跡地にも居て欲しい。さすがに一体では手が足りない。彼の手足は必要だ。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後135日~140日
主人 エリアナ・ファンテール
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~省略~
取得スキル
~省略~
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