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人間側の事情

 リリアさんからエリアナの境遇を聞いた。

 エリアナはこの『魔の森』や周辺の『魔素溜まり』を総称した魔境などを、いくつも有する一大国家の公爵家に生まれた公爵令嬢。この辺りまではステータス画面でも判ることだ。問題はこの後。エリアナのお母上という人が前王の娘で、第三王女だったらしい。つまり、エリアナはお隣さんというかここを領有する『ファンテール王国』の王族に連なる血筋なのだという。まぁ、公爵令嬢だし。また、エリアナは第一夫人ながら体が弱く、子宝に恵まれなかったお母上と現公爵の間に生まれた唯一の娘。それも五女。現公爵には3人の息子と、6人の娘がいる。

 エリアナが生まれるまでは上の兄達、特に長男が家を継ぐ事を確実視されていたのだが、エリアナが生まれたことでその優位が揺らいだ。そこからはいろいろな権力闘争で、エリアナの周囲が危うくなり、エリアナを公爵が領有している辺境に逃がす処置がとられたとのこと。

 ほとんど追放じゃないか……。人間は本当にめんどくさい生き物だね。ただ、お父上、公爵はエリアナを生かす事を最後まであきらめていなかったのが救いか……。


「いえ、その辺りにも政略的な思惑がありまして。そもそも、私がエリアナ様の侍女になったのもその思惑に端を発しております」

「やっぱりか~……。な~んかきな臭いと思ったのよ」

(エリアナも大変だったんだね)


 エリアナの髪や目の特徴は王家の祖、王祖の髪色と瞳らしい。王祖はその極み立った魔法力で魔境を切り拓き、この大きな国を建国。しかし、何代か過ぎると、そのプラチナブロンドの髪色で金目の王族は現れにくくなっていった。エリアナのお母上も金髪碧眼の美人であることには変わりないのだが、まさか公爵家に『王祖』が生まれたとなれば話が変わる。宮廷のパワーバランスが一気に急転する程だし、エリアナをしっかりと魔導士として育て上げれば、巨大戦力の誕生という目論見があったのだろう。

 ここまでをリリアさんが説明してくれた。

 ツェーヴェも僕も口の中になんとも言えない苦みを感じ、お茶を飲み下した。リリアさんは必死にエリアナが周囲から虐められないように手を回し、何とかこれまでエリアナに危害は起きなかった。それでも、これ以上はどうにもならないと、公爵の思惑に乗り、信用できる数名で辺境に来た途端に盗賊に襲撃を受けた。おそらく、これはエリアナを嫌う兄弟姉妹からの攻撃だとリリアさんが言う。リリアさんが綿密に汲んでいたプランに、いきなり盗賊の横やりは難しい。誰かが情報を漏らし、狙われやすいあのタイミングをピンポイントで狙われたのだ。


「情報が無いのでどうなったのかはわかりませんが、現在のガハルト公爵家は大荒れでしょうね」

「胸糞悪い話ね。これだから頭の悪い人間は困るわ~」

(ツェーヴェ、街にはエリアナも連れて行く方がいいかな? 連れてくなら僕がエリアナの周囲を守るけど)

「え? もしかして例のアレができたの?! 見せて見せて!!」


 それよりもリリアさんのお話を聞いてからね?

 リリアさんに聞くと、ここの『魔の森』を含めた一帯を治めているのが、ガハルト公爵家。エリアナ様が公爵家との離縁を宣言しており、お母上様の前姓ファンテールを名乗っている。だから、街に行くのはできるだけさけるか……。リリアさんは僕を見た。そして、ツェーヴェにも視線を飛ばした。

 うん。人間がどれだけ来ても瞬殺できる。無力化でもいいけどね。そのために、エリアナが寝静まった後に自分の武器を作る研究をしていたのだ。僕の身体能力を生かして、『本能』の中からこちらの世界の知識と合わせて作ったのが、『銃』だ。しかも、マスケットライフルなんて古典的な物じゃない。森で見つけた植物魔物性の硬化樹脂や、銀を製錬していたら少しずつ混ざっていたミスリルを取り出して鋳造、整形、組み上げ……。僕が『本能』の中に持っていたそれを完成させて、僕の部屋に飾ってある。


「あれができたんなら、人間なんて目じゃないんじゃない? 貴方の鍛冶レベルと魔道具の仕様レベルおかしいもの。どうせ作った武器をアレンジして、魔道具化するのは忘れてないのよね?」

(当たり前だよ。僕の傑作集なんだから)

「ふ、複数作ったの?」

(そりゃ、人間サイズならミスリルが足りなかっただろうけど、所詮は僕のサイズだから)


 身長6㎝ですからね。極少量のミスリルでもなんとかなりましたとも。どやッ……!

 実はツェーヴェに言われて、ツェーヴェ用の長杖(オーバースタッフ)を作っていたのだ。さすがに1人ではこの大獲物を作るのは難しく。エリアナにダンジョンの機能を僕に一部分だけアクティベートしてもらい、創り上げた。銘は『蛟』。たまたまツェーヴェの縄張りの外郭にエルダートレントが居たので、狩って素材にしました。基本素材はエルダートレント。リリアさん曰く、これだけでも相当高価な杖だと言われたけど、僕の職人魂がここで終わってはいけないと叫んでいた。

 結局、ツェーヴェが収集していたミスリルと、僕が岩塩鉱床の近くで新たに見つけた少量のミスリル鉱脈から集めて製錬したミスリルで、エルダートレントの魔木をベースに2体の蛇が絡み合う飾りを組み込んである。ミスリルは魔力の伝達力を高める効果があり、魔導士垂涎の素材。最後に蛇姿のツェーヴェをモデルにしたミスリル製の飾りを頭頂部に付けて完成。一般モデルの長杖(ロングスタッフよりも長く、頭頂部に重心があるため、近接戦にもたけている仕様。ツェーヴェが近接戦をするかは未知数。


「これも大概おかしいのですけども……クロさんの存在が何なのか本当に気になります」

「そうよね~。普通の鍛冶師じゃこんな錬成術式と精緻な加工。これらの同時処理はできない物ね。それよりも、私はこっちの方が気になるわ」


 ツェーヴェが気にしているのは僕の装備一式。

 今回、これだけの物を作れたのは森の探索中にそれだけの魔物を討伐できたことも大きいけれど、それだけ良質な素材に出会えた事も一因なんだよね。それに発案者がツェーヴェとあって、今回に関してはツェーヴェもかなり協力的だった。普通ならのらりくらりと躱されてしまうのだけれど、魔物討伐にはツェーヴェの力が加わり凄く助かったんだ。

 今回僕は全身の装備を揃えた。

 いろいろな書籍を読んだけど、僕は人間の体格をしていないからいろいろ自作する必要を感じたからだ。まずは防具兼外出着。人間では『外套』と言うのかな? 目深に用意したフードと、足のギリギリまでの長さがある。トレントの樹皮から採取した繊維を織り上げ、対魔法防御を基軸に余ったミスリル紛を錬金術で塗布。これで防御面は完璧。それから、長い目で見て使いたいからね。付与(エンチャント)で大きさが変わる術式を施してある。これもすべてツェーヴェが本を大量に収集していた賜物だ。


「いえいえ、……それでも普通はできませんから。まず、スキルと言う物は生まれつき大抵一つです。今のお話だけでクロさんは4つは持ってます。それだけで器が違いますから」

「……それなら私も3つはあるわね。けど、クロ程のレアスキルというわけではないから、その気持ちはわかるわ」


 2人の言葉は聞き流してます。はい……。

 この外套、なんか、『童話に出てくるネズミが雨合羽着てるみたいで可愛いっ!』と言われて凄く不満なんだよね。ちなみに、その発言はエリアナからです。さっきからエリアナも興味深げに僕の装備をいじってるし。外套の次は大きな背嚢(リュック)かな? 何を入れるかは今後次第だけど、これも魔法の鞄です。大きさも変わるよ。僕にしか使えないようにしてあるけど。

 ここからは武器になる。今回は何度も失敗した。

 筒状の金属棒の中を火薬で高速の金属を飛ばす武器。『本能』の中に出てくる物と、この世界の書籍で出てくる物では大きな差があって、思ったような性能がでなかった。今回ばかりはエリアナの全面協力があったことが、この傑作集の製作に大きく貢献してくれている。

 迷宮主のみが使える、『創造』という迷宮内限定スキルがある。そのスキルで説明した通りの物を、何百回組み立て手は失敗しを繰り返したんだよ。普通の職人がやったら数十年とかの単位だと思う。技術習得から、それを寸分たがわず作れるようになるまでの時間も省略できたのは、間違いなくエリアナの功績だ。


「それで、これが『銃』ですか?」

「そうみたいね。付与もされてるから正確には『魔法銃』ってカテゴリーに入ると思うけれど」

(正解。これは僕の『本能』に出てくる物を何度も試行錯誤して作った傑作中の傑作。いや~、時間かかったけど、いい仕事したよ)


 今回これらを用意したのは、エリアナも街に連れて行くからだ。

 本来ならエリアナは迷宮を出ない方が安全なんだけれども、リリアさんは1人にできないと言っていた。そこで、僕とエリアナでお留守番しようとしたら、滅多に出ないエリアナのわがままが出たのだ。しかも結構食い下がり、ツェーヴェとリリアさんが折れた。でもリリアさんとエリアナの2人を魔導士のツェーヴェ1人で護衛させると大変になる。だから、僕がエリアナの鞄にくっついていき、有事の戦闘員として随伴することになった。……僕は街だと大手を振って歩けないからね。人化できるツェーヴェがうらやましい。

 そのために、いろんな機能をごつモリにした装備の数々を作った。

 実際に使うことが無いことを願うばかりだけど、ツェーヴェの事前情報だとそれなりに面倒な状況らしい。というか、ツェーヴェが人相書き付きで指名手配されているらしいし。


「ツェーヴェさん、何かやったんですか?」

「単純に私が買い物する時に魔導士だと名乗るからよ~。今は戦争の準備中でしょ? 勝つためには傭兵戦力も必要になるって感じかしら」

(鍋とかが欲しいだけなのにね)

「もう、クロが作ったら?」

「ですね」

(それをお出かけを楽しみにしてるエリアナに言える?)

「……難しいわね~」


 ツェーヴェは割とノリと食欲で生きているところがあるから今更だけど、リリアさんと僕は感じた。生きていくだけとは言っても、効率を見るだけではままならないこともあるんだな~。とね。

 実際、彼女ように用意してある目立たないカラーリングながらも、可愛らしいデザインを端々に彩ってあるフード付きドレスローブを嬉しそうに見ているエリアナ。今更お出かけは中止とは言えない空気だ。日帰りとは言え、どう考えても前途多難は見えている。僕も身構えよう。

 僕の仲間と生きていくために。


 ~=~

・成長記録→経過

クロ 

オス 生後35日程~40日

主人 エリアナ・ファンテール

取得称号

・森の管理担当代理 ・蛇娘のお気に入り ・稀代の鍛冶師 ・稀代の魔道具師 ・開発王 ・お嬢様の従魔 ・森の救済者 ・迷宮の家令 ・侍従長のお墨付き

NEW ・天才錬金術師? ・ポケットinボディガード

???族

全長10㎝……身長6㎝

取得スキル

+身体強化 +技師→+開発者 +鍛冶師→+名工 

NEW +上級錬金術 +装飾 +狙撃 +狩人(+弓術 +解体術) +行商人(+交渉 +詐術 +観察)

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